患者さんやご家族はもちろん、それを支える現場スタッフもサポートしたい/介護リレーインタビュー Vol.35【保健師・看護師 馬坂陽子さん】#2
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。今回お話を伺ったのは、「社会福祉法人 春光福祉会 にしおおい訪問看護ステーション」の管理者であり、保健師・看護師として活躍する馬坂陽子さん。
前編では、馬坂さんが訪問看護の道に進んだきっかけや、それにまつわるエピソードを伺いました。
後編では、訪問看護の働き方や管理者としての思い、今後の目標などについてお話を伺います。
地域ごとにカラーが異なるのも
訪問看護のおもしろさ!
――前編では、訪問看護師になった経緯を伺いましたが、それからずっと在宅医療の現場で働いているんですか?
基本的にはそうですね。というのも、実は看護師以外の仕事もやってみたくて、関西から東京に出てきてすぐ、少しだけ医療webメディアの営業をしていました(笑)。
――そうだったんですね! どうでしたか?
全国の病院を回って院長先生に取材するっていう仕事でしたが、病院ごとの特性が見られて面白かったです! そもそも、一看護師として働いていると、院長先生とじっくりお話しすること自体なかなかないので、貴重な経験でしたね。「毎朝一番に来て外来の掃除をしているよ」っていう先生もいて、こんなすごい先生なのにそんなこともしているんだ!とか。患者さんとの向き合い方にも感化されました。結局、いろんな先生から「せっかく看護師資格持っているんだから、早く現場に戻りなさい!」って言われて、半年ぐらいで現場に戻りましたが(笑)。
――なるほど(笑)。ではその後は東京で訪問看護を?
はい。東京でもいろんな地域の訪問看護ステーションに勤めましたが、それぞれ地域性があって面白かったです。例えば港区だと、利用者さんも流動性があって入れ替わりが激しいけど、ここ西大井だと長く住んでいる方が多くてアットホーム。先生自体も先代の後を継いでいる人が多くて、患者さんもずっと同じ病院に通っているんです。もともと往診はやっていなかったけど、患者さんが通えなくなったから「じゃあ僕が行くよ」って、往診するようになった先生もいて。信頼関係が築かれているんだなって実感します。地域の特性ですね。
まずはスタッフを大切に!
それこそが患者さんの幸せにつながる
――ここでは管理者として働かれているんですよね。
はい。「にしおおい訪問看護ステーション」としては、利用者さんのところに訪問して、病院で看護師がやっているような点滴だったり、体調確認だったり、介護士ではできない医療行為を行っています。私は管理者として、スタッフのスケジュール管理や関係各所の取り継ぎ業務もあるので担当する利用者さんは少ないですが、他のスタッフのフォローに回ったりもしているので、1日の訪問件数は2〜3件でしょうか。あと、併設のグループホームに週1回訪問し、介護スタッフの医療フォローだったり医療相談に乗ったりしています。
――お忙しそうですね……。お仕事で大切にしていることはありますか?
スタッフが楽しく働ける環境をつくることでしょうか。正直、利用者さんよりも、まずは管理者としてスタッフのことを第一に考えています。それはもちろん、スタッフ一人一人が利用者さんを大切に思っているからこそであって、そのスタッフを気遣うことが間接的に利用者さんを大切にしていることになるかな、と。本当は全ての利用者さんを自分自身で訪問できたら……なんて思いますが、それは無理ですし(笑)。
――体がいくつあっても足りないですね(笑)。やりがいを感じるのはどんな時ですか?
利用者さんから「頼んでよかった」って言ってもらえたり、ドクターやケアマネさんから「一緒に仕事してよかった」って言ってもらえた時ですね。スタッフみんなでつくった実績なので、これからも守っていきたいです。
――逆に、大変だなって思うことは?
そうですね……、すごく難しい問題だと思うのですが、時には医療もビジネスとして捉えなくてはいけない局面がある、っていうところですかね。本来そんなことではかりたくないですが、利用者さんやスタッフを守るためには、施設として持続可能な生計を立てる必要がありますし。正直辛いですけどね。逆に他のスタッフがそんなことを考えなくていいように私が考えないと、と思いつつ……やっぱり難しいです。
若い人や新人看護師こそ、
訪問看護を経験してほしい!
――ちなみに、訪問看護の仕事はどんな人に向いていると思いますか?
看護師なので、やっぱり人が好きな人ですよね。中でも訪問看護師は、オペナースとかと違って、精神面の関わりがより密になりますから。毎週訪問していると、友達や家族よりも頻繁に会っていますし(笑)。その分、その人の表面や一部分だけを見るのではなく、この人がどうやって生きてきて今後どうやって生きていくか、っていうバックグラウンドも含めて理解しなくちゃいけないんです。
――なるほど、より密な関係になるわけですね。
でもそれって、看護師として働く上ですごく大事な部分ですよね。なので、若い人だったり新人看護師だったり今後の活躍が期待される方こそ、一度訪問看護の現場でいろんなことを学んでほしいです。
あと、「看護師は天職だ」と思っている人こそ、訪問看護師になってほしい!
――馬坂さんご自身の今後の目標はありますか?
まずは、訪問看護師を増やしたい! とはいえ、先ほどお話しした通り、この仕事は辛いことも多いんです。自分と同年代の人を看取った時は、仕事だと分かっていても割り切れない……。私自身、何度も心が折れそうになりました。だから、そういう思いを放出する場というか、みんなで共有することで支え合うような場を作りたいと思います。
――働いている人たちをケアする場ですね。
はい。あと、医療従事者等が集まるNPO法人でボランティアもやっているので、そこにも力を入れたいですね。みんなで支え合うというのはもちろん、医療の現場と切り離せない「死」についてしっかり議論したい。「死」って日本ではタブー化されていますが、終末期を迎える前に死と向き合うことは、逆に生きることを考えるってことなので。そういう学びの場を増やしたいです。
――辛いことですが、目を背けられない話ですね。
一時期、医療webメディアで働いていたとのも、その辺りのことをもっと発信したかったからだったりするんですよね(笑)。でも当時実感したのは、「現場をやりながらじゃないと伝わらない」ということ。なので、まだまだ現役で現場に立ちつつ、リアルな声で情報を伝えていきたいです。
利用者さんだけでなく、スタッフさんの気持ちにも寄り添う馬坂さん。「他のスタッフが余計なことを考えなくていいように」と、自ら大変な思いをされているのを聞くと、頭が下がる思いです。今後の目標を語る姿もとても魅力的でした。
貴重なお話をありがとうございました!
取材・文/児玉知子
撮影/喜多 二三雄
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