利益度外視の行動が信頼を生む。横綱のトレーナーとしても活躍「クローバー鍼灸接骨院」伊藤秀雄さん
2023年、愛知県にオープンした「クローバー鍼灸接骨院」。院長を務める伊藤秀雄さんは、力士のスポーツトレーナーとして、26年間活動されてきました。携わることになったきっかけは、ボランティアだったという伊藤さん。信頼を徐々に重ねていくことで、相撲協会のチーフトレーナーを任されたこともあったそうです。
今回、お話を伺ったのは…
伊藤秀雄さん
「クローバー鍼灸接骨院」院長/プロスポーツトレーナー、鍼灸マッサージ師、柔道整復師。登録販売者、介護支援専門員
サラリーマンをしていた20代の頃に鍼灸師になることを決意し、資格を取得。その後、柔道整復師の資格も取得し、20代後半から往診専門の鍼灸マッサージ師、柔道整復師として開業。並行して、力士のトレーナーとしても活動をしており、日本相撲協会チーフトレーナを任された経験も。2023年愛知県に「クローバー鍼灸接骨院」を開業。鍼灸、マッサージ、整体、カイロプラクティックなど、幅広い施術で対応し、患者からの信頼も厚い。治療家として27年のキャリアを誇る。
きっかけはボランティア。力士のトレーナーとして26年のキャリアを形成
――力士のトレーナーとして、活躍されていますね。どのようなきっかけで、携わることになったのでしょうか?
鍼灸師の専門学校に通っていたときに、ひとりでも多くの方の体に触る経験を積みたいと思っていたのと、僕自身ラグビーをやっていたため、スポーツに携わりたい気持ちが強くあったからです。そこでボランティアでいいので、施術をさせてもらえないかと相撲部屋に声をかけてまわり、3箇所目くらいで受け入れてもらえる部屋が見つかりました。経験も浅かったですし、まったく上手ではなかったと思いますが、熱意だけはあったので、受け入れてもらったのかもしれません。
――ほかにもスポーツが数多くあるなかで、なぜ相撲部屋を選ばれたのでしょうか。
力士の方であれば、長いお付き合いが可能になると思ったからです。ほかのスポーツ選手個人としてのお付き合いですと、引退してしまったら関係が終わってしまいますが、力士の方の場合は、親方として部屋を構えたりすれば70歳くらいまで長くお付き合いができるようになると思ったんです。ただ最初はそのような気持ちでしたが、角界にどんどんとご縁が広がり、力士の方の体の知識も集まったこともあり、自分のライフワークのようになっていきました。
――力士の方のトレーナーとして、苦労をされたことはありますか?
力士の体の状態というのは一般の方とはまったく違うので、把握するのにまずは苦労しました。また力士の多くがとても若いので、治療の重要性というものを分かっていない人が多かったですし、角界全体でも、「けがは稽古しながら治すもの」という感覚が一般的で、休養を取りながら治す概念がなかったんです。そこを分かってもらうことも大変でした。
あとは最初はボランティアとして関わっていたので、金銭的にも時間的にも余裕のない状態が続きました。自分の車で巡業に帯同したり、東京の力士の方からお声がかかれば高速バスで施術に伺うことも。ただ若手の力士をサポートして、もっと活躍してもらいたい気持ちが強かったですし、トレーナーの仕事を通して自分の技術を向上させたい気持ち、そして治療家として家族を養っていくためには、知名度を上げることも大切だと思っていたので、それをモチベーションに走り抜けてきました。
ボランティアではなく、仕事につなげる一歩ととらえる
――力士の方への施術でとくに大切にしてきたことは?
途中まで完全なボランティアだったわけですが、ボランティアであっても仕事だと思うことは意識していました。結果を出さなければ仕事につながることはないと思っていたので。 具体的に心がけてきとしては、信頼関係を作ることです。治療内容はもちろん、私生活の良き相談相手であることはとくに意識していました。そのおかげなのか、断髪式や結婚式などにも呼んでもらうことが多かったです。
――相撲協会のチーフトレーナーも経験されたそうですね。
はい。白鵬関、日馬富士関、鶴竜関などが横綱だったころに、チーフトレーナーとなり、すべての巡業に帯同できるようになりました。施術内容などはとくに変わりませんでしたが、協会から給料、宿泊や食事代などが出るようになったのは大きかったです。現在はチーフトレーナーを退いていますが、力士の方からの信頼はますます厚くなり、現在では有償でトレーナーとして活動をさせてもらっています。先日、名古屋場所があったときも、多くの力士の方が、治療院にきてくれました。
――スポーツに携わる仕事をしたいと思っている治療家は多いと思いますが、何かアドバイスはありますでしょうか。
なかなか一本でやっていくのは難しいと思うので、収入の柱をほかにも持っておくことが大切だと思います。相撲業界だけでなくほかのスポーツだとしても、プロスポーツに携われる人はごくわずかですし、たとえプロチームの専属になってもチームからもらえる給料というのはそんなに大きな額ではないはずです。ただ、特定のスポーツの分野で認知をされれば、紹介などで仕事が広がっていくきっかけにはなるので、手を抜かずに施術をしていくことが大事だと思います。
SNSの人脈を伝い、映画の撮影現場での施術も
――外部の仕事がとても多いのですね。
はい、最近では映画の撮影現場の施術にも入らせてもらっています。撮影の現場は待ち時間がとても長いですし、俳優さんにとってはかなり過酷なので、少しでも体が楽になり演技に集中してもらえたらいいなと思いながら施術を行っています。
――ちなみにどうやって、映画の現場とコネクションを作ったのですか?
SNSで、映画のカメラマンさんと知り合い、仲良くなったことがきっかけです。相撲部屋のときと同じで、この仕事も今はボランティアですが、信頼が積み重なっていけば、いつか仕事の一部になるのではないかと思っています。
後編では長く往診専門として働いてきた伊藤さんが2023年に治療院を構えた理由や、27年のキャリアの中で心がけてきたことについて伺います。後編もお楽しみに!