営業職から32歳で転職。無資格・未経験のゼロからスタート【介護リレーインタビューvol.52/ラペ二子玉川 施設長 森田拓也さん】#1
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
介護老人福祉施設 ラペ二子玉川
施設長 森田拓也さん
営業職から心機一転、2018年4月に社会福祉法人 緑樹会に転職。介護現場で経験を積み、介護福祉士の資格を取得。入職から6年目にラペ相模原の施設長に就任。2024年からラペ二子玉川の施設長に着任する。
前編では、営業職として辣腕を振るっていた森田さんが介護に携わるようになったきっかけ、入職6年にして施設長へと昇進を重ねた秘訣、介護に携わるようになって変わったことについて、お話いただきます。
妻からの「向いている」のひと言で、介護の道へ転職

以前は怒りっぽかったとか。笑みを絶やさない温和な雰囲気からは想像もできません。
――無資格・未経験で転職なさったそうですね。以前は何を?
介護とはまったく無縁の業界で営業をしていました。妻と同じ会社で働いていましたが、同時期に会社を辞めて、しばらく二人でのんびり過ごしていたんですが、「そろそろ仕事をしないとね」となって(笑)。
――なぜ介護の道に?
妻からのアドバイスです。「あなたは根が優しいんだから、介護の仕事なんてどう?」って言われて。自分ではそんなに向いているとは思わなかったんですが、妻が言うなら、「そうかもしれない」と思ってこちらの社会福祉法人に入社しました。
――前はどんな会社員だったんですか?
お恥ずかしい話、笑っていることが少なくて、常に怒っていてピリピリしていました。ほんの些細なことでも、怒っていました(笑)。妻からは「あのときは瞬間湯沸かし器のようだったよね」って、言われます(笑)。
――今の温和な雰囲気からは想像できません!
感情が先に出てしまって、論理的に考えられなくなるんですね。部下が失敗したりすると、事情や理由を聞くことなく「なんでできないんだ!」って。しかも相手に逃げ場を与えないように、どんどん追い詰めていく怒り方でしたね。
――怖いです(笑)。今はいかがですか?
今は、部下たちの話をちゃんと聞いて、自分の考えを押しつけないように注意しています。
――奥さまも以前と今との変わりように驚いていらっしゃるのでは?
そうですね。以前は仕事を家に持ち帰っていたので、会社のピリピリした状態を家にまで持ち込んでいました。今思えば、本当に申し訳ないと思っています。僕が家に帰ってまで仕事モードになっているから、僕の上司だった妻もオフモードになれない。辛かったと思います。
――今も仕事を持ち帰ることはあるんですか?
今はほとんどありません。管理者にとってスケジューリングはとても大事なことなので、時間内にきちんと終わらせるようにしています。
無資格・未経験のハンデを乗り越えるために、「観察と実践」で介護を探求

入社5年目にはチューターに任命され、歩行訓練の介助を学ぶ研修を企画。
――森田さんが入職したときの配属先は?
何の資格も経験もなかったので、まずは現場からのスタートでした。
――ということは、10代、20代の先輩たちがいて、その指示に従っていたんですね。葛藤はなかったですか。
まったくありません。自分より年下であっても年齢に関係なく先輩になるので、分からないことは何でも聞いて、教えてもらいました。
――入職からものすごいスピードでステップアップしていますよね。
1年6か月で利用者さんの状態を把握したり、必要であればご家族の方に連絡を取るユニットリーダーになりました。3年目でユニットリーダーをまとめる係長になって管理の仕事を行うようになり、5年目でチューターに任命されて、新人教育や利用者さんのケアの向上に取り組むようになりました。
――ものすごいスピードですが、どんなことを心がけていたんですか。
ユニットリーダーになる前は、自分が所属するユニットのリーダーを観察していました。自分がリーダーになったら「ここはこうした方がいい」とか。目線を変えてユニットリーダーの立場になったら「職員にどんなことを求めているんだろう」とか。いざ昇進したときに、それを実践したんです。係長のときは、施設長の動きを観察していました。それが今に活かされている感じですね。
――係長の次にチューターに任命されています。
チューターに任命されたときはいちばん大変でした。というのも、前例がなく、初めて取り入れた制度だったので、お手本がなかったんです。独学で勉強するしかありませんでした。
――具体的にチューターというのはどんなことをするんですか。
新卒でも中途でも入職した職員が、利用者さんに対して同じようにケアができるようにする研修を行います。
実は僕が入職したときはまだチューター制度がなくて、先輩たちはいろいろ教えてくれるんですが、教わる内容にバラつきがありました。人によって言うことが違うと職場環境的にもよくないし、離職に繋がることもあるんです。それで、「誰に聞いても同じように答えられるようにしましょう」ということになりました。
――初年度のチューターに任命されたんですね。
「チューターってなんだろう」というところから調べて、業務だけじゃなくて、メンタル的なケアを含めて自分たちで作り上げていきました。
6年目に施設長に大抜擢。でも今なお勉強は続く…

施設長になった今も、さらなる高みを目指しているそう。
――チューターから施設長になって、森田さんの中で変わったことはありますか。
施設長になると施設全体の管理が主な業務になりますが、職員のモチベーションを保つことも重要だと思っています。あとは方向性を決めなければいけないことですね。日々決断、判断の毎日です。
――入職したときから「施設長になる」というのは目標だったんですか。
もともと法人の経営に携わりたいと思って入職したので、施設長はひとつの通過点ですね。
――さらなる高みがあるんですね。ステップアップするにあたって、何か努力なさっていますか。
どこの部署でも上司や先輩に質問したとき、きちんとした回答がないと不安になると思うんです。ですから、なるべくその場でしっかり判断、決断できるように準備しています。
――例えば。
新聞を読んだりニュースをチェックしたり。空いている時間はほぼ勉強ですね。
――学び続けている姿勢も評価されているんですね。
ずっと営業職だったせいもあって、お給料をもらっているので、それ以上の成果を出してこそ「仕事」だと思っているんです。なので、当たり前のことをやり続けてきただけなんですけれど。
――森田さんの夢は法人の経営に携わることですが、それはどういうことですか。
施設内で完結できる問題と法人でなければ完結できない問題があるんですよね。法人が抱えている課題に対して取り組んでいきたいと思っています。
あとはお金の動きですよね。法人になると扱う金額が大きくなります。転職前は利益だけを求めてきましたが、公益法人はどんな風にお金が流れていくのかを、もっと学びたいと思っています。
営業職から介護職へ、全くの異業種から転職した森田さん。後編では、スキルアップのために心がけていた4つのこと、森田さんが考える「いい失敗」と「悪い失敗」について、これから介護職を目指す方へのアドバイスをご紹介します。
撮影/松原敬子