「支えになりたい」という気持ちがあれば未経験でも大丈夫!【介護リレーインタビューvol.52/ラペ二子玉川 施設長 森田拓也さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
介護老人福祉施設 ラペ二子玉川
施設長 森田拓也さん
営業職から心機一転、2018年4月に社会福祉法人 緑樹会に転職。介護現場で経験を積み、介護福祉士の資格を取得。入職から6年目にラペ相模原の施設長に就任。2024年からラペ二子玉川の施設長に着任する。
前編では営業職から介護職へ、全くの異業種から転職したいきさつなどをご紹介しました。後編では、スキルアップのために心がけていた4つのこと、森田さんが考える「いい失敗」と「悪い失敗」について、これから介護職を目指す方へのアドバイスをお話いただきます。
できない理由を探すより、「代替案」を用意するのが建設的

自分が提案するときだけでなく、相手を説得するときも「代替案」があると功を奏すとか。
――順調にキャリアアップを重ねていますが、特に心がけていることはありますか。
自分の中では4つのことを心がけていました。1つ目は分からないなりに、まずは自分でやってみることです。2つ目は、チャレンジしても分からなければ分かる人に聞くことですね。
――例えばどんなことですか。
分かりやすいのはパソコン関係でしょう。操作がよく分からないとき、そのたびに人に聞いていると覚えないんですよ。説明書を読んだり、自分でいろいろ操作したりしてやってみる。あれこれ工夫していると身につくようになるものです。説明書や手引き書を読み込んでも分からないときは、専門の人に聞く。労務関係だったり、行政関係のことだったり、自分の専門外のことは分からないことが多いですよね。そんなときは区役所に問い合わせたり、上司に聞いたりしています。
――なるほど。分からないまま仕事を進めてしまったら、たいへんなことになりますよね。
3つ目が周りの意見に流されず、自分の意見を持ち続けることです。そうは言っても、「人の意見に耳を貸さない」という意味ではありません。柔軟性も大事です。自分はこういう意見を持っていた。でも、新しい意見が入ってきて素晴らしいと感じた。今回は、新しい意見に乗ってみよう!というのはあっていい。ただ、みんなが「いい」って言うから自分の意見を引っ込めるとか、周りの意見に流されるのはよくないと思っています。
――そうですね。自分の意見がちゃんとあって、ブレないことは大事ですね。
あとは根拠を大事にして代替案を持って話をすることです。
よくある例えですが、部下に「あなたに任せた件、どうなってる?」と聞いたとします。そうするとだいたい「やってます」という答えが返ってくることが多いですよね。上司が知りたいのは、何を根拠に「やってる」かなんです。「こういう計画を立てていて、中期、長期的にこういう流れがあります。今は中期の目標達成のために、ここまでやりました」って答えられれば完璧です。根拠を大事にして、ちゃんと説明できるように心がけています。
――代替案というのは。
これもよくあることですが、何かをお願いしたときに「無理です」とか「できません」って言われることはありませんか。「できない」と言われたときに、自分に代替案がなければ相手を否定する権利はないと思っています。
「できない」って言っている人に無理に押しつけたら、イヤな思いが残るだけですよね。だったら、相手が「できない」と思っている理由は何なのかを探ることから始めます。
時間なのか人的サポートなのか、そこをクリアできれば先に進めます。これは部下であれ上司であれ、同じことが言えます。自分の意見を通すには、代替案が必要ですね。
――代替案は幾つくらいあるといいですか。
最低3つあるといいと思います。部下と話をするときは、「君が考えている無理って何が無理なの?」というところから、じっくり話を聞くようにしています。何かを提案したいときも、断られないように代替案を用意して臨みます。ただ、時間がないときは大変です。「今すぐ」というタイミングだと、もう頭はフル回転ですね(笑)。
――何か提案されて、森田さんご自身が「できない」と思うときはありますか。
もちろんあります。そのときは「なぜ自分はできないと思うのか」を考えます。「こうすればできる」というものがあれば提案しています。
運営はトップダウンでは無理。仲間とみんなで作り上げていくもの

介護にまつわるさまざまな情報を共有するのもチューター会議に欠かせないこととか。
――施設長になると、気軽に相談できる人がまわりにいなくなると思いますが。
そんなことはありません。困った案件があれば、「助けてほしい」って言ってますよ。施設の運営って、施設長ひとりの力では無理があります。例えば、「僕はこういう風に進めたいんだけれど、君はどう進めていきたい?」って話を聞くようにしています。相手の意見も聞いて、一緒に作っていくことを大切にしています。
――そんな上司がいたら部下はのびのび仕事ができそうですね。
どうなんですかね(笑)。僕が施設長になってから、法人の幹部から「ボトムアップ」という言葉が出てきたんです。それで、ユニットリーダーたちに「君たちはどんな介護をしたいのか」を聞いて、ユニットごとに目標を立ててもらいました。その目標を達成するには、何をすればいいのかを考えて行動するようになりました。どこの誰か分からない人が立てた計画を、ワケも分からず達成するよりもずっとやる気になりますよね。ありがたいことに、みんな頑張って目標達成するように頑張っています。
――介護の道に進んで「辞めたい」と思ったことはないんですか?
ないですね。転職するときに「人生最後のチャレンジをしよう!」と思っていましたから。
辛いと思うことは何度もありました。例えば元気のない利用者さんにどうお声がけすればいいのか、ただお話を聞くだけでいいのか。言葉も思いつかず、僕にまだ知識がないときは辛かったですね。
――そういった辛い思いを、どうやって乗り越えたんですか。
無理に忘れようとしないで向き合うことです。乗り越える必要はないと思っています。一緒に生きていく覚悟を持つことが大事なんじゃないでしょうか。同じようなことが起きたとき、その経験を活かして、次の人を少しでも助けることができれば、辛い思いも活かされますよね。
――職員に対してはどうですか。「あの人はなんか辛そうだな」って感じたときはどうしますか。
表情や声のトーンで何となく分かりますね。そんなときは、「どうした?」って話を聞くようにしています。僕が解決できることであれば対処しますし、僕の出番じゃないときは係長に対処するように伝えます。僕自身「こんな上司がいたらいいな」と思っていたことなんですが、なかなか全てを見切れないですね。
――最後に、これから介護職に就こうとしている方にアドバイスをお願いします。
ミスマッチを防ぐためには施設見学をお勧めします。「施設とはどういうところなのか」、「どのような仕事をしているのか」をご自身の目で確かめてください。未経験であっても尻込みせず、まずは飛び込んでみてください。どれだけ入居者のことを考えてコミュニケーションを取りながら支援できるかが何よりも大切なこと。経験が全てではありません。人と人をつなぐ「思いやり」に長けた仕事だと思います。
森田さん流! 施設長の心得三か条
1.どんな問題にも対応できるように、日々勉強を欠かさない
2.「できない」をそのままにせず、できない理由を考えて実行にうつす
3.相手の話をよく聞いて、考えや想いを具体化するように心がける
撮影/松原敬子