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ヘルスケア 2025-02-03

「明日からがんばろう!」という気持ちになってもらうのが介護美容【もっと知りたい!「ヘルスケア」のお仕事Vol.168】ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー主宰 西井智香さん#1

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロのお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい!ヘルスケアのお仕事」。

今回はビューティタッチセラピストとして介護施設でスキンケアやマッサージの施術、地域のお年寄りのためのスキンケアやメイクの教室を開催するほか、セラピストを育成するインストラクターとしても活動している西井智香さんにお話を伺います。

前編では、専業主婦からセラピストになるきっかけ、「介護」に特化したセラピストになったいきさつ、セラピストからインストラクターを目指すようになった出来事についてお話いただきます。

お話を伺ったのは…
ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー 主宰
西井智香さん

1993年にナリス化粧品でエステティシャン資格を取得し、赤坂にサロンを開設。2015年に一般社団法人日本介護美容セラピスト協会のビューティタッチセラピスト(介護美容セラピスト)の資格を取得し、2019年にはインストラクターの資格も取得。2023年に赤坂より西東京市に拠点を移し、「ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー」を開設。介護施設にて介護美容を実践するかたわら、ビューティタッチセラピスト育成講座を開催している。

夫の「キレイになるならいいじゃない」のひと言が後押しに

エステティシャンとしての資格「シデスコ」のほか、日本介護美容セラピスト協会の認定資格も取得。

――西井さんはもともと美容業界にお勤めだったんですか?

学校を卒業してからずっと秘書をしていました。結婚を機に仕事を辞めて専業主婦になりました。

――それがなぜ美容の世界に?

ナリス化粧品を買っていたお友だちが転勤で引っ越すことになって、「私の代わりにあなたが化粧品の販売をやったら?」って言ってくれたんです。ちょうど子どもが幼稚園に通うようになって手が離れたときで、私も肌の衰えが気になり始めたところだったので、これは渡りに船だわ(笑)と。化粧品を販売するだけではなくて、お顔のマッサージもあるので、いろいろ勉強したら私もキレイになれると思ったんです。

――それは渡りに船ですね(笑)。

夫に「やってみたい」と相談したら、「キレイになるんだったら、いいんじゃない」って賛成してくれたんですよ。その当時、夫は深く考えていなかったでしょうけど、今はその一言を後悔していると思いますよ(笑)。

――技術をマスターしてからは?

お友だちのパートナーが赤坂に完全個室の歯科クリニックをオープンしたんです。歯科医は彼女のパートナーだけで歯科衛生士もひとり。個室が余っているから、ひとつ貸してあげるって言ってくださったんです。

サロンをつくるなら広々とした立派な施設って考えるじゃないですか。でも、私の師匠が「エステティックは一畳分のスペースがあれば十分」って言っていたのを思い出して、さっそく間借りすることにしたんです。

――歯科医とセラピストの組み合わせもユニークですね。

歯科クリニックって入口のところに、資格の認定書がたくさん貼り出されているでしょう? それを見て、私も貼り出した方がいいのかしらって思ったんです。それもあって国際的にも通用するシデスコの認定資格も取得しました。

――お嬢さんはまだ幼かったですよね。

この仕事を始めるまでは専業主婦でしたが、自宅でデータ入力の仕事もしていたんです。締め切りが近くなると、子どもに声をかけられても「ちょっと待ってて!」ってガマンさせることもありました。美容の仕事にはキレイになるイメージがありましたし、子どもに「待ってて!」って言わなくても済むと思ったんですね。

女性は何歳になってもキレイでいたい! それを知って介護美容の道に

――赤坂では一般の方を施術なさっていたんですよね。なぜ介護美容の道に?

今から30年近く前の話ですが、夫の祖母が入院していた病院にお見舞いに行ったんです。「みんなで写真を撮ろう」という話になったとき、祖母が私に「コンパクトある?口紅も貸して」って言うんですよ。93歳でしたけど、写真を撮る前には身繕いをしてお顔も整えたかったんですね。年齢に関係なく、女性はキレイであり続けたいんだなと実感しました。私のエステティシャンとしての最終地点は、高齢者への美の提供なんだと思ったんです。

――最終的には高齢者の美容ということを考えながらお仕事をなさっていたんですね。高齢者と一般の方とでは何が違うのでしょうか?

一般の方ですと、1回の施術でキレイにして差し上げるのが最終目的です。サロンにいらしたときとは違う自分になってお帰りいただくのが目的なんです。お帰りになるとき、「今の状態を保つためにお家でもきちんとケアしてくださいね」というお話もします。

――確かに、サロンに通うのはキレイになるのが目的ですね。

でも、高齢者の場合、「生きていてよかった」というのを実感していたくのが目的なんです。今日、これだけ施術してもらって、明日から頑張ろう!って気持ちになっていただけたら最高ですね。そのためにはただ施術をするだけではなくて、お話をいっぱい聞いて差し上げなくてはいけないし、おっしゃることを受け止めなくてはいけません。キレイになるよりも、まずは前向きな気持ちになることを優先します。

――なるほど。奥が深いですね。

施術が終わると、どなたも「ありがとう」とおっしゃってくださいます。でも一般の方の場合、キレイになったご自身を目で確認したから出る言葉ですよね。でも、この仕事は視力が落ちて目がよく見えない方からも「ありがとう」っておっしゃっていただけるんですよ。セルフエステのマッサージを一緒にやったとき、その方は「目が見えないから、鏡を見てもキレイになったのが分からないが悲しい」っておっしゃったんです。でも周りから、「キレイになったね」って言われて嬉しく思ってくださったんでしょうね。気持ちが元気になっていただけたんですよ。「また一緒にお手入れしましょうね」ってお誘いしたら、「そうね」って。

――高齢になると、キレイって言われる機会は減りそうですよね。

いろんな人から「キレイになったね」「キレイだね」って褒められると、お手入れした達成感もあるんでしょうね。

――西井さんは今、現場で介護美容をなさっていますが講師もやっています。それはどうして?

赤坂のサロンで一般の方の施術をしながら、介護美容のビューティタッチセラピストもしていてかなり忙しかったとき、駅の階段でつまづいて足を複雑骨折してしまったんです。完治するのに7か月もかかったんですよ。私たちの仕事は信用が大事。それなのに仕事に穴を空けてしまうなんて、もってのほかですよね。そろそろ現場に出る仕事を減らしていこうかな…と思ったタイミングで、「講師をやらないか」というお話をいただいたんです。

――それはナイスタイミングですね。

実は私、元気なのは右手だけなんですよ。右足も左足も骨折したし、左手は亜脱臼、腰は椎間板ヘルニアだし。ケガもきっかけになりましたが、女性は40代、50代、60代と歳を重ねるごとにやれることが少しずつ変わってきます。そのたびに「それならこういう風に変えていこう!」と方向を変えていった結果です。

――ご自身もそうですが、お客さまも変わっていきますよね。

そうですね。私が始めた頃のお客さまは娘のママ友がほとんどでした。それからブライダルが増えた時期もありましたね。自分が歳を取ると親世代が高齢者になり、お客さまも同じように歳を重ねていらっしゃいます。そう考えると、セラピストという仕事は「定年だから終わり」ではなくて、ずっとやり続けられる仕事なんですよね。いい仕事だと思います。

専業主婦から美容の道へと進んだ西井さん。後編では介護美容の具体的なお仕事内容について、最大のピンチだったこと、これから介護美容を目指す方へのアドバイスなどをご紹介します。

撮影協力/(一社)日本介護美容セラピスト協会 

撮影/森 浩司

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ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー
Instagram
住所:東京都西東京市南町3-1-6 レジデンス一直202

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