どんな職種の方にも介護美容はきっと役立つ!【もっと知りたい!「ヘルスケア」のお仕事Vol.168】ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー主宰 西井智香さん#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロのお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい!ヘルスケアのお仕事」。
前編に続いてビューティタッチセラピストとして介護施設でスキンケアやマッサージの施術、地域のお年寄りのためのスキンケアやメイクの教室を開催するほか、セラピストを育成するインストラクターとしても活動している西井智香さんにお話を伺います。
専業主婦から美容の道へと進んだ西井さん。後編では介護美容の具体的なお仕事内容について、最大のピンチだったこと、これから介護美容を目指す方へのアドバイスなどをご紹介します。
お話を伺ったのは…
ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー 主宰
西井智香さん
1993年にナリス化粧品でエステティシャン資格を取得し、赤坂にサロンを開設。2015年に一般社団法人日本介護美容セラピスト協会のビューティタッチセラピスト(介護美容セラピスト)の資格を取得し、2019年にはインストラクターの資格も取得。2023年に赤坂より西東京市に拠点を移し、「ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー」を開設。介護施設にて介護美容を実践するかたわら、ビューティタッチセラピスト育成講座を開催している。
介護施設や個人宅に出向くほか地域の老人会など活動の場はいろいろ

介護施設でレクリエーションの時間を利用して行われたスキンケア教室のひとコマ。
――西井さんはどんなところでお仕事をなさっているんですか?
介護施設には利用者のみなさんのためのレクリエーションの時間があるんです。その時間を利用してスキンケアやマッサージをやったり、ハンドマッサージをしたり。リクエストがあれば個別にお顔やフットのマッサージをすることもあります。
――施設でのお仕事は月に何日くらいですか?
月に11回のペースです。施設以外でも個人のお宅にお邪魔してスキンケアやマッサージのお手入れをすることもあります。
ほかには地域の老人会など地域の集まりでスキンケアの講習会を月に2回開いています。
――老人会ですか。
一人暮らしの方がけっこう増えているんですよ。誰とも話をしない、食事をするときもひとりきりっていう方が多いですね。でも、おしゃべりしながらお手入れしていると、自然と会話が弾んでみなさんすごくいいお顔になってます。
――老人会だと男性の方もいらっしゃいますよね。
いらっしゃいますよ。おでこが広くなってしまった方もいて(笑)、「僕の顔はココまでなんだよ」なんて冗談をおっしゃりながらお手入れなさっています。男性陣も女性たちがキレイになっていくのをご覧になると、やっぱり嬉しいんでしょうね。「キレイになったな」なんておっしゃってますよ。
――いい雰囲気なんですね。
お年寄りの中に「いつも食事は一人っきりだから食欲がない」っていう方がいたんです。その方のために、「私もお弁当を持ってくるから、ここで一緒に食べよう」ってご提案することもあるんですよ。
――相手のことを思いやる気持ちも必要なんですね。高齢になるといろいろ不自由な部分がでてきますよね。そんなときはどうするんですか?
例えば施設で教室を開くときは、参加する方について情報を集めます。右の耳が聞こえにくい方なら左側でお話をするようにするとか。ハッキリした言葉でお話をするようにしています。お宅を訪問するときは、ご家族とか介護している方に様子をうかがいます。
――介護美容に携わって、「これは困った!」ということはありましたか?
奥さまが寝たきりのパートナーから介護美容のご依頼があったんです。奥さまは手が硬直していて動かせないのは伺っていました。お宅にお邪魔して、「手が硬直しているならハンドマッサージをしましょう」とお伝えしたんですが、硬直だけじゃなくて脱臼もしていらしたんです。
――それは痛そうです!
しかも奥さまは気管切開をしていたのでお話もできなくて。何をしたら奥さまのためになるのか、本当に悩みました。「痛みのないようにハンドマッサージをしましょう」ということになりました。私は奥さまの表情を読み取れませんでしたが、パートナーからは「気持ちいい顔をしている」、「すごく喜んでいる」っておっしゃって。「次はお顔のマッサージをしましょうね」って約束をしました。
――次の予約が入るっていうことは、満足なさったんでしょう。
お顔のマッサージをした後はお化粧までするんですが、そうすると介護士の方が化粧を落とさなくちゃいけません。そんな負担をかけてはいけないので、マッサージとスキンケアだけにしました。パートナーからは「喜んでいる」っておっしゃっていただけました。
介護も美容をベースにすれば、どんどん道は広がる!

西井さんの「ヒーリングルーム・ソワン・デュ・コー」は、ネイリストのお嬢さんと二人三脚。
――こちらのサロンはお嬢さんとお二人で経営なさっているんですね。
娘はネイリストをしていて、子育てが落ち着いてきたので「二人でサロンを開こうか」という話になり、2023年に赤坂にあった私のサロンを閉じてこちらに移りました。実は娘もビューティタッチセラピストの認定を受けているんですよ。ただネイリストなので爪を伸ばしていなければいけないので、マッサージなどの施術はできないんですけど。
――そうなんですね。それは頼もしい!
こちらに移転してからここでセラピストを養成する講座を開いているんですよ。
――どんな方がいらっしゃるんですか?
「介護美容を専門に」という方より、2つ目のお仕事として兼業しようと考えている方が多いですね。例えば訪問看護師の方は、診察の合間にスキンケアやマッサージをしたいっておっしゃっていました。
――専門知識が増えれば怖い物ナシですね。
介護美容って、介護予防にもいいんですよ。介護を受けない身体を作るための体操とか、よく聞きますでしょう?それの美容バージョンです。介護になっていない元気な高齢者にスキンケアやマッサージを教えることで健康寿命も延びるそうですよ。
――西井さんの講座を受ける方の年齢はどのくらいですか?
若い方から70代の方まで幅広いですね。今、65歳まで定年が引き上げられましたが、まだまだその年代はお元気ですよね。元気な方はちゃんと自分のお金で稼いで社会参加を続けてもらいたいですね。介護業界は人手不足です。資格がなくてもできる仕事はたくさんあります。介護業界の一部に介護美容セラピストが活躍できる場を今まで以上に広めていきたいと思っています。
――介護美容を目指そうという方にアドバイスをお願いします。
施術をしたり、レッスンをしたりした後には必ず、「笑顔」と「ありがとう」の2つをいただけます。たとえ第一印象がよくなかった方でも、最後にご挨拶するときには心が和んでこの2つをいただけるんです。この2つがあると、イヤなことや辛いことがあっても「またがんばろう!」という気持ちになれます。
この先、私たちも歳を重ねて、どんな高齢者になりたいか、病気になったらどんな患者でいたいかを想像すると、この仕事は続けていけると思います。
西井さん流! セラピストとして長く続けるポイント
1.施術やレッスンの後、前向きな気持ちになってもらえる努力をする
2.身体の具合や体調を細かく聞いて、参加者に疎外感を抱かせない
3.利用者が「心地いい」「楽しい」と感じる環境をつくること
セラピストを育成する講座を開催することで、仲間を増やしている西井さん。「もし、私に何かがあっても変わってもらえる安心感があります。仲間がいるとみんな安心して仕事ができるんですよね」とのこと。介護美容の輪は少しずつ、全国に広がっているようです。
撮影協力/(一社)日本介護美容セラピスト協会
撮影/森 浩司