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特集・コラム 2019-08-27

私の手にしかできない仕事 Work.1/株式会社un.代表・湯浅一也、訪問美容師・若菜香織(前編)

「ママになってもサロンワークを続けられる場所。それが、un.」

「訪問美容サービスの力で、お客さまの『当たり前』のことを『当たり前』にかなえていきたい」。訪問美容「trip salon un.」(トリップ サロン アン)を手掛ける株式会社un.・代表取締役社長、湯浅一也さんの言葉です。

介護が必要になっても、介護を必要としていなかったときと同じ風景で過ごせるように——。湯浅さんとun.スタッフの若菜香織さんは、今日もun.の企業理念でもある「あたりまえのことをあたりまえに」の姿勢で、「私の手にしかできない仕事」に汗を流しています。

——湯浅さんが美容師になろうと思ったきっかけを、教えてください。

湯浅さん 僕が美容師を志したのは、中学校2年生のときです。それまで床屋に通っていたんですが、完成するヘアスタイルがずっと「坊ちゃん刈り」だったので、学校に行くのが嫌でした。そこで「髪形をおしゃれにしたいな」と思い友達に相談をしたら、美容室を紹介されたんです。

初めて美容室に行ったときはかなり緊張して、20~30分くらい、入り口でしどろもどろしていましたね(笑)。(自分の顔を指差しながら)僕はこんなビジュアルなのに、元・SMAPの木村拓哉さんの切り紙を持って行って、「こんな感じの髪型にしてください」とお願いして(笑)。担当してくれた女性の方がリラックスさせてくれるトークや接客をしてくれたこともあって緊張が解け、「美容室は落ち着く空間なんだな」と感じたことを覚えています。美容室の香りも、忘れられません。初めて出会ったシャンプーやワックスの心地良い香りも含め、美容室、でした。

カットした結果は……髪型は、すっごいキムタクになりましたね(笑)。そして、なぜかカットされる前より「学校に行きたいな」って思えたんです。そのとき、「外見も内面もプロデュースする美容師になるぞ」と決めました。生まれ故郷の北海道にいた頃、すすきのでラッパーをやっていたんですが、実際、ステージに立つ前に美容室で髪形をキメていくと、不思議とモチベーションとステージング(ステージでの立ち振る舞い)の質が上がったんですよね。髪形一つで人にそういった前向きな変化を与えられる美容師は、本当にかっこいい職業だなって。

trip salon un.湯浅一也

——なぜ、一般的なサロンではなく、訪問美容の道を志したのでしょうか?

湯浅さん 自分が住んでいた北海道のある地域は高齢者の方が多く身体が不自由な方もいたので、どうやって美容室に行っているのか、ずっと疑問でした。そこでインターネットでいろいろ調べてみると、「訪問美容」というものがあるらしい、と。それが訪問美容との初めての接点ですね。

それから5年ほどが経過して、原宿のサロンでスタイリストとして仕事をしていたとき、3名のお客さまから立て続けに「お母さんが変な髪形にされちゃったのよ。あんたが家(うち)に来て髪を切ってくれない?」と相談を受けたんです。それで「確か5年ほど前、訪問美容のことを調べたよな」と思いながら再度、訪問美容の情報を探してみたら、悪い意味で何も変わっていなかったんですよね。到底、自分の母やおじいちゃん・おばあちゃんに勧められるような内容ではありませんでした。率直に、「訪問美容業界、まずいよな」と思ったんです。同時に、元々抱いていた社長になりたい・起業したいといった野心も相まって、「自分だったら、訪問美容業界を変えられるかもしれない」という妙な自信が湧いてきました。その後、運悪く勤めていた美容室が倒産したこともあり、2012年8月、訪問美容に特化した株式会社un.を創業することにしたんです。

trip salon un.若菜香織

——そのun.に4月に入社されたのが2児のママでもある若菜さんですが、入社の決め手は何だったのでしょうか?

若菜さん un.に決めた大きな理由は、湯浅の言葉「訪問美容は、とてもクリエイティブな仕事なんだよ」がすごく印象深かったからです。

私はヘアサロン出身なので、クリエイティブさが問われるサロンワークがすごく好きなんです。でも、30歳を過ぎて子どもの人生を第一に考えたとき、仕事と子育てを両立することのハードルの高さも感じていましたし、何よりサロンワークへのこだわりもまだありました。だから、訪問美容の存在自体は知っていたものの、一歩が踏み込めないというか、まだその場所に行かなくてもいいんじゃないかって思う自分がいて……。

けれども、先ほどの湯浅の言葉を聞いたとき、「何もヘアサロンだけがクリエイティブなわけじゃない。訪問美容もクリエイティブなんだ」と解釈が変わりました。実際、現場で働いてみると、例えばun.で長く勤めている方が社員同士のLINEで自身が手掛けたヘアの写真をシェアしていたり、「こういったヘアもすてきですよ!」というふうにカットを紹介したりしていたんですね。そういったやり取り自体はヘアサロン時代に経験があったのですが、今まで出会ってこなかったようなお客さまが対象だったのでとても新鮮に見えましたし、そこにクリエイティブは確かに存在するなと感じました。

一方で、訪問美容のお客さまは病気を患っていたりお身体が不自由だったりする場合があるのですが、その人の骨格やライフスタイルなどに配慮してカットをすることはサロンワークと同じだなと思ったんです。「クリエイティブな視点を持ち続けられる」「ママになってもサロンワークを続けたい」。un.に、その気持ちを捨てずに働ける場所と幸せがあることがわかって……ホッとしましたね。

trip salon un.湯浅一也

湯浅さん 以前、「訪問美容やるの? お客さん、若い人の方がいいじゃん」と言われたことがありました。訪問美容=ダサい。そういった偏見も、まだあります。でも、訪問美容はすごいかっこいい仕事だし、今の若菜さんの言葉に付け加えると、サロンワークよりクリエイティブな仕事です。

事例を挙げると、「要介護5」で意思疎通も大変な方が訪問美容を受け始めてから1年後に「要介護2」「要介護3」になったケースがあるんですよ。きっと、きれいになり夢のためにリハビリを頑張る意欲が湧いてきたからだと思うんですよね。訪問美容がきっかけで人生を楽しく過ごせるようになる、心のスイッチを入れられる。これって、とんでもなくクリエイティブだと思いませんか? 訪問美容は、僕が美容師になりたいと思った原点が実感できる仕事です。

——若菜さんが感じる「un.で働くことの魅力」について、教えてください。

若菜さん 湯浅を含むun.の社員さん全員、「私はこんなことをやりたいんです」と提案したことを常に応援してくれます。どんな提案に対しても、「いいじゃん、いいじゃん! 絶対できるよ!」「若菜さんが考えたことなら、実現できる!」って言ってくれるんです。提案する前の企画書を作成する段階でも、企画が通るように全力でサポートしてくれますし。

私はサロンワークしか経験がないので企画書を一つつくるのも一苦労で自信もないのですが、そんな私に「自分がつくった企画を湯浅が採用してくれるかもしれない」と思わせてくれる環境が自分のやりがいにつながっていますし、放任もなく一緒にやってくれるんだという安心感が「会社のために、一生懸命頑張ろう」と思える源になっていますね。

trip salon un理念

湯浅さん (若菜さんの話を聞いて)いやー、泣けてきますね(笑)。でも、うれしいです、本当。

入社してくれた人たちの意見は、会社のガソリンなんです。会社が大きくなっていくために必要不可欠なものなので、一人ひとりの声を受け止めて、しっかりと形にしていきます。自分で企画を立案して、提案して、それが通って実現するって、一般的にはあまりないケースじゃないですか? 企画をカタチにするまでの過程と継続も大変ですし。良い意味で会社を使って、その楽しみや苦しみを、みんなには体感してほしいなと思います。

若菜さんが会社に提案した企画内容に触れる後編では、un.での一日の流れや休日の過ごし方などについて、聞いてみました。

後編に続く
>>私の手にしかできない仕事 Work.1/株式会社un.代表・湯浅一也、訪問美容師・若菜香織(後編)

Information

trip salon un

訪問美容サロン trip salon un.

2012年8月に開業。病気やケガで満足に動けない方や高齢者や妊婦といった外出が困難な方にヘアカット、カラー、パーマ、ネイルアートなどの訪問美容サービスを提供している。業界全体のサービスや技術の向上を目的に、全国展開も推進。代表取締役社長の湯浅一也さんは講演会やテレビ東京系列の番組『ワールドビジネスサテライト』をはじめとするメディア出演でも注目を集めている。

URL:http://c-b-un.com/

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