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介護・看護・リハビリ 2025-08-14

自分らしい人生を取り戻す瞬間を隣で見られる。ウェルビーイングに貢献できることが大きなやりがい【介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画  社会福祉士/地下有可里さん】#2

業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画」。

今回は日野市の健康福祉部セーフティネットコールセンターの副主幹として働く、地下有可里(じげゆかり)さんにお話しを伺います。

前編では地下さんが日野市役所に入庁したきっかけや、社会福祉士の資格を取得した経緯について伺いました。

後編では地下さんが実際に立ち上げた施策や、仕事のやりがいについて伺います。施策や仕組みを作り、それが必要な人に届くこと。そしてその人が自分らしい人生を取り戻し、一歩を踏み出す瞬間を見たときに、地下さんは大きなやりがいを感じるといいます。

お話しを伺ったのは…

日野市 健康福祉部

セーフティネットコールセンター 副主幹

社会福祉士

地下有可里さん

大学卒業後、インド放浪を経て企業に就職。しかし利益優先の考え方になじめずに退社。その後、図書館司書の資格を取得し、図書館司書として大学、公共図書館、公共図書館の運営を行う企業の講師として幅広くキャリアを積む。2018年、日野市役所入庁。現在は自身が暮らす三鷹市の地域活動にも力を入れており、PTA副会長として、学校と地域をつなぐ活動や少年野球チームでの活動などを行っている。

ひとり親支援やひきこもり対策など、さまざまな施策を立ち上げ

これまでに立ち上げた、さまざまな施策について説明する地下さん

――今所属されているセーフティネットコールセンターで作った、施策や仕組みを教えていただけますか。

立ち上げた事業はいくつかあるのですが、代表的なもののなかからご紹介すると、養育費確保サポート事業です。ひとり親世帯では、養育費をもらえていないために経済的に困窮しているケースが多く見られます。離婚をする際に夫ときちんと協議せずに別れてしまった、協議はしたけれど実際に支払われていないというご家庭がとても多いんです。

そこでそういった困りごとを抱えた方が養育費の請求をしたり、これから離婚を控えている人がどのように手続きを進めればいいかを知るために、専門知識を持った弁護士さんと無料で相談ができる制度を作りました。またこの制度は2本柱になっていまして、裁判や調停を起こす際の費用を助成することもできます。

――ほかに、立ち上げた事業は?

最近力を入れているのが「ひきこもりUX女子会」という、ひきこもり状態の方や生きづらさを感じる女性限定の当事者会です。この会は「一般社団法人ひきこもりUX会議」という団体が主体となっており、自治体と協働する形で東京の各地で開催されています。

元々、ひきこもりの方や生きづらさを抱えた方が地域に集まる場を作りたいという思いがあり、日野市の西平山という地域で「たきあいあい」という居場所事業を行っていたのですが、ここに来る方は男性がほとんどでした。他市の状況を伺ったときに、女性はこういった場所に来ても委縮してしまうことがあるし、なかなか自分の気持ちを話しづらいということがあると聞いて。女性にとって心地よい居場所が築けないかと探していたときに「ひきこもりUX女子会」の存在を知り、日野市として名乗りをあげました。

この集まりが特徴的なのは、東京都の広域連携事業に指定されていることでして、今年は10の自治体で行われています。日野市の住民の方は日野市で開催される際に参加できるのはもちろんのこと、近場では参加したくないという方はほかの自治体の開催時に参加することが可能です。ひきこもりの経験者による体験談や、当事者や経験者のみのグループトークを行うことで、自分の思いを伝えたり、つながりが生まれたりする場になっています。

相談者の声を大切にしなければ、本当に必要とされる施策は作れない

マネジメントの仕事が忙しくなっても、支援を必要とする人の声を聞く機会を大切にしているという地下さん

――仕事のやりがいを感じるのは、どんなときでしょうか?

仕事によってさまざまですが、ひきこもり状態の方への支援でいうと、支援を求めている方、支援が必要だとは気づいていないけれど苦しんでいる方が、支援を通じて自分らしい人生を取り戻している瞬間を横で見ることができるということが、とてもうれしいと感じます

そのうれしさのなかには自分の持っている知識や経験、仲間の協力など、すべてを総動員して制度を作ることの面白さもありますし、作った制度がしっかりと必要としている人に届いて、何らかの影響を与えることができるというやりがいも含まれています。仕事をしていると、やはり私は純粋に制度や施策、仕組みを作るのがやはり好きなんだと感じます。

――仕事をするうえで、心がけていることは?

現場に立ち続けることです。私は今マネジメント的な仕事が大半を占めてはいるのですが、窓口に立ったり、アウトリーチという形で相談者の方のご自宅に足を運ぶこともあります。

私の持論として市役所のなかで会議だけをしていても、机上の空論になってしまって、本当に必要な施策を生みだすことはできないと考えています。やはり現場に足を運んで、ご本人やご本人の周りの支援者さんのお話を聞いたうえで、施策を組み立てることが本当に大事なことだと思うんです。こういった機会はこれからも大切にしていきたいです。

市民の方たちのウェルビーイングを、少しでも高めていきたい

地下さんの仕事の原動力についても伺った

――行政のお仕事は大きな責任が伴い、大変なことも多いと思いますが、どんなことがモチベーションになっているのでしょうか。

自治体の仕事は住民の福祉の向上、つまりウェルビーイングを高めるというのが使命なのですが、そういった瞬間を少しでも生み出したいという気持ちが原動力になっていると思います

また最近ではマネジメントを通して、部下や同僚が成長したり、変わっていく姿を見ることに仕事の醍醐味を感じる瞬間も増えてきました。ここ最近はとくに自分が前に出て制度や仕組みを立ち上げるのではなくて、部下が中心となって取り組んでもらい私はそれをサポートするということを大切にしていまして、一緒に仕事をしているメンバーの成長を感じています。

――今後の目標は。

実はこれまで仕事に振り切った人生を送ってきまして。日野市でも地域の活動をするなど、仕事と趣味があまり明確に分かれていない状態だったんです。ですが子どもが小学校5年生になり、大きくなったからこそ逆に近くで成長を見守らなければならない時期だとも感じています。今後、少し家庭で過ごす比率を増やしていこうかと、そのバランスを模索しているところでもあります。

それに伴って、子どもの周りの環境、学校でのPTA活動や少年野球の世話役など、自分の子どもだけでなく、地域のなかで見守られながら健やかに暮らしていける子ども達が増えたら、という思いもあるので、地域の活動には引き続き力を入れていきたいです。

もちろん今後も仕事にもしっかりと取り組み、関わる人のウェルビーイングを高めていければと考えています。


私たちの身近にありながら、その全貌が見えづらい行政の仕事。ですが地下さんのお話しを聞き、行政の仕事の多くが「困っている人を助ける」という純粋な思いで作られていることが感じられ、温かな気持ちになった取材でした。バイタリティーあふれる地下さんの今後に益々注目したいと思います。

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日野市役所
住所:東京都日野市神明1-12-1
電話:042-585-1111

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