技術職にゴールなし!つねに最新・最高の技を求め続けること【介護リレーインタビューvol.65/訪問美容師 嘉川安希子さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
出張ビューティーサロンKIKO 代表
嘉川安希子さん
’05年に日本和装教育協会認定 師範取得を皮切りに、’11年には廬 和枝氏に師事してへアとメイクアップ技術を学ぶ。’17年には美容師免許の取得と福祉車いす着付け師の上級認定を受ける。翌年に介護職員初任者研修を修了すると同時に、訪問美容・介護美容師として活動を始める。
前編ではたまたま着付けの技術を学んだことから美容、そして福祉の世界へと道が広がっていった様子をご紹介しました。
後編では、美容師免許を取得したいきさつ、カット技術を磨くためにいわゆる1000円カットの店で修業したこと、訪問美容に携わるようになって心がけていることなどをご紹介します。
体調が悪くて美容室へ行けない…この経験が訪問美容のきっかけに

美容を通して、心の元気のきっかけになるように施術しているそう。
――美容免許を取ったのは、着付け師として活動を始めてからなんですね。
メイクや簡単なまとめ髪はできるようになりましたが、美容の基本的な知識や技術がなくて。やるならしっかり学びたいと思っていました。仕事として訪問美容はもちろん、ヘアメイクをやっていくには美容師免許が欠かせないと思って40歳を過ぎてから通信教育で資格を取りました。
――よく決心しましたね。
私自身の経験もあったんです。髪を切りたいけれど免疫力が下がっているから人混みにはいけない。人に会うのもおっくうだし、病気のことをいちいち説明するのもイヤ。その当時は「訪問美容」があることを知りませんでしたから、髪が伸び放題になってもずっとガマンしていたんです。
――そうだったんですか。
私と同じような気持ちの方がいらっしゃるなら力になりたい!と思って、資格を取りました。
――資格を取っても、実際にカットするには経験がないと怖かったでしょう?
そうなんです。国家試験に出るスタイルのカットしかできない状態でした(笑)。勉強するにはサロンで修業しなければいけませんよね。とは言っても40歳過ぎで、しかもサロン経験がない私を雇ってくれるサロンはないし、病気のことがあるので無理はできないし。
――サロンに就職するとアシスタント期間が3年ほどありますよね。
それでは時間がかかるし、身体への負担が大きすぎると思っていました。しかも、私は訪問美容をやりたかったので老若男女の髪を切れるようになりたい。それで、カットの講習会に参加したとき、講師の先生に相談したんです。そうしたら美容師を専門にリクルートしている会社を教えてくださって、すぐにたくさんの人をカットできて、しかも時間的に融通が利くサロンを紹介してもらえました。
――そんなサロンが!?
スーパー銭湯にあるサロンで、いわゆる1000円カットのお店です。店長も副店長もすごくいい方で、「給料は最低労働賃金だけど、その代わり責任を持ってカットができるように教えます」とおっしゃったんです。私の病気のことも、結婚していることも分かった上で、雇ってくださいました。
――そこへはどのくらいのペースで通ったんですか?
週3日です。私の中で1000人カットすることを目標にしていて、2年ほどでクリアできそうだったんです。そうしたらコロナの緊急事態宣言ですよ。カットのペースがガクッと落ちて3年かかってしまいました。
――コロナはすべての計画に影響を与えましたね。
でもね、3年働いたおかげで管理美容師の資格を取ることができました。ある意味、ちょっといい方向にいきました。
5分でも10分でも、病気や障がいのことを忘れてほしい!

発症から5~6年は病気に囚われて、「病気のための人生」だったとか。
――美容免許を取ってから、活動場所は広がりましたか?
免許を取る前も個人宅や結婚式場、美容院、介護施設で仕事をしていたので「場所」は変わりません。でも、免許を取ってから仕事の幅が広がりました。発達障がいをお持ちの方、かつての私のように外出できない事情のある方に関わるようになりました。
――着付けもメイクもヘアカットもできる方は珍しいのでは?
そうですね。入学式に参列するお母さまのお支度で伺ったら、「病気で外出できない家族の髪を切ってほしい」という依頼がありました。そのほかにも、私がご自宅を訪問すれば、わざわざ美容室へ行かなくて済むので、七五三や初宮のお支度など小さいお子さんがいるご家庭では喜ばれています。
――施術をするとき嘉川さんが心がけていることはありますか?
ほんのひとときでも、病気や障がいなど辛いことを忘れていただければな…と思っています。「大変ですね」なんて不用意に言葉をかけてしまうと、「あなたなんかに分かるわけない!」って、ピシャッと言葉が返ってくることもあるので、「今、この方はどんなお気持ちなのか」、「どんなことをしてほしいのか」を探るため頭はいつもフル回転です(笑)。
――そんな細やかな心遣いを!
これも私が病気になったおかげですね。友人が家にお見舞いに来てくれたとき、料理をふるまってくれたんですね。私は彼女と一緒にキッチンに立っておしゃべりしながら料理を作りたかったのに、「病人は座って待ってて」って言われてしまったんです。友人は私を気遣って軽い気持ちで言ったのでしょうが、病人という言葉に「私は何もできない人」だと思われていることにすごく傷ついてしまって。
――何気ない言葉で傷つくことってありますよね。
病状が辛くていたわってほしいときもありますから、今は普通に接した方がいいのか、やさしくした方がいいのか、お話をしながらキャッチするようにしています。
――辛かったこととか、壁に突き当たったときはどう乗り越えましたか?
講習を受けたり、自分で練習や経験を積むしかないです。技術職である以上、これは永久に続くと思っています。
――嘉川さんは今も講習会に参加していらっしゃるんですか?
もちろんです。講習会に参加すると新しい発見があるんですよ。それに、新しい出会いもあって仕事に繋がることもあります。
――それはいい! 最後にこれからこの業界を目指す方にメッセージをお願いします。
やってみたいと思ったら、ぜひ挑戦してください。人の優しさに触れ、高齢者の方々からは人生のお話を聞けます。ただし、いろいろな方と会話することや、さまざまな姿勢でのカットなど知識や技術を磨く努力が必要です。場合によっては命に関わることもあるので、楽しみつつ、真剣に取り組んでいただけたらと思います。
嘉川さん流! 訪問美容の心得三か条
1.病気や障がいを理由に諦めなくていいというスタンスであること。
2.辛いことを忘れてもらえるような施術・対応を心がける
3.常に最新・最高の技術を求めること。
撮影/森 浩司





