――これを「女子力が高い」と言うのか、「自身の現状が見えていない」と言うのか。
カフェの隅で一人、ラテアートが施されたエスプレッソを飲んでいる世良涼花。彼女は都内マンションの一室でリラクゼーションサロンを開業しているセラピスト……と言うと華やかに聞こえるが、サロン経営から半年で……資金は底をついた。 彼女にはセラピストとしての技術はあり、施術料金も周囲のサロンと変わらない金額に設定している。なのに客が来ないのはなぜだろうか。 彼女は苦悩していた。
――あとは何をどうすれば。それとも、もう店を閉めるしか……
見慣れたスマホの画面。ここ一か月ほど、毎日のように「セラピストの経営コンサルタント」を無意識に検索してしまっている。 当然コンサルタントに支払えるお金なんてないが、何かヒントが載っているかもしれないという……藁にもすがる思いである。
――酒居悦子。この人も何回か見たよ。
ため息と同時にテーブルに顎を乗せた彼女は、スマホ越しに見慣れた顔を発見すると息を飲んだ。なぜなら、その人物とスマホ画面に映る女性を何度見比べても、同じ酒居悦子だったからだ。
――話しかけたい! でもなんて話しかければ。
「あ、あの……」
考えるより先に、声が出てしまっていた。明らかに震えた声で話しかけた涼花に対して酒居は立ち上がり、予期しなかった言葉を返してきた。
「あ、西島さんですね? 『月刊リラクゼーション』の――」
「え? (ニシジマって、誰?)」
「酒居です。本日はよろしくお願い致します」
そう言って彼女は名刺を渡してきた。涼花は彼女が自分のことを雑誌のライターと勘違いをしていることをすぐに理解できた。しかし、五里霧中で手探りの涼花にとって酒居の誤りを訂正するという選択肢はなかった。彼女にとっては一筋の光だったのである。
「え? あ、ああ! 今日はちょっと名刺を忘れて来てしまって……すみません」
「結構ですよ。お気になさらないでください」
――この状況をうまく利用できれば、タダでサロン経営の秘訣が聞ける。
涼花は『月刊リラクゼーション』のライターになりきることを決意したのであった。
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