「はい、はい……ああ、そうなんですか……30分後でしたらなんとか……はい、失礼します」
酒居が電話を切ると、涼花の口元は緩んだ。酒居の電話に対して特に怪しい空気を感じなかったからだ。そして酒居は口を開いた。
「申し訳ないのですが、30分後に次の仕事が入ってしまって……」
「か、かしこまりました。では、急いで次の質問に参りますね」
30分だとできる質問が限られている。しかし、涼花はそのことよりも自分の正体がバレなかったことを嬉しく感じていた。そして次の質問をした。
「先ほどの質問とは逆で、人気サロンの共通点ってありますか?」
「んー、活気があることですかね――」
「活気……それは、スタッフにですか? お客さんにですか?」
「どちらもですが、どちらかと言えば特にお客様ですね。お客様が『じゃあねー♪』って手を振って、笑顔で帰るところは人気サロンの特徴ですね」
「なるほど……どうすればお客さんが『じゃあねー♪』って手を振って、笑顔で帰るようなサロンになるんでしょうね?」
「んー、スタッフの活気っていうのもありますが……サロンのマメな努力かな」
「マメな努力……ですか」
「ええ、例えばサロンのディスプレイを定期的に変えたり、一生懸命描いたと思われる手描きのポスターが貼ってあったり。そういう一生懸命の空気ってお客様に伝わるんですよね。実際、秋だからという理由で棚に“きのこ”を置いただけで、サロンの空気が良くなってお客様との会話が増えたっていうサロンもありましたよ」
「き……きのこですか……」
涼花のやるべきことがまたひとつ増えた。断崖絶壁に囲まれていた状態の彼女の周囲に、無風の安全な道が数本現れたのだ。
そして、インタビューは順調に進んで行った。最初の涼花とは違い、彼女には安心感があった。「もう、バレる心配はない」と。その油断が原因で、涼花に波乱が訪れることも知らずに。
最終章「じゃあねー♪」につづく(6/27リリース予定)につづく
2015/11/12
2015/07/22
2015/07/15
2015/07/08
2015/06/27
2015/06/26
職種別の記事まとめ |
人気のキーワード |
---|---|