自分の信念を忘れずに、目の前の患者さんと向き合うことを大切に【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.57 柔道整復師 齋藤洋一郎さん #2】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、「活の気」を柔道整復術に取り入れた「匡正術」を治療法としている、整骨院「匡正堂齋藤整骨院 永福本院」柔道整復師で次期院長の齋藤洋一郎さんにインタビュー。前・後編の全2回でお送りします。
前編は、齋藤さんのこれまでの道のりと、柔道整復師になって感じたギャップやその克服方法、現在の働き方について聞きました。後編となる今回は、柔道整復師という仕事の魅力や今後柔道整復師を目指す人へのアドバイス、柔道整復師としての心得を伺います。
お話を伺ったのは…
匡正堂齋藤整骨院 永福本院
柔道整復師 齋藤洋一郎さん
高校卒業後、洗足学園音大に入学し、音響について学ぶ。その後、院の後継者として山野医療専門学校で、柔道整復学を学び、整骨・整体の治療について経験を積み、2012年、柔道整復師の免許を取得。その後、匡正堂齋藤整骨院 永福本院にて修行し、今年で11年目。次期院長として経営を引き継ぐ予定。
柔道整復師として働く最大の魅力は「自分がいれば、人を助けられる」こと
――柔道整復師をしていて、どんなことが魅力だと感じますか?
自分の存在価値を直に届けられる仕事というところが、他の仕事と違った魅力ですね。以前、高尾山に山登りに行った際に足を捻挫して動けない方がいて、その場で処置をした経験がありました。その際に、身一つあれば人を助けることができる柔道整復師になってよかったなと実感しました。
――身一つで人助けができる、というのは確かに魅力的ですね。
そうなんです。ただ、自分自身が商品になるので自己管理がとても大事になってきます。というのも、体力や精神状態が仕事のパフォーマンスに直結してくるので、自分の状態を整えて施術に取り組むようにしています。そのために、日々の訓練が必要なので呼吸だけに集中して頭の中の思考をある程度とめる、など目の前の患者さんに集中できる精神状態を作り上げられるように努めています。
患者さんの心に寄り添った診療を
――業務時間外でも日頃から訓練しているんですね。では、施術中に心がけていることは何ですか?
患者さんとの距離感には気を遣っていますね。距離感を縮めるためにあえて敬語を使わずに話したりすることで、話のリズムや呼吸を意識することを気遣っています。
あとは、頭で考えすぎず、直感を信じています。その日の施術で伝わるものを大事にしながら治療に向き合っていますね。
――日によって気持ちや体の状態も変化しますもんね。反対に日々の診療で、大変だと感じることはありますか?
患者さま方にはそれぞれ背景があり、一人ひとり違う問題を抱えていらっしゃるので、施術方法について「どうしようかな?」と悩むことは今でもありますね。
――そういったときは、どういう対応をしていますか?
まずは、その人たちの個性を尊重して共感の姿勢を見せることが必要です。
自分の中だと基本的なことになりますが、今までの経験やセミナーで勉強したことを思い返して根本から見つめ直します。そのため、今まで学んだことが重要になってきますから、初めに学ぶ内容はかなり肝心ですね。
自分の経験から、患者さまの状態をしっかり見つめて分析して、理解し、考えて対応しています。
「自分が在りたい姿を想像する」ことが、最も重要
――これから柔道整復師を目指す人たちへアドバイスをお願いします!
主体性を大事にすることです。私は、症状を治しているのはあくまでも人間本来の治癒反応だと捉えています。極端な話、どんな治療法でも治るようにできているんです。
いろんな治療法があって、明確な正解がないからこそ、自分がどういった治療がしたいのか、という主体性が重要になってくるんです。
ここ最近、いろんな方法で健康についての情報がたくさん飛び交っていますよね。例えば、動画で「〜〜すれば治る!」とかセルフでできる治療法など…。そんなにたくさん情報があると、振り回されてしまうと思うんです。
そこで、自分が何を大事にしてどう在りたいのかを考えながら情報を精査していくことが大事です。たくさんの情報を取り入れたあと、自分の中のフィルターにかけ、凝縮されることで、次第に自分がどう在りたいかという方向性が見えてくるはずです。
――なるほど。何事にも主体性は大事のような気がします。では、齋藤さんが考える「柔道整復師の心得3か条」を教えてください。
1.患者さんの話をよく聞くこと
顔を合わせて話を聞くことで、言葉にはしていないけど「何かあるんだな」と感じることがあります。話をよく聞くことで異変を察知できれば、治療の方向性も決まりやすいです。だいたい9割ほど相手の話を聞いて、一番最後に私の思いを伝えています。
2.完治しても、自分の手柄とは思わない
よく患者さまから完治した際に「ありがとう」といっていただくんですが、そこで自分のおかげだとは思わないようにしています。
アドバイスでもお話しした通り、手は加えていますが、本質的に治しているのは自然の力なので、自然に対する畏敬の念というものを忘れないようにしています。
3.ユーモアを心がける
お医者さんと比べると、柔道整復師って割と親近感のあるほうだと思うんです。ですが、患者さまは私たちのことを先生と思って接していただくことが多いので、決して上から目線にならないようにしています。真面目な場面と、笑える言い方ができる場面とで緩急をつけることで、自分も相手もリラックスした気持ちでいられると思うんです。
また、人によっては患者さまのことを考えすぎて自分自身が病んでしまう、という事例もあるので、そちらに引っ張られることがないようにするために、柔道整復師は体だけはなく、精神的にも自分をしっかりと保つことも必要なんです。
「真面目な話の中でも、ユーモアを大事にしている」と語る齋藤さん。言葉通り、しっかりと目を見ながら丁寧な返答いただきつつ、時折ユーモアのある会話で場が和みました。信念を持ち、相手に柔軟に適応して接することができる齋藤さんだからこそ、多様な患者さんを救える理由だと感じました。
取材・文/東菜々(レ・キャトル)
撮影/喜多 二三雄