わからないことは、全て患者さんに教わってきた 【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.57 柔道整復師 齋藤洋一郎さん #1】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、「活の気」を柔道整復術に取り入れた「匡正術」を治療法としている、整骨院「匡正堂齋藤整骨院 永福本院」柔道整復師で次期院長の齋藤洋一郎さんにインタビュー。前・後編の全2回でお送りします。
前編となる今回は、齋藤さんのこれまでの道のりと、柔道整復師になって感じたギャップやその克服方法、現在の働き方についてお聞きします。
お話を伺ったのは…
匡正堂齋藤整骨院 永福本院
柔道整復師 齋藤洋一郎さん
高校卒業後、洗足学園音大に入学し、音響について学ぶ。その後、院の後継者として山野医療専門学校で、柔道整復学を学び、整骨・整体の治療について経験を積み、2012年、柔道整復師の免許を取得。その後、匡正堂齋藤整骨院 永福本院にて修行し、今年で11年目。次期院長として経営を引き継ぐ予定。
「柔道」と「音楽」の経験が、柔道整復師という仕事に活かされた
――まず、齋藤さんが柔道整復師を目指したきっかけを教えてください。
うちは代々、一族で整骨院を営んでいて、父親が四代目になるんです。その父親が柔道整復師として働いている姿をずっと見てきたので、自分も跡を継ぐんだろうなと自然と思っていました。
――代々歴史のある整骨院なんですね!では、そのまま整骨・整体について学ばれて…?
いえ、実は高校卒業後は音楽に興味があったので、音大に4年ほど通っていて、音響について学んだり、バンドも組んだりしていました。音楽を学びつつも、私は長男なのでいずれはけじめをつけて後を継がなければいけないという意識は常にありましたね。実際にその後、柔整の専門学校へ3年ほど通い、整骨・整体について学びました。
――常に後継を意識されていたんですね。柔道整復師になるために学んだことで、何が一番勉強になりましたか?
整骨院などの看板を出しているところは、柔道整復師という国家資格が必要なんです。その資格取得のための必修科目であった、「柔道」を学んだことですね。柔道整復師または、治療師というのは「術」を使う仕事なので、実際にいろいろな技をかけたり受けたり、体を張って学ぶことができたのはとても重要でした。
あと、意外かもしれませんが、音楽で学んだことも今の仕事に活きていると感じています。
――音楽を学んだことで活きているというのは、どんなことですか?
音楽は、セッションをするとき、まず相手の音をよく聞くことが大事なんです。自分が何を弾くかということよりも、周りがどういった音を鳴らしているのかきちんと聞くことが、患者さんの話に耳を傾けることと繋がっていて。そこへ呼吸を合わせたり抑揚をつけたり…と。
実際に治療していくうちに、ダイレクトに治療にリンクしていることを肌で感じれたときは、役立ったと実感しましたね。
教科書通りにはいかない症例の打開策は「患者さん」が教えてくれた
――音楽と整体にも共通点があったのはとても意外ですね。実際に柔道整復師になってみて、感じたギャップや大変さなどはどんなことでしたか?
教科書通りにいかないことですね。専門学校では、教科書に沿って座学や実習などしっかり学んできたつもりでしたが、実際に患者さんを担当したときに教科書で習った通りの事例でないことの方が当たり前で、ギャップを感じました。
例えば、ひと口に「ギックリ腰」といっても、一人ひとりそれぞれのライフスタイルや癖など全部違うので、教科書通りにみんな同じ治療方法で治すことは難しいんです。
――それは戸惑いますね。お父様に相談はされましたか?
父は基本的なことしか教えてくれません。相談したときも「とにかく診療経験をこなすことだ」と言われただけでしたが、実際に父親の言葉通り、とにかくいろんな症状の患者さんをみて、自分なりにたくさん考えながら向き合ったおかげで、原因や理由がわかってくるようになりましたね。
当時は、とにかく自分ができる技で、治そう治そうと技をかけることが主体になってしまい、相手の症状を感じ取ることができていなかったです。
――そのギャップは解消できましたか?
父のアドバイス通りに、臨床経験を積むことで少しずつ解消されました。先ほど話した音楽でも学んだように、患者さんの話をよく聞いて施術する。それを繰り返し試行錯誤を加えながら、場数を経験してギャップを埋めていった感覚ですね。患者さんの症状から学ぶことで、自分の中のギャップを解消していけたので「患者さんが先生」のような感覚でした。
ただ、解決に導くアドバイスが「経験を積むこと」ゆえに、失敗することもありました。
――失敗した際には、どんな対応をされましたか?
素直に勉強不足を認めることです。父が言うには、「プロなら失敗してもしっかりリカバリーできる」だそうなんです。
自分で何が悪かったのか、失敗の原因を冷静に観察、分析して患者さんに説明し、納得をしていただく、という風にリカバーできる対応力を身につけられるよう意識して対応していました。
子育てをしながらも、仕事の勉強は怠らない
――現在の働き方や一日のスケジュールについて教えてください。
メインの仕事面では、施術は一日16名ほど、一人あたり20分前後で行なっています。
朝は、なるべく歩くことを意識していて、1時間ほどウォーキングをしてから出勤していますね。
帰ったあとは、子どもたちをお風呂に入れて食事をし、寝る前に経営や健康、体についての本を読んで勉強しています。読書以外に、二ヶ月に一回、熊本で行われているセミナーに参加しているので、その予習・復習をしています。
歴史ある整骨院「匡正堂」に長男として生まれ育った齋藤さん。自分の興味がある音楽という分野を学びながらも、常に後を継ぐことを考えて過ごしてきただけあって覚悟が伝わってきました。いずれの経験も現在、柔道整復師として活躍する齋藤さんには、必要な学びであったことを取材を通して感じました。後編では、齋藤さんが施術の際に心がけていることや、柔道整復師を目指している方へのアドバイスなどについてお話しいただきます。
取材・文/東菜々(レ・キャトル)
撮影/喜多 二三雄