ケガをする前の体づくりに貢献したくて、理学療法士からアスレティックトレーナーに転身【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.114 就労支援施設管理者・アスレティックトレーナー 東(あずま) 達也さん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、大阪府で※障がいのある方々が働ける就労支援施設(※就労継続支援A型)の管理者をしながら、スポーツチームやキッズスポーツのトレーナーとして活躍している東 達也さんにインタビュー。もともとは理学療法士として総合病院勤務をしていた東さんが、スポーツトレーナーに転身した経緯とは?
※就労継続支援A型とは…障がいがあり、一般企業への就職が困難な方を対象に、一定の支援がある職場で雇用契約を結び、働くことができる障がい福祉サービス。
前編では、東さんが理学療法士からトレーナーを志した経緯ときっかけをお聞きします。
お話を伺ったのは…
就労支援施設管理者・アスレティックトレーナー 東 達也さん
高校卒業後は理学療法士を目指し、地元・福岡県北九州市にある専門学校に進学。資格習得後は、兵庫県神戸市にある病院に理学療法士として勤務。4年勤めたあと、大阪市にある履正社医療スポーツ専門学校へ入学し、2年でアスレティックトレーナーの資格を習得。整形外科クリニックでの勤務を経て、現在は就労支援施設の管理者とアスレティックトレーナーの二足のわらじで、幅広い年齢層のトレーニングを行っている。
instagram:@sports_kids_trainer
理学療法士として勤めた4年間。自己肯定感がアップし、挑戦する気持ちが芽生えた
――まずは、理学療法士になるまでの経緯をお聞かせください。
急な病で祖母を亡くしたことがきっかけで、中学1年生の頃から医療関係の仕事に興味を持ち始めました。
僕はとてもおばあちゃん子だったので、どうしても昨日まで元気だった祖母が突然いなくなってしまったことに納得できなかったんですね。そこで、考えたのが医療関係の仕事でした。医療知識が身につけば、祖母の死について納得できるようになるんじゃないかと。高校生の進路を決めるときも揺るがず、医療関係の仕事に就きたいという思いは変わりませんでした。
ただ、自分に医者は無理だと感じていたので、ほかの形で医療に関われる職種を探すことに。ちょうど高校生の頃にしていた部活がきっかけで理学療法士の仕事を知り、進もうと決めました。
国立大学を目指してたのですが、英語の偏差値が足りず…(笑)。私立で親に負担もかけたくなかったので、3年で資格の取れる専門学校に進学。卒業と同時に理学療法士の資格を習得し、兵庫県神戸市にある総合病院に就職をしました。
――神戸市の病院を選んだ理由は?
当時、興味があった整形外科と緩和ケアの分野があったことと、専門学校の先生と繋がりがある病院がたまたま神戸にあり、紹介されたことがきっかけです。
先生に紹介いただいたこともあり、見学だけでもと伺ったところ、「どうせ来たなら面接を受けて行ったら?」と人事の職員さんに導かれ、あれよあれよと言う間に採用をいただいてしまって(笑)。
――実際に入社してみていかがでしたか?
もともとは地元を出て就職するなんて考えていませんでしたし、地元を離れて縁もゆかりもない土地で働くことに最初は抵抗がありましたが、キリスト教系の病院だからなのか物腰が柔らかな職員さんが多く、不安があった僕でもすぐに馴染むことができました。
僕はもともと自己肯定感が低く、自信がない人間だったのですが…入職してすぐ職員の方々から誘われたフルマラソンを完走したことがきっかけで「やればできるんだ!」と気づき、アクティブな人間に生まれ変わりました。気持ちだけではなく、体重20キロ以上の減量に成功し、見た目にも嬉しい変化が。このときの出会いが今の僕の考えカや行動力を形成したと言っても過言ではありません。
スポーツを通じて積極性を身につけられたからこそ、アスレティックトレーナーに挑戦することができたと思います。
スポーツでケガをする人を減らしたい気持ちから、トレーナーに転身!
――アスレティックトレーナーとは?
トレーナーの種類はたくさんありますが、国内で難易度の高いトレーナー資格がアスレティックトレーナーです。
スポーツの試合や練習中に急なケガがあればその場で応急処置をして、医師が治療するまで悪化しないように予防したり、ケガをしにくくするための体作りから復帰をサポートするのが役割です。
――目指そうと思ったきっかけは?
理学療法士として病院勤務をしていた頃に、スポーツでケガをした学生のリハビリを担当したことがきっかけ。
理学療法士はケガをしてからでないと関われない仕事です。病院の特性上、痛みが無くなればリハビリが終了になり、深く関われないことも多くて。どうにかケガをする前にサポートできないかと考え、たくさんあるスポーツトレーナーの資格の中からアスレティックトレーナーの資格を習得しようと決めました。
――資格を取るためにどんなことをしたのですか?
アスレティックトレーナーの資格取得を目指し、専門学校に入学。実習時間以外に現場で働く経験を積むため、自ら現場に同行させていただけるスポーツチームを探して帯同することもしていました。
――自らチームを探すのは、大変ではなかったですか?
僕はすでに理学療法士の資格を持っていたので、受け入れられやすかったんだと思います。その経験のおかげで、教員の紹介などでラグビーやフィギアスケートの全国レベルのチームに関わる機会をいただけて多くのことを学ばせていただきました。
資格習得後は、理学療法士とアスレティックトレーナーの資格が活かせる整形外科クリニックへ就職。学校で学ぶ知識以外に、現場経験が積めたことは大きかったと感じます。
――理学療法士とアスレティックトレーナーのギャップは感じますか?
理学療法士は病院の医師の診断のもとでリハビリをしますが、アスレティックトレーナーの場合は、その場で即座に状態を見て処置の判断をしなければなりません。その点は、緊張しましたね。骨折や脳震盪などは判断を見誤ってしまうと、その後の治療や状態までも左右してしまうこともありますから。
とはいえ、理学療法士の仕事に緊張感は必要ですし、どちらも人の体に関わる点では共通しているので、理学療法士を経験したのはアスレティックトレーナーをするために良かったと思います。
――指導するうえで大切にしていることは?
スポーツに関わる方に対しては「なぜこのトレーニングが必要なのか?」を伝えるように意識しています。トレーニングを習慣化するにも、その意味やメリットが見いだせなければ続けられないと思うんです。理論的に説明をし、取り組んでいるスポーツの種目に応じたトレーニングを提供しています。
理学療法士からアスレティックトレーナーへ転身した東さん。最初はスポーツに関わる人々を対象に指導やケアを行っていましたが、最近は子ども向けの体つくりのインスタ投稿が人気です。後編では、子どもに向けて運動指導するようになった経緯や福祉業界も掛け持ちすることになった理由などについて伺います。
取材・文/東 菜々(レ・キャトル)