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ヘルスケア 2022-06-09

東洋医学も西洋医学も、垣根なく学ぶことが大切【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.60 医学博士・鍼灸師 劉 勇先生】#2

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回取材したのは、医学博士・鍼灸師の劉 勇先生。
もともと中国で外科麻酔医として活躍していた劉先生は、日本に拠点を移し、西洋医学・東洋医学、双方の理論と臨床技術を運用した鍼灸治療を始めて評判に。鍼灸マッサージの一般普及を目指し、「コリとれーる1号院」を開院。クイックマッサージの先駆けとなりました。

後編では、劉先生の1日の働き方、力を入れている取り組み、鍼灸師を目指す方へのアドバイスを伺います。

人生100年時代。筋肉をつけて健康でいることが何よりも価値がある!

――先生の現在の働き方、一日のタイムスケジュールを教えてください。

そうですね、朝はだいたい6時ぐらいに起きて、40分ぐらい筋トレをします。それが終わると、レモンやりんご、にんじん、ブロッコリーなどで作ったジュースを飲みます。これが習慣になっていますね。

――朝からしっかり筋トレなさるんですね。

はい。私のトレーニング法は走るのではなく、主に筋トレです。なぜ筋トレかっていうと、年をとって走り過ぎると、どうしても関節に負担がかかってしまうんですね。だから私は患者さんにも、腰や膝の痛みのある方は絶対に無理して歩かないでください、歩いても一日3000〜5000歩程度で、って伝えています。無理をすると関節はどんどん磨り減っていくので、余計に痛みが出るようになるんですよ。そういう人こそ筋トレです。成長ホルモンも出ますからね。

――その後は?

8時くらいに家を出て、9時からスタッフの教育や打合せを行います。私たちは患者さんに向き合い、治療することが仕事だと思っていますから、症状に対しての診断だったり、基本的な治療方法だったり、勉強を怠ることはできません。なので、定期的に勉強会を開いています。それから急患の方を診たり、また打合せをしたり。大体17時ぐらいには仕事を終えて、スポーツジムへ。ここでも軽く体を動かしてサウナに入る。これがルーティンですね。

――夜もジムでトレーニングなさるんですか!?

人生100年といわれる時代、いつまでも快適に楽しく暮らためには健康が第一。もちろんお金も大切ですが、健康や筋肉もすごく重要です。私のトレーニングは一種の貯金。健康貯金です(笑)。そもそも体を崩したり、病気になったりすると、治療にお金がかかりますよね。でも健康ならそれが必要ない。お金そのものより、何倍も何十倍も価値があるんです。医療にお金がかからないと、その分悠々自適に生活できるんですよ。

――昨今「健康寿命を伸ばしましょう」といわれていますもんね。

はい。年をとっても健康でいられれば、結果的に国の医療費も下がります。社会にも貢献できるんですよね。そのために、まずは自分が見本になろう、と(笑)。

鍼灸は利便性があり、人からも感謝される。
鍼灸師は私にとって天職です

――先生が今、力を入れている活動はなんですか?

やはり、鍼灸師の育成が一番。「ハリアップ」の展開というよりは、ちゃんとした鍼灸師を育てたい。知識と技術を伴った、患者さんのためになる鍼灸師。それこそ「鍼灸医療」を普及させるのに欠かせないと思います。

――鍼灸師の仕事のいいところ、やりがいを教えてください。

鍼灸師は、こんな小さな、ポケットにも入るような鍼さえ持っていれば、どこでも施術ができます。場所を選ばずパッと治療でき、利便性が素晴らしい。そしてなにより、患者さんの痛みや苦しみを解決してあげられること。人に感謝されるとやっぱり嬉しいですよね。私にとって天職です。

――お仕事を成功させるためのポイントはなんでしょう?

患者さんと向き合って、苦しみを理解してあげること。気持ちを尊重して、大事にしてあげること。そしてなにより最善の治療方法を立案すること、ですね。どういう風にするのが一番早く患者さんの痛みや辛さを和らげてあげられるかを考える。そしてそれを患者さんと共有する。これがポイントです。

――「ドクター・リウ・メソッド」について教えてください。

まず私は、西洋医学の三大理論をものすごく重視しています。生理・解剖・病理ですね。スタッフには、まずはこれをしっかりと勉強してもらいます。なぜなら、ほとんどの患者さんが、まず西洋医学の病院にかかり、そこで「もうこれで治療は終わりです」と言われたけど「まだ痛みがあって辛い」と、こちらに相談に来るんです。となると、我々はどういう対応してあげるのが最善でしょう? それを考えるためには、まずは西洋医学の理論をしっかり持っていないといけない。そこに臨床の経験や知識を活かして、少ない本数の鍼で結果を出す。これが「ドクター・リウ・メソッド」です。

――鍼灸(東洋医学)も、ちゃんと西洋医学の知識を取り入れた上で成り立っているんですね。

東洋医学と西洋医学って、みなさん切り離して考えがちですが、どちらも同じなんですよ。そもそも、施術される人間の体は、同じなんですから。しいて違いをいえば、昔分かってなかった人体の謎が現代医学、いわゆる西洋医学で明らかになったというだけ。おおもとは当然同じです。

――鍼灸の技術で重視されていることは何ですか?

きちんとした問診をして、患者さんの声にしっかり耳を傾けること。その情報に基づいて施術するわけですから、これが最も重要です。
そして、痛みの少ない施術をすること。鍼の打ち方はもちろん、打つ本数もできるだけ少ない方が負担も少ないです。恐怖心という意味でも、たくさん刺されるのは誰でも嫌ですよね。それにたくさん刺せばいいというものでもない。最小の本数で最大の結果を出すのがベストです。

――ちなみに鍼自体は今と昔で違うんですか?

そうですね、昔の鍼は結構太いですし、長さも長いです。それに比べると、今は随分細くなって、痛みを感じにくいようにできていますね。でも一番は、打ち方によって痛みを感じる、感じないの差が大きいと思います。

――鍼灸治療で患者さんに満足してもらう為に大切なことはなんでしょう?

問診をした上で、どういうメカニズムで今の痛みや麻痺などの症状が出ているのかっていうのを明確に伝えてあげること。そして、そのためにどういう治療をするか、どれくらいの期間でよくなるか、というのを必ず伝えます。

――確かに、それが一番気になるところですもんね。

たとえ痛みの原因が不明だとしても、どうしてそういう痛みが出ているか、という仕組みだけでもわかると、気が楽になりますよね。そして、どういう治療をするかっていうのも、何をされているのか、どれくらい続くのかわからないと不安になる。もちろん個人差があるんですけれど、だいたい何回ぐらいで結果が出てくるよ、というのを伝えると満足していただけます。「病は気から」というのは、やっぱり正しいんですよ。こういうことは施術する側がわかっていればいいというものではありません。ちゃんと施術する側、される側の両方が共有しておくことが必要です。

「鍼灸医療」を行う人間として、学び続ける姿勢を大切に

――これから鍼灸師を目指す人たちが学んでおくといいこと、経験しておくといいことはありますか?

人の体を隅から隅まで知ることです。先ほども少しお話ししましたが、人の体は小宇宙。でもそれは確実に目の前にいる「人間」です。私は鍼灸師も医療従事者だと思っていますから、その自覚を持ち、しっかり勉強を怠らずに精進してほしい。もっと言うと、「腸」についてもっともっと勉強してほしいです。

――腸ですか?

そう。体は小宇宙で、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。なかでも腸はもっと謎だらけ。そして先ほど、体ではどんな優秀な製薬メーカーでも作れない「自然治癒力」という薬を作っている、と例えましたが、それを作っているのが主に「腸」。たくさんの免疫細胞が集まっています。また、ほとんどの現代人が抱えている「ストレス」の負担が一番かかるのも「腸」。
でも、残念なことに、腸の働きは自律神経によって制御されているので、本人の意思ではコントロールできません。例えば、お腹を下してしまっても、自分で止められませんよね。でも鍼灸は、そんな自律神経の働きにアプローチするツボがあるんです。体について、どんなに学んでも学びすぎなんてありませんよ。

――これから鍼灸師を目指す人たちのアドバイスをお願いします。

「鍼灸医療」という言葉をみなさんしっかりと意識してください。「医療」の部分ですね。本来鍼灸は医療行為。痛みを和らげるだけではなく、治すことが目的だと思います。鍼を使って、人間そのものが持つ自然治癒力を高めて治療するのが「鍼灸医療」です。私は、この世に人間がいる限り、「鍼灸師」という職業は消えないと思います。頑張ってください!


劉先生直伝! 鍼灸師の心得3か条

1.医療を行う人間としての心

2.学び続けていく姿勢

3.体力、活力の維持

どんな問診や施術も、患者さんの痛みを和らげるために、不安を取り除いてあげるために、と最善の方法を模索している劉先生。西洋医学・東洋医学の両面からの問診は、患者さんにとって、とても心強いことだと思います。そんな先生の「勉強を怠らずに」というアドバイスはすごく重みを感じますが、鍼灸師に限らず「学び続ける姿勢」というのは何事にも大切だと、改めて感じました。
貴重なお話をありがとうございました!

取材・文/児玉知子
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)

information

ドクター・リウ鍼灸院 西新橋院
住所:東京都港区西新橋3-19-14 東京建硝ビル2階
電話:03-6435-8255
https://www.liu-method.com/
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