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ヘルスケア 2022-06-08

外科麻酔医から鍼灸師へ。クイックマッサージの先駆け「コリとれーる」は弟子を養うために生まれた⁉︎【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.60 医学博士・鍼灸師 劉 勇先生】#1

「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回取材したのは、医学博士・鍼灸師の劉 勇先生。
もともと中国で外科麻酔医として活躍していた劉先生は、日本に拠点を移し、西洋医学・東洋医学、双方の理論と臨床技術を運用した鍼灸治療を始めて評判に。その後、鍼灸マッサージの一般普及を目指し、「コリとれーる1号院」を開院。クイックマッサージの先駆けとなりました。

前編ではそんな劉先生が鍼灸師を目指したきっかけや「コリとれーる」を開院した経緯を伺います。

内装は全て手作り! ほぼゼロからスタートした鍼灸院でしたが
テレビ出演後、大きな話題に!

――先生はもともと麻酔外科医だったそうですが、鍼灸に興味を持ったきっかけは?

もともと私の母が腹痛に苦しんでいて、病院に通ってもなかなか治らなかったんです。そんな時、街医者が15㎝ほどある長い鍼をパンッと打ってくれたんですね。すると痛みがサーッと消えたそうです。その様子を子どもながら目の当たりにして「鍼灸ってすごい!」と思うようになりました。

大人になって医者の道に進むなかでも、その時のことが忘れられませんでした。それに、鍼灸は場所を選ばず、気軽に受けられます。そして何より体に副作用がなく効果を感じるのが早い。そこにすごく惹かれて、中国で「神の手」といわれる有名な先生を訪ね、弟子入りしたんです。

――もともと鍼灸に興味を持たれていたんですね。

はい。もともと鍼灸に興味があったからこそ、西洋医学を学んだと言ってもいいですね。そもそも麻酔というのも神経をブロックして痛みをなくすものなので、考え方としては鍼灸と非常に似ています。なので、医者としての知識もすごくプラスになりました。

――1985年に鍼灸院を開院させ、仕事を始めてから感じた苦労や大変さを教えてください。

もう、それはそれは大変でした。当初、当たり前ですが知名度も何もないので、お金ももちろんありません。部屋の内装もホームセンターで材料を買ってきて、全部自分で手作りしました。カーテンレールも業者に頼むと何十万とかかるので、自分で付けたんですよ。

――先生自ら! すごいですね。

あとはチラシをたくさん配りました。10万枚くらいあったでしょうか、街を歩き、1枚1枚手渡しして、ポスト投函もしました。当時はSNSなど今のような便利なコミュニティーは全くなく、全てアナログでしたからね。そうやって少しずつ患者さんを増やしていったんです。その頃ですね、日テレの局長さんと出会い、テレビに出るようになったのは。

――どういう風に出会ったのですか?

その方の親戚が、私の働く鍼灸院に彼を連れてきてくれたんです。その時に気功の話をしたら、テレビ番組に出ないかと。そこで気功や鍼灸など、東洋医学を取り上げてもらいました。主に気功でしたけどね。そこから一気にブレイクして、患者さんで溢れるようになったんです。その後は、少しメディアに出るのを控えて、患者さんの治療に専念しました。今では改めて鍼灸を普及すべく、積極的に取材を受けていますが(笑)。

クイックマッサージの先駆け「コリとれーる」は
お弟子さんの生活を守るために開院した⁉︎

――その後、1994年に「コリとれーる1号院」を開院されたんですよね。クイックマッサージの先駆けですが、そこに込めた思いを教えてください。

そうですね。実はこの「コリとれーる」は、日本で弟子たちを育てていくためにつくったんです。まだまだ鍼灸が普及していない日本で、どうやって彼らを食べさせていこうかと考えた結果、忙しい現代人に向けた短時間で受けられるケアなら利用者も多いかな、と。そこで、患者さんが服を脱がず、座ったまま受けられる施術はないかと模索して、クイックマッサージ「コリとれーる」ができたんです。ちなみに、開業当時使っていた台座も、もう捨てちゃったんですが、これも全部手作りでした。

――「コリとれーる」の開業は、お弟子さん達のためでもあったんですね!

はい。忙しい現代人のニーズとも相まって、すごく人気が出ましたね。今では街中にいろいろなジャンルのクイックマッサージ店ができましたが、当初はそういう経緯だったんですよ(笑)。おかげで、なんとかスタッフもきちんと生活しながら、鍼灸の勉強ができるようになったんです。

実は鍼灸がなかなか普及しない理由の一つに、施術者の数が少ないというのも挙げられます。残念ながら、免許を持っていても稼げないんですね。そうなると、生活ができないじゃないですか。経済力がないと何事も発展しない。生活を保ちながら、勉強や施術に取り組む環境を整えてあげることが、鍼灸を普及させることにつながると考えたんです。

鍼灸とクイックマッサージのいいとこどり
「ハリアップ」で鍼灸をもっと身近に!

――ちなみに2009年には「ハリアップ」を開院されていますが、「コリとれーる」とのコンセプトの違いは何ですか?

「コリとれーる」は基本的なマッサージのみをメインにしていて、まさに「クイック」マッサージ。短時間ですばやく、というケアですが、あくまでもその時の疲労回復が目的です。それじゃあちょっと物足りないという方に向けたのが「ハリアップ」。「ハリアップ」はクイックマッサージと鍼灸をミックスさせた施術で、整体やストレッチ、指圧マッサージなどで体の新陳代謝を促進させてから鍼を打ち、より効果的なアプローチを目指します。
鍼灸は本来「鍼灸医療」で、私は治療だと考えています。なので、より治療に特化した、という感じですね。

鍼灸は、日常使いとしてまだまだ普及していません。やっぱり鍼を体に刺すとなると、みんな怖いイメージがあるんでしょう。施術できるところもまだまだ少なく、私のところには今でも全国から患者さんが治療を受けに来ます。今後、医療として鍼灸治療が当たり前になることを願っています。

――痛みや辛さを抱えた患者さんが少しでも減るといいですね。

そうですね。そもそも人の体は小宇宙。そこでは痺れという地震も起きるし、炎症という火山も噴火するし、いろんなことが起きるんですよ。でもそれを人間の自己防衛力や自然治癒力で回復させているんですよね。正直、それと同じような薬は、どんな優秀な製薬メーカーでも作ることができません。鍼は、そんな「自然治癒力」という薬をつくるサポートをするんです。私は一種のワクチンだと思っていますよ。

 

今も昔も鍼灸普及のために邁進なさっている劉先生。「コリとれーる」の開院は、もともとお弟子さんが生活していくためだったと聞いて驚きましたが、そんな先生のやさしさこそ、多くのお弟子さんや患者さんを惹きつけてやまない魅力だと感じました。

後編では、劉先生の1日の働き方、力を入れている取り組み、鍼灸師を目指す方へのアドバイスを伺います。

取材・文/児玉知子
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)

information

ドクター・リウ鍼灸院 西新橋院
住所:東京都港区西新橋3-19-14 東京建硝ビル2階
電話:03-6435-8255
https://www.liu-method.com/
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