「きれいになった!」と本気で感動させるのが現場での矜持【介護リレーvol.54/ユニバーサルBBサポート代表 半谷秀昭さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
ユニバーサルBBサポート代表の半谷秀昭さん
1990年理容師免許を取得。以降2つの理容室を経て1999年に理容室「シルエット」を譲り受けて独立。2015年ごろから訪問理・美容を始める。訪問理美容サービスの充実を図るために「ユニバーサルBBサポート」を立ち上げ、代表に就任。さらに全国の障がい者(児)と理・美容師をつなぐサイト事業、特定非営利活動法人「セルフ」の理事も務めている。
理容師としてサロンを経営するかたわら、訪問理・美容師としての実績を積み重ねていった半谷さん。後編では、コロナ禍をどう切り抜けていったのか、訪問理美容の現場で直面したこと、障がい者(児)の髪をカットする「発達凸凹さんヘアカット」のサイト事業を立ち上げたいきさつなどをお話いただきます。
介護ヘルパーとして、介護の現場を体験!

半谷さんのサロンには、障がいを持つお客さまたちの作品が並んでいます。大胆な色使いや緻密な筆遣いは圧巻!
――’20年のコロナで来客数がぱったりなくなったとか。
ここ日吉界隈に慶応大学や大手企業の独身寮があって、サロンも賑わっていました。それが、コロナで授業も仕事もオンラインになって、人通りがまったくなくなってしまいました。
――今の街の賑わいぶりからは想像できませんね。
お客さまがゼロの日が続いて、何ができるかを考えたとき、「自分にはヘルパー2級の資格がある!」って思い出したんです。コロナの時は訪問美容を休まざるを得ませんでしたが、コロナが落ち着けば再開するのは分かっていました。その間に何ができるかを考えたんです。
――そうですね。コロナが落ち着けば、訪問美容は欠かせませんよね。
それで、ヘルパー2級の資格もあったので、介護施設でヘルパーとして働き始めたんです。訪問美容で障がいのある方や高齢者に接しているとはいえ、施設の中でどう過ごしているのかは分かりませんでした。いろいろな面で勉強できる。しかもお給料までもらえる(笑)。ピンチというより、すごくいい機会をもらえたなぁと思っています。
――勉強会をなさっていて、それでもまだ学ぶことはあったんですか?
たくさんありますよ。今でも悩むことがあります。
――半谷さんのように十年を超える経験があっても!?
最近、担当している60代の女性は脳梗塞で下肢が麻痺された方なんです。定年退職をして、これからご夫婦で旅行をしたり、美味しいものを食べたりして楽しくすごそうとプランを立てていた矢先にご病気になられたそうです。すごくおしゃれに気を遣う方で、パーマもカラーもしたいというご希望がありました。特に白髪が気になるから染めたいとのことでした。
――どうなさったんですか?
白髪を染めるには髪を洗わなくてはいけません。でも、施設にはサロンのようなシャンプー台はなくて、前屈みにならなければなりません。それではご自身で体勢を保てないのでシャンプーができない状況でした。たまたまその日は給湯器が故障していて、お湯が出なかったんです(笑)。「次は必ず染めましょう!」ってお断りをしました。次の訪問までに、どうやったらご本人が楽な姿勢のまま施術ができるのか、いろいろ考えているところです(笑)。
――設備が不十分なところで施術をするのは難しいですね。
長年やっていると、サロンの仕事では考えられないことも起こるので難しいことではありません。できることとできないことを踏まえた上で、利用者さまの身体状況を考慮して、可能な限り、要望に応えたい。少しでも生きることに前向きになって欲しいんですよね。だからやりたいことをやらせてあげたい、という想いがあります。
――美容は見た目がきれいになるだけじゃないんですね。
どんな状態の方でも気持ちが前向きになるし、明るくなるんですよ。施設の方やケアマネージャーさんも同じ想いですが、介護保険の仕組みでは限界があるので、保険外サービスの訪問美容が重宝されるんですよね。
――現場にいると、気持ちが明るくなるのが分かるんですね!
だからこそ、僕は訪問美容で施術するときは、カットもブローもいっさい手抜きしません(笑)。施術が終わると周りの人から「きれいになったね」って声をかけられますよね。単純に様子が変わったから「きれいになった」って声をかけるのと、本当にきれいになったから「きれいになった」って言うのとでは、声のトーンや表情が違います。褒められる方も、この人はお世辞で言っているのか本気なのか、分かっちゃうものなんです。だから僕は本気で「きれいになった」と言わせたいんです。
障がい者(児)の方が通えるサロンを増やすための「発達凸凹さんヘアカット」

おとなしく座っていられない場合、おもちゃで遊んでいる隙にササッとカットするそう。
――訪問美容の他に、半谷さんはどんな活動をなさっていますか?
発達障がいのある大人や子どものヘアカットをしています。彼らの保護者と理・美容師をつなげるサイト「発達凸凹さんヘアカット」をご覧になった方が、ここにいらっしゃるんですよ。
――障がいのある方に対応できるサロンは少なそうですね。
全国に障がい者に対応しているサロンはたくさんあると思いますが、サロンが発信していないから保護者には届きません。
保護者の方たちは、「切ってくれるサロンが見つからない」、「どうせサロンへ行っても嫌がってカットできない」って思っている方が多いんです。だからみなさん、お家でお父さんかお母さんがカットしているんですよね。理・美容師が障がいの特性を理解して対応できるように、理・美容師と保護者をつなぐサイト事業を始めました。それが特定非営利活動法人セルフです。
――発達障がいのある方は、どんな感じなんですか?
その方によっていろいろです。サロンに入ってくると、店内をあちこちチェックして動き回るケースが多いですね。無理に押さえつけたり、叱ったりすることはありません。好きなようにしてもらって、おもちゃで遊んでいる間にカットすることもあります。
――嫌がって暴れることはないんですか?
ありますよ。噛みつかれたこともあります(笑)。髪を切っている途中でも飽きちゃって、帰ろうとすることもあります。それはそれでいいんです。保護者には、「絶対に叱らないでください。ちゃんと髪を切れたことをほめてあげてください」と伝えています。
――半分だけのカットで終わりですか?
髪は半分しかカットできていなくても、その子にとっては大きな一歩ですから。成功体験を少しずつ積み上げていって、できることを増やしてあげたいんです。
――忍耐力が必要ですね。
なかなかサロンに入れない子もいます。3~4回目にようやく中に入れて、6回目くらいでやっと髪を切らせてくれました。僕をようやく受け入れてくれたんでしょうね。
――遠くから来店する方もいるんですか?
群馬から1時間かけていらっしゃる方もいました。息子さんは電車に乗るのが好きで、「この電車に乗って、ここで乗り換えて…」と言う具合に小旅行の感覚なんでしょうね。1日がかりですが、ここで髪を切らなくちゃいけないけれど、電車に乗る楽しみがあるからちょっとくらい嫌な思いはガマンできる(笑)。
――通い続けるのも大変ですね。
ここで髪を切ることに慣れたら卒業して「生活圏のサロンにも行ってくださいね」と保護者の方に言ってます。子どもに発達障がいがあっても、保護者が安心して通えるサロンを全国に増やさなければなりません。
――ご自身の顧客にするワケではないんですか?
僕の方がうんと年上ですから、その子の髪を一生切ってあげることはできません。将来的に自立して生きていかなくてはならないんですから、どこへでも行けるようになってほしい。この想いが、発達障がい啓蒙・啓発・支援事業のコンセプトでもある「社会に出るための最初の一歩がヘアサロン」なんです。
――その事業を広めるために何かやっていらっしゃるんですか?
イベントを企画しています。4月2日にユニコムプラザさがみはらで『発達凸凹さんフェスタ』を開催します。障がいのある方と暮らすためのセミナーや、僕たち理美容師のブースがあったり、バルーンアートや障がい者アートの展示もあります。こういったことに興味のある理美容師はもちろん、障がいを持つ保護者たちもいろいろなつながりを持つことで誰かに響いて欲しい。困っている人に対して「自分が!」という人を増やしたいですね。
半谷さん流! 訪問美容の心得三か条
1.慈善事業ではなく、利益を出す仕事として考える。
2.同業者はもちろん異業種の人たちとも連携してつながりを広げる。
3.SNSやイベントを通じて活動をPRしていく。
撮影/森 浩司