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介護・看護・リハビリ 2025-03-30

伝えられない言葉をくみとり、コミュニケーションを取れる瞬間が何よりのやりがい【介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画  小平晴風会 施設長 國武洋絵さん】#1

業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画」。

今回は「社会福祉法人 小平晴風会」が運営する知的障害者の生活介護事業所「ひまわりばたけ」で、施設長として働く國武洋絵さんにお話しを伺います。

國武さんが障害者福祉の世界に入ったきっかけとなったのは、中学生時代のダウン症の女の子との交流。とくに強い希望があって入った世界ではなかったそうですが、専門学校卒業後に入職した重度心身障害者の入所施設で働くなかで、そのやりがいを徐々に見つけていったそうです。

その後、現職に移ったきっかけは生活介護事業所に興味を持ったからだといいます。

お話しを伺ったのは…
社会福祉士法人 小平晴風会
施設長/サービス管理責任者
國武洋絵さん

専門学校卒業後、重度心身障害者の入所施設に入職し、20年近く経験を積む。その後、生活介護事業所のあり方に興味を持ったことがきっかけで、「小平晴風会」に入職。施設長として生活介護事業所「ひまわりばたけ」の立ち上げに携わる。

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社会福祉法人 小平晴風会

ダウン症の女の子との交流をきっかけに福祉の道へ

現在の國武さんが所属する生活介護事業所「ひまわりばたけ」。開放的なアトリエも併設されている

――まず、國武さんの現在のお仕事について教えてください。

東京都小平市にある生活介護事業所「ひまわりばたけ」の施設長として働いています。生活介護事業所とは知的障害がある方の日中活動の場として位置づけられており、さまざまな活動を通じて利用者さんが地域で主体的に生活ができるような支援を行っています。

「ひまわりばたけ」の利用者さんの多くは重度知的障害の方で、大きな特徴はアート活動ができる「アトリエひまわりばたけ」や利用者さんが作ったパンを販売している「ひまわりばたけ工房」を併設している点です

利用者さんの希望と適性に応じて、活動内容が選べる形になっており、生活の介助のほか、活動の支援も行います。私はサービス管理責任者でもあるので、利用者さんの支援計画を立てるのも、大切な仕事のひとつです。

――國武さんのこれまでについて教えてください。専門学校卒業後から長く、介護業界に携わられてきたと伺いました。何かきっかけがあったのでしょうか。

中学時代の体験が大きかったです。私が通っていた中学校には特別支援学級があり、障害がそこまで重くない子は普通学級のなかで一緒に過ごす仕組みになっていました。私と同じクラスで過ごしているダウン症の女の子がいて、班活動や教室移動の際には、なぜか先生がその子の世話役を私に頼むことが多かったんです。

当時の私は障害のことなどよく分かっていなかったのですが、その子も私に親しみを覚えてくれて、「こうするんだよ」と教えると素直に聞いてくれていました。

――それが福祉の道に進むきっかけになったと。

結果的に、という感じでしょうか。高校生になってその子とは学校が離れたのですが、高校卒業後の進路を決める際に、やりたいこともとくに見つからなくて。

悩んでいたときに親から「福祉の仕事に向いているんじゃない?」と言われたんです。積極的に福祉の仕事を目指したわけではなかったですが、中学時代の経験もあり、とくに障害のある人と過ごすことに違和感も覚えることもなかったため、福祉系の専門学校に進むことを決めました。

入職先は重度身障者の入所施設。意思疎通が図れる瞬間が仕事の楽しさに

最初に入職した施設について話す、國武さん

――専門学校卒業後はどのような進路に進んだのですか?

重度心身障害者の方が入居している、いわゆる「入所施設」でした。

――働き始めたとき、どのようなことを感じられましたか?

当時の私にとっては、衝撃的なこともありましたね。自傷や他害を行う、行動障害のある方もたくさん入所していたので、突然攻撃的な行動に出る方、新人の話しは聞けないと、一切のコミュニケーションを拒む方…。最初のころはとくに対応の難しさを感じることもありました。

ただ、だんだん慣れてくると、やりがいを感じることが増えてきたんです

――たとえばどんな点ですか?

利用者さんとの意思疎通が図れる瞬間です。多くの利用者さんはうまく言葉でコミュニケーションをとることができないため、とくに経験が浅かったうちは、何を要求されているのか、何を訴えているのか分からなかったんです。

それが経験を積むうちに、分かる場面も増えてきました。そうすると私に向ける表情も変わりますし、行動も落ち着きます。こういった変化が目に見えて現れたときは、この仕事をやっていて良かったなと思うことがありました

年数を重ねるうちに「もしかして、こういうことを伝えたいのかな?」と予想できることの幅が広がり、利用者さんに対して分かること、気づけることがどんどん増えていった気がします。予想していたことが当たったときには、パズルがすっとはまったときのようなスカっとした楽しい気持ちになりましたね

重い障害があっても日中の活動ができる。生活介護事業所に興味を持って

パン工房前で。國武さんは2019年に、生活介護事業所の立ち上げに携わるため「小平晴風会」に入職したという

――「小平晴風会」で働かれるようになったきっかけは?

生活介護事業所の立ち上げると聞き、興味を持ったからです。というのも、重い障害のある方が日中過ごす場所が不足をしているということを、よく耳にすることがありました。私が当時働いていた入所施設もそうでしたが、その多くは若いときに入所した利用者さんが、入れ替わることなく高齢になるまで入所をしているケースが多かったんです。

それ自体は悪いことではないのですが、入所施設の数自体もまったく足りておらず、入れ替わりもないため、新たに希望をする方がなかなか入所できないという現状があります。軽度の障害の方でしたら、A型・B型就労支援施設などで就労をすることもできますが、重度の方はそれも難しいため、学校を卒業したあとは自宅しか過ごす場所がないわけです。

生活介護事業所は入所施設と就労支援施設の中間のような役割ですので、重度障害のある方が日中、活動ができる生活介護事業所を立ち上げることに、大きな意義を感じたんです


後編では転職した國武さんが、生活介護事業所を立ち上げた経験や現在の仕事のやりがいについて伺います。

利用者さんが日中の活動を充実させられるよう「ひまわりばたけ」のなかにアトリエやパン工房などの設備も作ることにしたという國武さん。地域に開かれた作りにすることで、地域の方との交流を生み出したいという意図もあったそうです。

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