2021年介護業界動向 新型コロナに負けない10兆円市場
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)一色に染まった2020年も終わり、まだまだその影響が続く2021年も、早くも4分の3が終わりました。
業種によっては新型コロナによって大打撃を受けたり、働き方や企業としてのあり方が様変わりする様子が見受けられましたが、介護業界については実際どのような影響があったのでしょうか。
2021年をうまく勝ち残るためには、2020年の経験を踏まえ、どう対処していくかが非常に大切です。
withコロナといわれる介護業界の現状とこれからについてを、株式会社船井総合研究所にて介護事業や医療業界全般の専門コンサルタントとして活躍中の沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)さんに伺いました。
お話を伺ったのは…
株式会社船井総合研究所
地域包括ケアグループ マネージャー
沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)
デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの新規開設、収支改善、異業種からの介護事業への新規参入支援などを手がける。現在は、デイサービスや有料老人ホームの利用者獲得や新規開設を中心にコンサルティングを行っている。
介護事業所のコンサルティング以外にも、療養病床の転換や訪問診療など医療業界のコンサルティング実績や医療器具の販売促進支援など介護周辺事業についても実績を持つ。
新型コロナの影響は? 2020年も安定していた介護市場
まず、2020年の介護業界の市場動向からみていきましょう。
厚生労働省の統計発表によると、現在の介護保険の利用額としては、利用者の自己負担も含めると10兆5,095億円です。これには介護予防サービスも含みますが、前年度と比較しても3,559億円(約3.5%)増加。毎年右肩上がりに推移しており過去最多の数字となります。
高齢者は増加傾向にあります。これから2025年にかけて、第1次ベビーブームである1947~1949年生まれの通称「団塊世代」と呼ばれる約270万人が後期高齢者となります。
出典元:総務省統計局 高齢者の人口
3人に1人が高齢者となる時代になり、2021年の介護需要の拡大はもちろんのこと、2040年まではさらに右肩上がりの増加が見込まれます。この先ますます高齢者の介護需要は上がっていくでしょう。
2021年4月の介護保険改定の影響
そのため、市場として見た際には介護業界は今後も拡大していくこととなります。しかしながら、介護施設という単位で見ると、一部の介護施設では新型コロナにより大きな打撃を受けました。とくに新型コロナが未知であった2020年の前半については、新型コロナ患者が発生してしまった施設では風評被害も多く、経営状態の回復に時間がかかった施設も複数見受けられます。
現在は、世間がwithコロナに慣れて過剰反応を示さなくなったのと、施設側としてもクラスターが出てしまった場合の設備や職員の対応などきちんとマニュアル化ができていることもあり、2021年に関しては昨年ほどの悪影響は少なくなっています。
新型コロナで社会全体が不要不急の外出を控える自粛ムードとなっています。クラスターが発生した施設以外で、介護業界の中でもっとも影響を受けたのは軽度要介護の利用者を対象としている事業所です。
介護サービスを利用せずとも生活が可能な利用者層がデイサービス等の利用回数を減らす傾向にあり、軽度要介護の利用者の割合が多い施設ほど新型コロナの影響を受けやすくなっています。
「介護保険は要支援、要介護と計7段階に分かれています。施設入所される方の中心は要介護3~5で中度以上です。在宅サービスの場合は施設入所の前の軽度者が利用する傾向が強くなります。軽度の場合、毎日サービスを利用するのではなく、週2程度しかサービスを利用していない方も多くいらっしゃいます。そのような方の中には、利用するのが怖いという理由で利用を控える方が一定数いらっしゃいました。病院や診療所での定期健診を控えるのと同じように介護サービスの利用も控える層が一定数見受けられました。
そのため、2020年の売上が低迷した事業所では新型コロナの影響だと考えている事業所も多いと思います。しかし、売上が低迷している理由としてもう1点考慮すべき点があります。
介護保険については3年に一度報酬改定があります。2015年の報酬改定の際に、軽度者ではなく重度者を中心とした報酬体系に厚生労働省が舵を切りました。
これは、高齢者の増加で社会保障費が膨らむ中で、介護保険を維持するためには財源の見直しをしないとサービスが維持できないからという意図での改定です。つまり、そのタイミングで、軽度者向けのサービスから重度者向けのサービス中心に切り替えたところは今回の新型コロナでの大きな影響を受けていないのです。
間接的ですが、報酬改定への対応が遅れた事業所が今回の打撃を受けやすかったといえるでしょう。」
経営というものは、どんなに業績が安定していても常に臨機応変に対応する必要があるというよい例といえます。業績が下がっている事業所については、今一度経営体制の見直しをしてみましょう。
異業種参入の動向 この数年でブームは落ち着いた
次に、異業種からの介護業界参入についてみていきましょう。国内外食チェーン展開をしていたワタミの参入など続々と参入が進みました。最近では、百貨店事業を主軸とする高島屋が順天堂大学と連携して2021年の3月に同社初の介護保険施設を二子玉川に開業しており話題となっています。
しかしながら、異業種の進出としては、あまり活発な状況ではないようです。
「異業種参入のピークは過ぎたと考えています。現時点では、介護の市場がある程度出来上がってしまっており、これからの参入はちょっと遅いという印象です。
大手で体力のある企業が、介護系企業や事業を買収する形での進出は今後も進むと思いますが、新規の事業としてこれからゼロから立ち上げ、参入するのは難しいものがあるでしょう。」
これからの異業種参入の場合は、事業の柱のひとつとして育てていくためには、市場のシェアを「奪う」必要があるため、資金力が必要となるでしょう。そのため、サブ事業としての取り組みとして進出してくるケースが多くなりそうです。
介護事業は介護保険にどうしても依存する経営体制となりがちですが、異業種から参入の場合、他業界のノウハウを持っている分、よりサービスとしての視点を持って事業に取り組むことができるので、その点は介護業界に引き続き良い刺激を与えてくれるでしょう。
継続する人材不足、ITの活用は今後どの施設でも必須に
新型コロナの影響で、深刻化したのが人材不足。
介護業界は長年慢性的な人材不足に悩まされており、外国人労働者が人材不足解消の希望でした。しかし新型コロナの影響で海外からの出入国に制限がかかってしまい、2020年からは海外からの人材を確保するのが非常に困難な状況となってしまいました。
ワクチン接種により渡航が緩和される見込みとはいえ、まだまだ外国人労働者の確保には時間がかかりそうです。そのため当面は、人材は国内のみで確保する必要があり、国内の求人倍率は継続して高止まりすると予想できます。
介護の場合、国により人員基準が定められているので、専門職の資格をもっている場合はさらに需要が高くなります。求職者にとっては、就職については引き続き有利になるといえるでしょう。
新型コロナで広がったITの活用
人材不足を受けて、重要になったのは業務の効率化です。効率的な施設運営のため、IT導入の必要性は厚生労働省からも報じられてきましたが、もともと社会保障事業は国の事業であるため各種手続きが紙ベースであることや、IT導入には多額のコストがかかることから、積極的な導入は進んでいないのが2020年頭までの状況でした。しかし、新型コロナの影響により大きくIT化が進んだ部分があります。
その一つに家族を含めた外部との面会があります。
施設では、入所している利用者が家族に会えない状況が何カ月も続き、電話だけでなくタブレットを導入し、LINE等を活用してのテレビ電話などを取り入れるようになりました。コストをかけずに気軽に導入できる点で、まずはLINEからという施設も多かったようです。
見守りカメラなどのツールについては、コスト面だけでなくうまく使いこなせないという理由もあり思うように導入が進んでいません。ITについては各施設導入していかなくてはいけないという意識は持ちつつも、使いこなせないという点がネックになっています。
無理に導入をすすめると、従業員にも新しいマニュアルが発生して負担をかけてしまいます。まずは、どの部分にITを導入するのがよいか、従業員の動線や一日の流れを把握して、もっとも有効活用できる部分に予算を投じていくのがよいでしょう。
これからの人材不足にITが必要であることが間違いないので、まず施設内の動きをきちんと可視化して効率化を強化していくことが、これからの介護系施設には求められています。
出典元:
厚生労働省 令和元年度 介護給付費等実態統計の概況
(令和元年5月審査分~令和2年4月審査分)
厚生労働省 平成30年度介護報酬改定の主な事項
総務省統計局 高齢者の人口
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