介護職員は医療行為をしてもいいの?服薬介助はできる?してもよい医療ケアと医療行為違反になるケース
介護職員が一部医療行為を行なうことができるようになった、というニュースが以前話題になりました。喀痰吸引や服薬介助など条件付きで実施できる行為が認められ、利用者の方々の安全が守られる環境は整いつつあるでしょう。しかし、医療行為の範囲については細かい規定があります。
今回は厚生労働省の文献をもとに、介護職員ができるようになった医療行為の範囲について、わかりやすくご紹介していきたいと思います。
- ナゼ? 介護職員が医療行為をできるようになったわけ
- できる医療行為① 原則として医療行為でないと考えられるもの
- できる医療行為② 原則として医行為の規制の対象とする必要がないと考えられるもの
- 爪を爪切りで切る、爪ヤスリでやすりがけをする
- 歯や口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除いて清潔にする
- 耳垢を除去する
- ストマ装具の排泄物を捨てる
- 自己導尿を補助する
- 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いて浣腸する
- インスリン注射は介護職員でも打てる?
- 医療行為とみなされ介護職員が行えない介助
- 喀痰吸引は条件つきでできる医療行為に
- 服薬介助は介護職員がしてもいいの?
- 医療行為か迷ったら必ず医師・看護師へ相談しよう
- 介護職員のできる医療行為は現場に合わせて広がっている
ナゼ? 介護職員が医療行為をできるようになったわけ
2005年に厚生労働省が示した「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」により、介護職員が行なう医療行為が一部認められるようになりました。高齢化が進み、医療的なケアが必要な利用者が増えたこと、医療技術の進歩によって医療機器をつけたまま生活できる人が増えたことが背景にあります。
それ以前は医師や看護師が常駐していない介護施設が多く、誰が医療行為を行なうのかが問題になっていました。そこで、利用者の安全を守ることを目的に、介護職員でも一部医療行為を認める見解が示されたのです。
できる医療行為① 原則として医療行為でないと考えられるもの
ここでは医療行為でないと考えられるものについて、ご説明しましょう。
体温計測をする
水銀体温計や腋窩での測定、耳式電子体温計での測定を指します。
血圧測定をする
自動血圧測定器での測定を指します。
動脈血酸素飽和度を測定する
新生児以外の入院治療の必要がない人に対して、パルスオキシメータを装着することを指します。
軽微な切り傷、擦り傷、やけど等の処置をする(ガーゼ交換を含む)
軽微な切り傷や擦り傷、やけど等について、専門的な判断や技術を必要としない処置をすることができます。この処置には、血液などが付着してしまったガーゼを新しいものに取り替える行為も含まれます。
医薬品使用の介助を行なう
介護職員に許可されている医薬品使用の介助内容について、見ていきましょう。
介助できる条件をチェック
患者の状態が以下の3つの条件を満たしているかが前提であり、条件を満たしているか、医師や歯科医師、看護師が確認します。
① 患者の容態が安定し、治療の必要がないこと
② 投薬量の調整や副作用の危険がなく、経過観察が必要でないこと
③ 内用薬の誤嚥、坐薬については肛門からの出血などの可能性がなく、当該医薬品の使用方法について、専門的な配慮が必要でないこと
条件を満たせば介助できる行為
条件を満たしたうえで介助できる行為は次のとおりです。
・皮膚に軟膏を塗布
・皮膚に湿布を貼付
・点眼薬の点眼
・一包化されている内用薬の内服
・肛門へ坐薬挿入
・鼻腔粘膜に薬剤噴霧を介助すること
できる医療行為② 原則として医行為の規制の対象とする必要がないと考えられるもの
原則として医行為の規制の対象とする必要がない医療行為について、詳しくご紹介しましょう。
爪を爪切りで切る、爪ヤスリでやすりがけをする
爪や周囲の皮膚に化膿や炎症など異常がなく、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要でない場合、爪切りややすりがけが可能です。
ここで注意が必要なのは、「爪切り」という行為ではなく、爪の状態によって可能か不可能か判断しなければならない、ということです。たとえば、ひどい巻き爪の場合は、「爪や周囲の皮膚に化膿や炎症」といった異常があることが多いです。その場合は、介護職員が爪を切ってはいけません。
また、糖尿病は一見無関係のように思えますが、糖尿病と爪には実は密接な関係があります。糖尿病の症状として、巻き爪になってしまったり、爪が厚くなって割れやすくなったり剥がれてしまったりということがあります。
爪に異常がある場合は介護職員が爪切りを行うことができませんので、糖尿病のような、爪に症状が現れる疾患を持っている利用者の爪切りややすりがけはしないようにしましょう。
歯や口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除いて清潔にする
重度の歯周病等がない場合、歯、口腔粘膜、舌に付着している汚れを取り除き、清潔にします。
耳垢を除去する
耳を耳垢が完全にふさいでいる場合を除いて、耳垢を除去することが可能です。
ストマ装具の排泄物を捨てる
肌に接着したパウチの取り替えを除いて、ストマ装具の排泄物を捨てることができます。
自己導尿を補助する
自己導尿を補助するため、カテーテルの準備や体位の保持を行なうことは、法律上許可されている行為です。
市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いて浣腸する
市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いて浣腸することが許可されています。ただし使用する薬剤に関しては、利用者の年齢によって細かく規定があるので確認が必要です。
インスリン注射は介護職員でも打てる?
インスリン注射は介護職員でも打てるのでしょうか?インスリン注射について、ご説明しましょう。
インスリン注射を打つのはNG! 支援は可能に
介護職員がインスリン注射を打つ行為は、認められていません。ただし利用者の方が確実にインスリンを打つことができるよう、支援を行なうことは認められています。
介護者ができるようになった支援とは?
介護職員ができる支援とは、次のとおりです。血糖測定器の準備ができない方の場合、代わりに職員がセットを行います。
“・利用者の方がインスリン注射を忘れないように事前に声をかける
・利用者がスムーズに血糖測定をできるよう声かけや見守りを行なう
・血糖値やインスリンのメモリを利用者と一緒に確認をする”
医療行為とみなされ介護職員が行えない介助
毎日の生活のなかで利用者にとって必要でも、医療行為とみなされてしまって介護職員が
行えない行為もいくつか存在します。どんな行為が行えないのか、代表的なものをご紹介します。
摘便
摘便は、介護職員が行えない行為のひとつです。摘便とは、麻痺で体に力を入れることができないなど、なんらかの理由で自分で排便することができない利用者の、便の排出をケアする行為です。
摘便は適切な手法で行わないと、直腸や肛門、腸壁といった部分を傷つけてしまう恐れがあります。摘便が必要な利用者には、看護師が対応しなければなりません。
褥瘡(床ずれ)の処置
褥瘡(じょくそう)というと聞き慣れませんが、「床ずれ」と聞くとピンとくる人も多いのではないでしょうか。褥瘡(床ずれ)は寝たきりの利用者に発生しやすいものですが、褥瘡の処置とは、言ってしまえば傷の手当です。
褥瘡を清潔に保つための洗浄や、傷口にあてていたガーゼの交換などは介護職員でも行うことができますが、消毒や薬の塗布など治療そのものは医師または看護師に行ってもらう必要があります。
なお、褥瘡の処置そのものはできませんが、褥瘡を予防するための行為は介護職員でも行うことができます。たとえば、寝ている体勢をかえたり、1ヶ所に長時間圧力がかからないようクッションや枕をあてたりといった介助です。こういった行為は医療行為に当たりませんので、介護職員が行っても医療行為違反にはなりません。
血糖の測定
体温や血圧の測定は介護職員が行えると前述でご紹介しましたが、同じ測定でも、血糖の測定は行うことができません。なぜなら、血糖を測定するためには、指先など体内に針を刺す必要があるため、医療行為とみなされてしまうからです。
なお、利用者が自分で血糖測定をする際のサポートは認められています。そのため、血糖測定をする声かけをしたり、血糖を読み上げたり、利用者と一緒に数値を確認するなどのサポートに徹し、利用者には自分で血糖測定をしてもらいましょう。
点滴の管理
点滴は体内に針を刺して行う行為のため、医療行為とみなされます。この場合の点滴の管理とは、利用者に点滴の針を刺すだけでなく、薬剤の袋の交換なども含まれます。そのため、薬剤が空になってしまい新しい袋に交換する必要がある際も、介護職員が行わず、医師または看護師を呼ぶ必要があります。
喀痰吸引は条件つきでできる医療行為に
2011年の「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、喀痰吸引は2012年4月から条件つきで行えるようになりました。将来的により安全なケアを利用者に提供することを目的として、法律化に至ったのです。
対象となる行為は? 喀痰吸引・経管栄養
それでは対象となる行為について、見ていきましょう。
喀痰吸引について
唾や鼻水、肺や気管からの老廃物や小さな外気のゴミを含んだ粘液などを総称し、「喀痰」と呼んでいます。喀痰は定期的に吸引する必要があり、「鼻腔内吸引」「口腔内吸引」「気管カニューレ内吸引」の3つは条件つきで実施可能です。
経管栄養について
経管栄養は、誤嚥による肺炎のリスクが高かったり、さまざまな理由で食べ物や飲み物を経口摂取できなかったりする場合に、チューブやカテーテルをとおして胃腸に栄養を直接送り込む方法になります。「胃ろう」「腸ろう」「経鼻経管栄養」に関しては、介助を行なうことが可能です。
誰ができるようになる? 介護職員・介護福祉士
これらの技術を実施できるのは、介護福祉士の免許を持つ人と介護職員ですが、医師の指示、看護師との連携のもと実施する必要があります。
どこでできるようになる? 特別老人ホームなどの施設や在宅
これらの行為は、特別養護老人ホームなどの施設や訪問介護事業所が訪問する在宅現場で行なわれますが、介護福祉士や介護職員がいる介護事業者であることが条件です。
どうすればできるようになる? 喀痰吸引等研修を受けよう
介護福祉士の場合は、養成課程において喀痰吸引の技術について学びます。介護職員は「喀痰吸引等研修」を受けましょう。たんの吸引等に関する知識や技術を習得することが条件です。
どんな研修を受けるの?
登録機関で実施される喀痰吸引等研修には3つの過程があります。1つは対象となったすべての行為を行なうもの、2つめは気管カニューレ内吸引、経鼻経管栄養を除いたもの、3つめは特定の人へ行なうため実地研修を重視した内容のもの(ALSなどの重度障害者等)です。
研修後は認定証を申請しよう!
現在介護職員として事業所や施設で働いている場合は、研修終了後、都道府県に「修了証明書」を添付して認定証の申請を行います。
服薬介助は介護職員がしてもいいの?
介護施設の利用者のなかには、服薬が必要な人も大勢います。服薬介助は介護職員が行う業務のひとつですが、実は内容によっては介護職員がしてはいけないものもあります。
服薬介助について、見ていきましょう。
介護職員がしてはいけない服薬介助
服薬介助のうち、介護職員がしてはいけない行為についていくつか代表的な例をご紹介します。
PTPシートから薬を取り出す
利用者が服薬する際、薬を取り出して利用者の前に並べるという行為は、実は介護職員には認められていません。ただシートから薬を取り出すだけですが、これは医療行為とみなされてしまうからです。
医師または看護師による経過観察が必要な利用者への介助
服薬によって得られる効果を、医師または看護師が経過観察する必要がある利用者への服薬介助は、介護職員が行うことはできません。たとえば、精神科の薬など大きな副作用が予想される場合や、容態によって薬の量の調節などが必要な場合です。
誤嚥や出血などの可能性がある利用者への介助
介護職員が介助ができる条件のひとつに「内用薬の誤嚥、坐薬については肛門からの出血などの可能性がなく、当該医薬品の使用方法について、専門的な配慮が必要でないこと」があります。
誤嚥の可能性がある場合や何らかの理由で出血してしまう可能性が考えられる坐薬の場合は、服薬介助をすることができません。たとえば、坐薬の挿入は介護職員でも行えますが、利用者が痔を患っていて挿入時に出血する恐れがある場合は、医師や看護師に行ってもらうようにしましょう。
介護職員が行える服薬介助
それでは、どのようなケースなら介護職員が服薬介助を行ってよいのでしょうか?介護職員が服薬介助を行うには、以下のような条件があります。
患者の状態が
①入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
②副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
③内用薬については誤嚥の可能性、座薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと
この3点を医師、歯科医師または看護職員が確認し、これらの免許を有しない者による医薬品の使用の介助ができることを、本人またはその家族に伝えている場合において、介護職員の服薬介助が認められています。
介護職員が行ってよい服薬介助について、例を見ていきましょう。
服用の声かけ
服用の声かけは、服薬介助のひとつです。利用者によっては、服用を忘れている、または服用をしたことを忘れてしまう、といったこともあります。必要な薬をきちんと指定された時間に服用するよう声かけをすることは、介護職員の大事な業務です。
一包化された薬の準備
持病や容態によっては、複数種を服薬しなければならないこともあります。さまざまな薬を服用する際、どれを服用したのかわからなくなってしまったり、服用し忘れたりすることもあるかもしれません。その場合、違う種類の薬が一包化されたものを準備することは、介護職員はしてもよいです。
ただし、異なる種類の薬を一包化することは、処方医師の指導のもと薬剤師が行う必要があるので、介護職員が薬をひとまとめにしてはいけません。
水分の用意
薬を服用するための、水やぬるま湯といった水分の用意は、介護職員も行えます。
飲み込んだか確認する
利用者のなかには、服用を拒否したり、飲んだふりをしてあとから吐き出してしまったりという人もいます。また、顔面の麻痺などでうまく飲み込むことができない、という人もいるでしょう。そのため、介護職員は、用意した薬を隠していないか、口の中に残っておらずきちんと飲み込んだか、といったことを確認しましょう。
医療行為か迷ったら必ず医師・看護師へ相談しよう
ここでご紹介したのはほんの一例のため、介護の現場ではそれ以外の状況もたくさんありますし、めったにないイレギュラーも起こりえます。そのため、必要な対応が医療行為かどうか、迷ってしまうこともあるでしょう。
その場合は、自己判断をしないで、必ず医師や看護師といった専門家に相談し、判断を仰ぎましょう。
また、利用者本人やその家族から、これをやってほしいと頼まれることもあると思います。しかし、それが医療行為にあたるならきちんと詫びて断り、医師や看護師に処置してもらうようにしましょう。
介護職員のできる医療行為は現場に合わせて広がっている
介護職員が行なうことのできる医療行為は、実情に合わせて増えてきています。どのような行為をする場合でも、医療行為であることは決して忘れないようにしましょう。自己判断はせずに、医師の指示や看護師との連携を前提として、慎重に行なう必要があります。
引用元
業務拡大した介護福祉士及び看護師の政策決定に影響した要因
厚生労働省:看護師や介護職員の医療(補助)行為について
厚生労働省:医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)
東京都福祉保健局:~介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律 (平成23年法律第72号)の施行関係~
衆議院:介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律
新潟県:老人福祉施設等における医薬品の使用の介助について(通知)