介護職員資質向上のための目標例を例文付きで紹介|押さえておきたいキャリアパス制度とは
介護職員になってからの目標設定について、悩んでいる方も多いのではないしょうか?個人目標を設定をすることには、事業所と介護職員、双方にとって大きなメリットがあります。
本記事では、介護職員が悩みがちな個人の目標設定の事例をキャリアごとに紹介し、具体的な目標設定の考え方、覚えておきたいキャリアパス制度についても解説します。
介護職員として個人目標の具体例や考え方について確認して、介護職員としての資質向上を目指したい方は、参考にしてみてください。
キャリア別!介護職員資質向上のための目標例を例文付きで紹介
介護職員の目標設定と言っても、キャリアによって目指している目標や重視すべきポイントは異なります。この章では、キャリア別の個人目標の具体例を確認しましょう。
1~3年勤務の新人職員の場合
新人職員の場合まだ仕事をはじめてから年月が経っていないということもあり、どんな目標を設定すればいいかわからないかもしれません。その場合は、まず仕事を覚えるということからはじめてみましょう。
経験年数が3年程度でも、まだ覚えていない仕事や携わっていない仕事もあるでしょう。とくに3年目にもなると、リーダーの業務など新たな業務も追加されているかもしれません。
1~3年目は、まず介護職としての仕事を一通り覚えることを目標とするとよいです。身近な先輩をロールモデルにすると具体的にどんな目標にするか明確になってきます。
個人目標の具体例
勤続年数1〜3年の新人職員は、介護職員としての基礎的なスキルや知識を身につけながら、利用者の情報を整理し、理解を深めていく努力をすることが大切です。
具体的には、下記のような個人目標を立てるのがおすすめです。
・1カ月のうちに、利用者の顔と名前を一致させる
・1日に一回は利用者とコミュニケーションをとるよう心がける
・現場で起きたことを5W1Hを意識して介護記録に記録する
・上司や同僚への報告・連絡・相談を徹底する
このように、利用者とのコミュニケーションを意識し、現場で起きたことを正確に伝え、問題点があっても、適切な対応がとれるように情報共有しようとする意識が大切です。
取得したい資格
基礎的な介護スキル・知識を証明できる介護職員初任者研修や、より実践的な知識やスキルを証明でき、介護福祉士の受験要件にもなっている介護福祉士実務者研修は、新人介護職員が取得するのにおすすめの資格です。どなたでも受験できるので、介護職員としてこれからキャリアアップを目指そうという方に、おすすめの資格だといえます。
介護福祉士実務者研修とは? 初任者研修や介護福祉士とはどこが違うの? おすすめ講座6選を紹介
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4~9年勤務の中堅職員の場合
中堅職員になると、職場のなかでリーダーシップをとることが求められます。くわえて、新人教育に携わる機会も増えてきて、今まで自分が培ってきた技術や知識だけでは補えない部分も出てくるはずです。そのため、今まで以上に知識や経験に焦点を充てて目標を設定することが必要となります。
さらに、この時期から上位資格を取得できるようになるので、さらなるキャリアアップを目標設定にできる時期でもあるでしょう。
個人目標の具体例
勤続年数4〜9年の中堅職員の場合は、基礎的な知識やスキルを吸収し、仕事場の環境や雰囲気にも慣れてくる頃です。また、現場をマネージメントする機会も増えるので、さらなるスキルアップのために、研修・勉強会にも積極的に参加することが多くなるでしょう。
具体的には、下記のような個人目標を立てるのがおすすめです。
・利用者の表情や行動の些細な変化に注意して問題を未然に防ぐ
・利用者一人ひとりに必要とされるケアを常日頃から考えておく
・家族や利用者からの質問に答えられるように勉強する
・他のスタッフに利用者に対する接し方を指導できるようになる
このように、基本的な介護の知識・スキルを身につけ、利用者の行動の細かい部分まで入念にチェックし、より専門的な知識を吸収しようと努力する姿勢が大切です。
取得したい資格
中堅の介護職員が取得したい資格には、下記のようなものが挙げられます。
・介護福祉士:高度な専門知識とスキルを併せ持つ介護職の上位資格
・ケアマネジャー:ケアプランの作成や行政・他事業所との連携を行う
実務経験や特定の資格が必要で、経験とスキルのある中堅以上の介護職員が目指す資格です。日々の職務経験と学習経験によって、資格を取得できる可能性が高まります。
介護福祉士とケアマネジャーの概要については、下記の記事も参考にしてみてください。
介護福祉士になるには?|国家試験の難易度やおすすめの勉強法を紹介 介護福祉士
10年以上勤務のベテラン職員の場合
10年以上の勤務となると、主任やリーダーといったフロア内のトップになるだけでなく、管理職や施設長など施設のトップになる方も少なくありません。この時期の介護職は、後輩の育成や後輩の働きやすい環境作りなどのマネジメント業務も求められるようになってくる時期です。
自分の技術や知識だけでなくマネジメント業務を目標に挙げていくことで、さらに介護職としてさまざまな経験を積めるでしょう。
個人目標の具体例
勤務年数10年以上ともなると、ベテラン職員として働くのが一般的で、現場のマネジメントや新人教育など、責任のある役職に就く場面も多いでしょう。そのため、同僚や部下のマネジメントに関する目標設定が多くなる傾向にあります。
具体的には、下記のような個人目標を立てるのがおすすめです。
・現場の責任者として、現場での事故発生件数をへらす
・コンプライアンスを遵守して、安全・安心のサービスを提供する
・前年度の離職率が◯%だったので、本年度は◯%下げる
・2週間の一回のペースで外部研修に参加し、業務改善に活かす
このように、自分自身だけでなく、同僚や部下に対するマネジメントやサービスの質向上に関する目標設定をし、職場の業務改善に活かそうという姿勢が反映されています。
取得したい資格
ベテランの介護職員が取得したい資格には、下記のようなものが挙げられます。
・認定介護福祉士:主にマネジメント業務を担当する介護福祉士の上位資格
・サービス提供責任者:施設利用者への連絡・調整を行う
認定介護福祉士は介護福祉士の上位資格で、5年以上の実務経験があり、介護福祉士の資格を保有している方が、養成研修を受けることで取得できる資格です。
サービス提供責任者は、関係機関への連絡や調整役として活躍できる仕事。資格要件として、実務者研修や介護福祉士などの資格を保有していることが求められます。
認定介護福祉士とサービス提供責任者の概要については、下記の記事も参考にしてみてください。
サービス提供責任者の仕事内容とは?|サービス提供責任者の資格要件を紹介
目標が思い浮かばない…どうして設定する必要があるの?
キャリア別の個人目標の具体例を見ても、いまいち目的がはっきりせず、内容が思いつかないという方もいるのではないでしょうか?この章では、個人目標を設定するメリットについて確認して、個人目標を設定するモチベーションにつなげてみましょう。
1. 仕事のモチベーション維持につながる
介護の仕事は流れ作業、いわゆる「ルーティーンワーク」となってしまうことが多いです。利用者様も、入れ替わりで入所することもあるでしょう。そのため、日々淡々と仕事をしていると自分が介護の仕事をしている意味を見いだせなくなってしまうこともあるようです。
そこで介護目標を立てておくことで、この目標に向かって頑張ろうと自発的に取り組む気持ちが芽生えてきますし、目標をクリアすることで達成感も生まれてきます。目標をクリアしたあとは、新たな課題も見えてくるのでさらに、課題をクリアできるように頑張ろうとやる気も出てくるでしょう。
2. キャリアアップ・キャリアプランの指針となる
個人目標を立ててコツコツと達成していくことで、自分が今後具体的にどのようなキャリアを築いていきたいかといったキャリアプランの指針にできます。そのため、個人目標を設定するときには数年後のキャリアまで見通しておくことが重要です。
数年後のキャリアを思い描くことで、自分のキャリアアップやキャリアプランが明確になり、長期にわたって介護の仕事を続けるうえでの指針にもなるでしょう。もちろん、キャリアプランは途中での変更も可能です。まずは具体的に考えてみるとよいでしょう。
3. 現状を把握することで効率よくスキルアップできる
個人の目標を立てたり、数年先のキャリアアッププランを立てたりするときに重要なのが、現状を把握することです。現状を把握することで問題点を洗い出し、効率よくスキルアップできます。
ふだんの仕事のなかで、自分の現状をじっくりと振り返る時間はほとんどないでしょう。しかし、個人目標を立てることで、自分の現状を客観的に分析できます。そうすれば、自分が今後どうしていけばよいのかが明確になってくるでしょう。
事業所側にもメリットはあるの?
介護職員が個人目標を立てることのメリットは、職員を雇用する事業所側にもあります。個人目標を設定すれば、事業所が職員のやる気や頑張り、将来のビジョンを確認でき、目標達成をサポートするような教育機会を検討しやすくなるのがメリットです。
思いつかない時にはどうすればいい? 目標設定方法のポイントを紹介
目標設定のメリットについて知っていても、いざ目標を考えてみると、思いつかないケースも考えられます。この章では、目標設定を考える際のポイントを見ていきましょう。
1. 現在の課題を洗い出そう|業務の中で改善したいことなど
まず重要なのが、現在の課題を洗い出していく作業です。ふだん仕事をしていて苦手だなと感じること、避けたいなと思ってしまうことを具体的にしておきましょう。苦手な課題にぶつかったとき、そのことをメモしておくとよいです。
たとえば、利用者様とのコミュニケーションが苦手という方にとっては、コミュニケーションが課題になってくるでしょう。車椅子の介助が苦手という方は、ここを重点的に改善していくことが必要です。
2. 目標を設定しよう|達成可能なレベルにする
次に洗い出した課題をピックアップして、目標を具体的に設定しましょう。このときに意識していただきたいのが、達成可能な目標を立てることです。
少しでも背伸びをして達成がむずかしい目標を立ててしまうと、目標が達成できなかったことによってやる気が喪失したり、介護の仕事そのものが嫌いになったりしてしまうかもしれません。
目標はスモールステップで達成していく方が達成感を得られ、やる気がアップします。まずは達成可能な小さな目標を立ててみましょう。
理想のイメージを思い浮かべよう
介護職としての業務上の課題を目標として定めるだけでなく、自分が目指す介護士としての理想像をイメージして、目標に反映させることも大切です。
周りの同僚や先輩を思い浮かべながら、利用者が壁を感じないように笑顔で接することを心がけたり、トラブルが起きても冷静でいたりする姿などを目標にしましょう。
周りにいる人間をモデルにすれば、目標達成のイメージを思い浮かべやすく、達成すべき目標として、自分の中ですんなりと認識できる可能性が高くなります。
3. 目標達成までの期限を決めよう|具体的な期限を設置する
目標を決めたら、目標を達成するまでの期限も決めておきましょう。ただ漠然と目標を決めて取り組んでいるだけでは、なかなか達成できないからです。
目標を決めたら、達成するまでの期限も決めて取り組んでいく必要があります。このときも、無理なく達成できるようにスケジュールにするのがポイントです。
4. 目標達成のためのアクションを決めよう|必要な行動を選ぶ
目標達成に向けての期限を決めたら、目標を達成するためにはどう行動していけばいいのか決めていきましょう。目標達成のためのスケジュールに沿って、どの時期にどんなことをすればいいのか、自分自身の行動計画を立てていきます。
行動計画を立てることで、その日の業務でなにをすればいいのかが明確になってくるでしょう。さらに、必要な行動がはっきりすれば目標達成に不要となる余計な行動をとらずに済むので、効率的です。
5. 自分のキャリアプランと照らし合わせる|上司にも聞いてみる
ある程度の行動目標が設定できたら、自分のキャリアプランと照らし合わせて、キャリアプランと一致しているかをチェックしていきます。これで、さらに目標達成に近づくでしょう。とはいえ、自分の行動目標と自分のキャリアプランがマッチしているのかを自分でチェックするのはむずかしいかもしれません。
そんなときには、上司に相談してみるのもよい方法です。ふだん自分の働きぶりを見てくれている上司に第三者の目線から目標をチェックしてもらうことで、足りない部分や削ってもよい部分が明確になります。
押さえておきたいキャリアパス制度
少子高齢化に伴う介護人材の確保のために、評価基準を明確にした「キャリアパス制度」の取り組みが注目されています。この章では、介護職員のキャリアアップに大きく関わる評価基準である、キャリアパス制度の概要についてみていきましょう。
キャリアパス制度については、下記の記事でも詳しく解説しています。
介護職員のキャリアパス制度とは? キャリアパスモデルを紹介 キャリアパス要件は何に必要?
キャリアパス制度とは? どんな目的なの?
キャリアパス制度とは、キャリア段階別に昇進の基準を明確に定めることで、介護職員に対して、明確にキャリアアップの道筋を示すことができる仕組みとなっています。
キャリアアップの明確な評価基準を設けることで、介護職員をモチベーションアップさせ、必要とされる介護人材のニーズを満たすことが期待されているのです。
キャリアパス要件とは?
介護職員処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算を受けるためには、厚生労働省が定める、下記のようなキャリアパス要件を満たす必要があります。
①職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
②資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
③経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期的に昇給を判 定する仕組みを設けること
引用:厚生労働省|処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)
どのキャリアパス要件を満たしているのかによって、処遇改善加算の交付金額は変わってきます。適正な賃金体系や昇給する仕組み・研修の機会を作るといった職場改善をすることで、キャリアパス要件を満たし、改善加算の交付を受けられるのです。
介護職員処遇改善加算とは?
介護職員処遇改善加算とは、所定のキャリアパス要件を満たすことで、処遇改善が受けられる仕組みです。具体的には、下記のような処遇改善を受けられます。
※事業所の総報酬にサービス毎の介護職員数を踏まえた加算率をかけた金額を交付
出典:厚生労働省|処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)
ちなみに、上記の表に記載している処遇改善加算の交付金額は、以下で紹介する介護職員等ベースアップ等支援加算の月額0.9万円を合算した金額になっています。
介護処遇改善加算とは? 介護職員以外も対象になるの?|介護職員ベースアップ等支援加算との違いとは
介護職員等ベースアップ等支援加算とは?
介護職員等ベースアップ等支援加算とは、前述した処遇加算の(Ⅰ)〜(Ⅲ)のいずれかを取得している事業所に対し、介護職員の基本給の充足のために、収入の3%程度である月額0.9万円が交付される処遇改善加算です。
加算額の2/3の金額は介護職員のベースアップに使用されることが要件とされており、事業所の判断で、他の職員の処遇加算にも充てられるといった柔軟な運用ができます。
介護職員処遇改善加算のキャリアパス要件を満たせば追加で交付される、処遇改善加算の仕組みであることを覚えておきましょう。
介護職員等ベースアップ等支援加算とは? 介護職員処遇改善支援補助金とはどこが違うの?
個人目標設定はメリット多し! 目標を着実にクリアしてキャリアアップを目指そう
介護の現場で長きにわたって仕事をし、キャリアやスキルをアップしていくためには目標設定をする必要があります。目標設定はただ漠然とするのではなく、具体的な内容や達成する期日などを無理なく自分に合ったものに設定することが重要です。
また、キャリアパス制度の導入による、給与・待遇などの評価基準の見える化によって、介護職員として求められる資質や知識・スキルについての情報共有が可能になりました。
具体的な評価基準が設けられたことで、キャリアアップの目標を決めやすくなり、さらには処遇改善加算で、基本給・基本手当が加算されるようになったのは大きな変化です。
今の自分の現状を知りながら目標を明確にし、その目標を着実にクリアしていくことで、達成感が得られます。設定した目標をクリアして、キャリアアップを目指しましょう。
引用元
厚生労働省:介護人材の機能とキャリアパスについて
厚生労働省:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)