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特集・コラム 2021-09-01

デジタル×介護の2021年動向 人材不足をITで救えるか

世の中が新型コロナウィルス感染症(COVID-19)一色に染まった2020年。感染予防の観点からソーシャルディスタンスという言葉が生まれ、対人関係のあり方が大きく変わってしまいました。
集団生活を営む入居型介護施設をはじめ、人の接触が多く発生する介護業界でも新型コロナを機に様々なことが変わりつつあります。

今回、withコロナといわれる介護業界の現状とこれからについてを、株式会社船井総合研究所にて介護事業や医療業界全般の専門コンサルタントとして活躍中の沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)さんに伺いました。

お話を伺ったのは…

株式会社船井総合研究所
地域包括ケアグループ マネージャー
沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)

デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの新規開設、収支改善、異業種からの介護事業への新規参入支援などを手がける。現在は、デイサービスや有料老人ホームの利用者獲得や新規開設を中心にコンサルティングを行っている。
介護事業所のコンサルティング以外にも、療養病床の転換や訪問診療など医療業界のコンサルティング実績や医療器具の販売促進支援など介護周辺事業についても実績を持つ。

急務はコロナで失った外国人雇用の穴埋め

まず、介護業界での新型コロナそのものの打撃を考えると、特定の施設でクラスターの発生や利用者数減はあったものの、介護保険は社会保障内のサービスが大半を占めていることもあり、業界としては大きなダメージはなく従来通りの市場規模となっています。

2020年の要介護(要支援)認定者数は、667.4万人で、うち男性が210.5万人、女性が456.9万人となっています。第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合は、約18.4%。
介護保険事業状況報告の概要 (令和2年2月暫定版)

2021年の要介護(要支援)認定者数は、679.2万人で、うち男性が215.0万人、女性が464.2万人となっています。第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合は、約18.6%。
介護保険事業状況報告の概要 (令和3年1月暫定版)

この数字から分かる通り、需要の面でいうと、今年も要介護認定者と後期高齢者の人数は増加しており、介護保険の利用者数としては増加し続けるといえるでしょう。それに対し、働き手はどうかというと、介護業界では深刻な人材不足が続いています。さらにコロナ禍で、技能実習生をはじめとした外国人労働者の確保が困難になってしまい、人材不足に追い打ちをかけている状況です。

「外国人労働者が再び入ってこれるようになるまでは今の人材不足の状況が継続します。少ない人数で生産性をあげる方法を考えなくてはいけません。今年の4月の介護報酬改定では、政府としてIT導入を進めることで人材不足を補填しようという新たな動きがありました。」

今年、3年に一度の介護報酬改定がされたばかりですが、その主題の中にIT導入について明記されています。一部かみ砕いて紹介すると、令和3年度介護報酬改定の主な事項4.(2)テクノロジーの活用や人員・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担軽減の推進が掲げられ、運営基準や加算の要件等における各種会議等の実施について、感染防止や多職種連携促進の観点から、テレビ電話等を活用しての実施を認めることや、薬剤師による情報通信機器を用いた服薬指導も対応可能となりました。これは遠隔での調整がしやすくなったため他職種と連携するための時間のロスや、訪問のための移動時間のロスの抑制につながります。

「厚生労働省としてはロボット活用を進めようという方針を前から持っていたのですが、介護業界についてはITリテラシーが他の業界と比較し高くなく、メインの情報伝達手段はFAXなどの紙文化が続いています。それでも一部人材不足に危機感を持っている経営者もおり、より少ない人数でオペレーションを回そうという認識のもと、IT化を進めなくてはという動きが広がってきています。」

ほかにも、政府が推奨する取組みとして、行政手続きのオンライン化や、電子資料の活用など文書負担軽減に関する事柄があげられます。まだまだ紙文化ではありますが、業界全体が少しずつIT化に向けて前進をはじめました。

コロナで直面した面会問題 LINEを活用したオンライン面会

新型コロナで打撃を受けたのは、人材だけではありません。他介護施設でのクラスター発生や緊急事態宣言発令を受け、なるべく外部との接触を減らす目的で、面会をNGとする施設が多くでてきました。ニュースで話題となっていたのでご存じの方も多いことでしょう。

しかし、家族に会えないというのは入居者からすると大きなストレスで、家族にとっても様子が分からないというのは非常に不安なものです。そういった本人や家族の不安を解消するために、タブレットを導入し、テレビ電話でのWEB面会を導入した施設が少なくありません。

とくにLINEに関しては、無料での使用が可能であることと、個人でも使っている方が圧倒的に多いため手軽に導入しやすいということもあり、LINEを活用してオンライン面会を実施していた施設も複数ありました。これまでIT導入に対して消極的だった施設も取り入れ始めたので、その点では新型コロナが良いきっかけとなりました。

LINEは通話機能だけでなく、LINEWORKSというビジネス機能で、利用者情報共有や医療スタッフとの連携に使っている例もあるようです。個人情報の管理には細心の注意が必要ですが、グループで複数の業態、施設を運営している法人の場合は横の連携でこういった機能を活用するのもよいでしょう。

しかし、全面的なIT導入化が進んでいるかというとまだまだ足踏み状態です。その原因としては、IT導入には多額のコストがかかるという点があげられます。

IT導入は投資額とのバランスが需要

これから先の団塊世代の高齢化による需要アップと、少子化や外国人雇用の供給ダウンを考えると、一刻も早くIT導入を進めないといけません。しかしながら、IT導入はまだまだハードルが高いということが実情として分かりました。ハードルの高さを感じる要因として、投資金額が大きくなってしまうことがあげられます。たとえばタブレットやPCを複数台確保するだけでも結構な金額になります。

「これまでサービス提供した際の記録を紙でおこなっていましたが、タブレットでの入力に切り替えている施設もあります。ただ、現状ではそこまでタブレットでの記録を行っている施設は増えていません。

見守り系のセンサーもこの1年で大幅に導入が進んでいるという話は聞きません。もちろん徐々に増えてはいますが、コロナの影響で増えたというわけではないのです。未来を見据えて投資を行う施設を中心に導入が進んでいます。ただ、見守りセンサーひとつにしても、せっかく高額を払って導入しても活用できていなければ意味はありませんから使いこなすための体制づくりが必要です。」

IT導入に対しては土台作りが重要ですが、一番のネックである資金面に関していうと、ICT※導入支援事業というくくりの中で、地域医療介護総合確保基金により、記録業務、情報共有業務、請求業務を一気におこなう事が出来るよう、介護ソフトやタブレット端末の導入を支援しています。※(Information and Communication Technologyの略で、日本では「情報通信技術」と訳される)

こういった助成金をうまく活用しながら、利用者が快適に暮らせる環境づくりと、スタッフの働きやすい環境づくりを同時に整えていかなくてはいけません。そのためにも、まずは業務を可視化し、スタッフひとりひとりにIT活用しなくてはいけないという意識を持たせることが必要になってきます。

また、IT導入は、機械が苦手なスタッフの場合操作を覚えるまでにも負荷がかかりますので、導入時に負担とならないよう配慮しなくてはいけません。うまくマニュアルを作り職場環境にITをなじませていくことも、今後の経営者サイドの取り組むべき事項でしょう。

出典元:
介護保険事業状況報告の概要 (令和2年2月暫定版)
介護保険事業状況報告の概要 (令和3年1月暫定版)
令和3年度介護報酬改定の主な事項
LINE WORKS
介護現場におけるICTの利用促進
居宅サービス事業所における ICT 機器・ソフトウェア導入に関する手引き Ver.1.1

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