交流し、お互いを知る場に。地域に開かれた生活介護事業所を目指す【介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画 小平晴風会 施設長 國武洋絵さん】#2
業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「介護・看護・リハビリ業界のお仕事企画」。
今回は社会福祉法人 小平晴風会が運営する知的障害者の生活介護事業所「ひまわりばたけ」で施設長として働く國武洋絵さんにお話しを伺います。
前編では國武さんがこの業界に入ったきっかけや、最初に働いた入所施設での経験を伺いました。
後編では転職した國武さんが、生活介護事業所を立ち上げた経験や現在の仕事のやりがいについて伺います。
利用者さんが日中の活動を充実させられるよう「ひまわりばたけ」のなかにアトリエやパン工房などの設備も作ることにしたという國武さん。地域に開かれた作りにすることで、地域の方との交流を生み出したいという意図もあったそうです。
お話しを伺ったのは…
社会福祉士法人 小平晴風会
施設長/サービス管理責任者
國武洋絵さん

専門学校卒業後、重度心身障害者の入所施設に入職し、20年近く経験を積む。その後、生活介護事業所のあり方に興味をもったことがきっかけで、小平晴風会に入職。施設長として生活介護事業所「ひまわりばたけ」の立ち上げに携わる。
アトリエやパン工房を立ち上げ。地域の方との交流の場を作る

國武さんが働く「ひまわりばたけ」に併設されたパン工房「ひまわりばたけ工房」。素材にもこだわったパンのため、足しげく通うリピーターも多いという
――國武さんは「ひまわりばたけ」の立ち上げから施設長として働かれているとのことですが、アトリエやパン工房を併設させたのは國武さんのアイデアですか?
そうです。立ち上げ当初はアトリエもパン工房もなかったのですが、利用者の方が日中の活動をより充実させられるように考え、作ったものです。アトリエは絵を描いたり、色を塗ったりする方が比較的多かったために、思いつきました。
重い障害のある方が多いので、集中力が続く方でも5分、なかには1、2分しか集中力が続かないという方もいらっしゃいます。そういう方でも不思議と絵を描くのは好きで、長く集中できるという方も多いため、アトリエを作ることを思いつきました。今はポチ袋やキーホルダーなど、作品の販売も行っています。
――パン工房はどんなきっかけで?
以前とある作業所でパンを作っていた利用者さんが、「もう一度パンをやってみたい」と言ったのがきっかけでした。ほかの利用者さんのなかでもパン作りに付随した作業ができる人もいらっしゃると思ったので、事業所としてパン活動を始めることになったんです。
作業内容は利用者さんによって異なりますが、衛生面が保てる人という前提はありながらも、粉を混ぜるだけ、ふるうだけなど、細かく作業を分けることで、何らかの形で携われる方を増やしていくようにしています。今は粉を混ぜるところから成形までできる人が増えたのでその部分はお任せして、焼くときは職員が担当しています。
――パン工房があることで、地域の方との交流も生まれそうですね。
はい。「ひまわりばたけ」を地域に開かれた場所にするというのは、この活動の場を作るときに考えていたことでした。パンを定期的に買いに来てくださる方も随分増えましたし、アトリエも全面ガラス張りにしてあって利用者さんがどんな活動をしているか、外からも見えるようにしています。
障害のある方に対して、なんとなく怖いという印象を持っている方はいると思うのですが、それはやはり交流する場が少ないからだと思うんです。この場所が少しでもお互いを知るきっかけになればいいと考えています。
――入所施設から生活介護事業所に移ってみて、違いを感じることはありましたか?
それまで働いていた入所施設は高齢の利用者さんが増えていたので、若い利用者さんが多い「ひまわりばたけ」では、そのパワフルさに圧倒されることがありました(笑)。
あとは先ほどお話ししたこととかぶりますが、利用者さんと一緒に活動を考えられることが、とても楽しかったです。理事長が運営のほとんどを私に任せてくれているところがあり、利用者さんのやってみたいという気持ちを形にしてくれるんです。それが「ひまわりばたけ」で働く、大きなやりがいになっています。
願いを聞き、安心な場だと伝え続ける。強度行動障害が改善

印象的だった利用者さんとのエピソードについて話してくれた、國武さん
――ここでのお仕事で印象に残っているエピソードはありますか。
この事業所の立ち上げ当初から通っている、自閉症で強度行動障害のある男性の方との思い出でしょうか。ここに通い始めたばかりのころは問題行動が多く、パソコンを見たら壊してしまう、自分の動線上に誰かがいると殴ってしまうなど、頻繁に他害行為が出てしまう利用者さんでした。
それが本人とも向き合い、親御さんとも連携を続けるうちに、ほとんど問題行動は出なくなったんです。彼との信頼関係も築けたのかなと思っています。
――どんなアプローチをされたのですか?
彼の願いを聞くという姿勢を見せたこと、そしてここが安全な場所なんだと伝え続けたことが大きかったのかなと思っています。この経験を通して、やはり利用者さんそれぞれに合理的配慮をしていき、生きづらさがなくなるようなお手伝いができれば、強度行動障害も少なくなるということに、改めて確信が持てたと思います。
目指すのは「ノーと言わない」支援

利用者さんとの関係性のなかでは、否定をしないことを何より大切にしているという國武さん
――お仕事のなかでもっとも心掛けているのはどんなことでしょうか?
否定をしないということです。障害の有無に関係なく誰でもそうだと思うのですが、闇雲に否定されたらいい気持ちはしないと思うんです。それに多くの利用者さんがこれまでの人生のなかでちゃんと話しを聞いてもらう経験がとても少なかったり、怒られることが多かったりします。利用者さんとの信頼関係を築くうえでは、否定をしないことはとても大切だと感じますね。
職員にも常に「ノーといわない支援」を心掛けてもらうようにしています。仮に実現することができない要求だったとしても、まずは話しを聞く。問題行動が出たときも、最初から強く注意をするのではなくて、どうしてそうなったのか、なぜそういう行動をしたのかを確認するようにしています。
――そのように心掛けるようになったきっかけというのはあるのですか?
自分でいうのも何なのですが、私は利用者さんと関係性を作ることが得意で、それはなぜなのかと考えてみたことがあったんです。そのときに、私は以前からあまり利用者さんのことを否定することがなかったので、もしかしたらこの要素が大切なのかもしれないと気づきました。
利用者さんのなかには、おおげさなことや嘘を言う方もいるのですが、それでも大切なのはまずちゃんと話を聞くことだと思っています。その後ちゃんと裏どりをしてから、冗談っぽく「本当はこうなんじゃないの?」と伝えると、「実はね…」と話してくれることがあります。
――この業界に入ったきっかけは、なんとなくだったとおっしゃっていましたが、こんなに長く働くことは想像もしていなかったですか?
そうですね。ただ、途中からどんどんやりがいを感じるようになってきていました。大変なこともあるのですが、利用者さんから元気をもらっているので、乗り越えられてしまうんですよね。敏感な方が多いのでこちらが疲れていたりすると「大丈夫?」と聞いてくれたり。優しい方が多いんです。
また行動障害のある方への対応は難しい部分がありますが、自分が考えた支援で行動障害のある方が変わっていく姿を目にすると、この仕事は楽しいと感じます。
自分の引き出しが増え、支援の幅が広がったのは、これまでたくさんの利用者さんに携わり、みなさんから学ばせていただいたからだと感じます。利用者さんから学んだことを別の利用者さんに返していく。それが恩返しになると思って、今日も仕事に向き合っています。
重度障害者の方の日中の活動場所となる、生活介護事業所はまだまだ少ない現状があるそうです。学校を卒業したものの居場所がない方が引きこもってしまうという事例も。「生活介護事業所が増え、地域のなかで生き生きと暮らせる方がもっと増えるといいと思います」という、國武さんの言葉が印象的でした。












