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特集・コラム 2019-10-03

介護の扉 No.1/株式会社Join for Kaigo_代表・秋本可愛(後編)

「1万人の介護リーダーが、日本の豊かな未来社会をつくる」

介護業界にいる人たちが介護業界を前向きに変えられない理由

——先ほど(前編)少し触れましたが、介護業界のイメージはまだまだ誤解も多く、前向きなものは少ないように感じます。秋本さんが考える現在の介護の問題は何だと思いますか?

国は「2025年までに、55万人の介護人材の確保が必要」(参考:厚生労働省『第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について』)と、人材不足にフォーカスした主張をしています。しかし、私たちが事業を進めていく上で感じる最も強い課題認識は、人材不足や財源の不足などが相まったことによって生まれた介護業界に対する疲弊感や閉塞感です。

これからさらに介護問題が深刻化するといわれている手前、介護業界にいる人たちには「これまでのやり方を変えること」や「新しいチャレンジ」が求められているのですが、疲弊感と閉塞感が分厚い壁となっており、阻害されています。閉鎖的な環境で日々の仕事に忙殺されているがゆえに、みんな疲れてしまっていて……。本来、課題解決していくべき人材が実践者になれていないのです。どちらかというと、誰かが現状を変えてくれるのを待ってしまっている。可能性はすごくあるのに……。現在の環境がそうさせてしまっていると思います。

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「お裾分けの精神」がない組織の未来は、買収されるか倒産するか

——その「現在の環境」を変えるために、「CHANT」を開催しているのですね。

これだけ介護業界でリソースが不足している現状を踏まえると、採用はもう1社だけでは勝てないと見ています。

以前、とある地域の介護の合同説明会に足を運んだときの出来事なんですが、人の取り合いがすごいんですよ! キャッチみたいでした(笑)。福祉の意味する助け合いの精神とはかけ離れている光景に、違和感を覚えましたね。一方で、大阪の社会福祉法人が4社合同で「フクスタ」というインターンシップを開催しているクライアントがいるのですが、非常に効率的な採用ができています。

1社に対して30人の応募があって2人しか採らないのなら、みんなで30人集めてそれぞれ合う会社に応募者を振り分けたらいいじゃないですか? うちがダメでも隣が良ければそれでいい。「お裾分けの精神」ですよね。それが、本来の福祉の姿であると思います。

今の介護業界は、もう変わるしかない限界のところまできちゃっていますから。捉え方によっては良い転換期かなって。人を大切にできなかったり助け合ったりできない組織は、今後買収されるか倒産するか、いずれかの運命にあるような気がします。なぜなら、介護事業は「人」に紐付きすぎている事業だからです。

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1万人の介護リーダーの必要性を教えてくれた2つの施設

——秋本さんに今見えている介護業界の未来は、どんな光景なのでしょうか?

いくつかのコミュニティをつくって6年が経ち、いろいろな思いを持った人たちがアクションを起こしていく場面を見てきました。それを見て思ったのは、一人ひとりの思いがちゃんとアクションに変わっていったその先に、いろんな人たちの幸せと可能性が生まれるということです。コミュニティの力でさらに加速される未来は、とんでもなく面白いものになるんじゃないかな?

私たちは、2025年までに1万人の介護リーダーが在籍するプラットフォームをつくることを、目指しています。介護領域に志を持つ1万人が、各地域や現場でリーダーシップを発揮して、アクションを起こしていく未来を考えると、ワクワクしますね。私の周りに100人・1000人いるように、その人たちの周りにも100人・1000人いるような状況が生まれたら、結構な数になります。彼・彼女たちが介護に対して前向きなアクションを起こすことで、一気に介護の世界に対する価値観が変わるのではないでしょうか?

石川県にある、社会福祉法人佛子園(ぶっしえん)さんが運営している高齢者向けデイサービス施設があります。廃寺を改装してつくった西圓寺(さいえんじ)という施設なのですが、驚くのが、周辺市町村は人口が減少しているのに、この施設がある野田町だけ人口が増え続けているんですよ!

施設には障害者の就労施設もあり、高齢者と障害者が交流できます。また、地域住民が無料で利用できる温泉施設もあり、カフェも併設されているんですね。施設内でカップルがご飯を食べている日もあって、誰も高齢者のデイサービス施設とは思わないような光景が広がっています。私が一番好きな施設ですね。

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兵庫県にあるサービス付き高齢者向け住宅・はっぴーの家ろっけんは、1階がリビング、2階から6階が高齢者の住宅になっているのですが、入居者ではない人たちが週に200人訪れます。リビングには、子どもを連れたママやノマドワーカーといった施設に関係ない人が半数以上出入りしており、高齢者と同じ空間で過ごしているんですよね。私の知り合いがはっぴーの家ろっけんの近くに住んでいるんですが、子どもがまだ1歳くらいなので、子どもはおばあちゃんたちに面倒を見てもらって、自分は仕事をしているそうです。

介護以外の社会福祉の問題として、「待機児童」「子どもの貧困」「孤立」などが挙げられますが、西圓寺やはっぴーの家ろっけんの事例を見ると介護業界の幸せを追求すれば社会福祉のトータル的な問題解決ができる気がしますし、高齢者を含めた全世代が暮らしやすい世界がつくれる気もします。だからこそ、1万人の介護リーダーが必要なんです。

超高齢化社会をポジティブに変革する「KAIGO LEADERS VALUE」

——「1万人の介護リーダー」の定義とは、何ですか?

今、「KAIGO LEADERS」のコミュニティには約3000人が在籍していますが、彼・彼女たちはいわゆる「カリスマリーダー」ではなく、リーダーの定義も明確に決めているわけではありません。大切なのは、それぞれの環境の課題に対してリーダーシップを発揮できる人が増えることだと思っています。

そんな未来を一人ひとりがつくっていく上で、大切にしていきたい価値観を言語化しました。それが、超高齢化社会をポジティブに変革するための5つの価値観「KAIGO LEADERS VALUE」です。

KAIGO LEADERS VALUE
①違和感を見つめる
②つながりに気づく
③柔らかく考える
④思いをシェアする
⑤まず動いてみる

今の社会には、正解がありません。だからこそ、自分らしく生きることが大切なのですが、そのよりどころにもなるのが、「KAIGO LEADERS VALUE」の価値観だと考えています。これまで「PRESENT」をはじめとする講演会を15回続けてきましたが、トップランナーたちが同じような内容を話していることに気づきました。そういったトップランナーの共通の思想を紐解いてまとめたのが、「KAIGO LEADERS VALUE」でもあります。

私はこの価値観を体現できる人たちを増やそうと考えていて、カードをつくりました。「KAIGO LEADERS VALUE」に共感してくれた人にお買い求めいただいたり、イベントや講演会場などで配ったりしています。カードには全て異なる番号が付いていて、私は118番の赤のカードを持っています。本当は1番を持っていたのですが、共感してくれた人にお渡ししていたら、この番号になりました(笑)。まずは、このカードを持つ人を1万人にしたいです!

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自分の選んだ道を正解にするためには、自分がその選択に納得していることが大事

——これから介護業界を目指す人たちに対して、「働き方の多様化」の視点でメッセージをお願いします。

国からも副業が認められ、一つの会社に勤めるのが当たり前じゃなくなってきた傾向があります。その中で大事だと思うのは、何が自分の幸せにつながるのか、自分にとって何が大切なのかをよく知ることです。なぜなら、目の前の選択肢がより多くなってきている現在、必ずしも誰かの正解が自分の幸せであるとはいえないからです。自分の人生に責任を持てるのは自分しかいません。だからこそ、自分が納得した人生を送るためには自分と向き合うことが大事なのではないかと考えます。

私が大学を卒業して起業する頃よく言われていたのは、「まず3年、同じ会社で働け」ということ。これはある意味正論だし、それに従わなかった私は人生のどこかで何かしらの弊害が起きているのかもしれません。でも、あのとき独立したことを後悔していませんし、独立してなかったら現在(いま)はなかったと思います。

そして、例え失敗しようと他人から何を言われようと、自分の選んだ道を正解にするためには自分がその選択に納得していることが大事だと思っています。でも、選択には不安や迷いは付き物なので、相談できる仲間の存在はとても大切です。私がコミュニティをやっているのは、自分自身のためでもあるのかもしれませんね。

私は、課題を見つけて解決することが好きです。起業してからこれまでの7年間もずっとそうで、課題を見つけては何かをやり始め、それをやり始めたらまた別の課題が見えてくる……の繰り返しでした。一つ一つのプロジェクトの達成感はあるんですが、またすぐ次の課題に飛び込んでいくのが好きというか、飽き性なんでしょうね(笑)。

あとは、人を笑顔にしたり幸せにしたりする環境をつくることが、昔から好きなんです。自分が介護を受けるようになったとしても、身体が動く限りはずっと新しいことをやらせてもらえる環境だとうれしいですね。介護する側からはすごい嫌がられるかもしれないけど(笑)。

介護の世界は、人ありき——。だからこそ、一人の意識の変化が相当数になれば、大きな変革が起こせるはずです。1万人の介護リーダーが日本の社会を変え、赤ちゃんから高齢者までが幸せに暮らせる世の中をつくる。秋本さんが先頭に立って旗を振り続けるJoin for Kaigoは、この未来を近い将来、実現してくれることでしょう。

介護の扉 No.1/株式会社Join for Kaigo_代表・秋本可愛(前編)>>

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