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特集・コラム 2019-10-01

介護の扉 No.1/株式会社Join for Kaigo_代表・秋本可愛(前編)

「人生の延長線上にある『介護』を肯定的に迎えられる社会をつくりたい」

介護を取り巻く環境や問題、自身や周りの介護経験談、未来の介護などについて、ざっくばらんに本音を語っていただく連載「介護の扉」。第1回を飾るのは、今年2月、毎年地道に積み重ねてきた取り組みが評価され『第10回若者力大賞』(主催:公益財団法人日本ユースリーダー協会)を受賞した秋本可愛(かあい)さんです。

「介護から人の可能性に挑む」をミッションに掲げ、介護業界の未来を担う若手として注目される秋本さんに、現在の介護業界の課題や、課題がありながらも明るい介護の未来を描かれる理由をお聞きしました。

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株式会社Join for Kaigo・代表取締役 秋本可愛(あきもと・かあい)

大学2年生の春、認知症予防を目的としたフリーペーパー『孫心』(まごころ)を制作する過程で介護のアルバイトを始める。その後、介護業界の課題意識を感じ、2013年4月、株式会社Join for Kaigoを設立。超高齢化社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「KAIGO LEADERS」を運営しながら介護事業者の採用・育成支援や行政主体の研修企画・運営を行なっている。

介護がみんな通る道なのであれば、ワクワクした道にしたい

——Join for Kaigoのコーポレートサイトのトップにもある「全員参加型の社会づくりを、介護から」。このメッセージを掲げた背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

会社名の「Join for Kaigo」には、「全員参加型の社会づくりを介護から」のメッセージを込めています。学校に入学し、卒業する。社会に出て、社会人になる。結婚をして子どもを産み、育てる。私たちは誕生してから死ぬまで、さまざまなライフイベントを経験します。その経験の延長線上に必ずあるのが介護なのですが、なぜか他のライフイベントより「幸せじゃない」イメージがありますよね。私は、学生の頃から「介護がみんな通る道なのであれば、ワクワクした道にしたいな」といった漠然とした思いを抱いていました。

「歳もとったし、介護が必要になるのは仕方ないよね……」といった「しょうがない」ではなく、もっと肯定的に介護を迎える社会をつくりたいんです。特に若い人たちの多くは介護に無関心なので、少しでも自分事として考えてもらえるよう、介護の魅力にもっと光を当てていきたいと考えています。

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——確かに待遇面や体力的・精神的なきつさなど、若い世代の介護に対する見方はネガティブな側面があるように見受けられます。そんな現状がある中で、Join for Kaigoはどのような事業を手掛けているのですか?

大きく分けて2つあります。1つは介護に志を持つ若い方たちのコミュニティ「KAIGO LEADERS」の運営(2019年8月現在、参加者は約3000人)、もう1つは介護事業所を運営する組織側の採用支援や人材育成支援です。

——なぜ、「コミュニティ運営」に着目したのでしょうか?

最初からコミュニティを強く意識していたわけではありません。Join for Kaigoの活動を続けていくうちに、その必要性を感じてきたんです。

私は大学生の頃に介護の現場でアルバイトをしていたのでわかるのですが、現場のスタッフは利用者さんと一緒に働くスタッフだけとしかつながりを持てないんですね。そういった限られた世界の中でネガティブな介護のニュースばかりに触れていると、すごく疲弊します。前向きに介護のニュースを発信してくれているメディアも増えてきてはいますが、まだまだ多くありません。また、現場で上司に教えてもらったとおりに一生懸命仕事しているだけでは気づけないこともあります。

そのような背景と、社会に出てから「アルバイト時代の介護に対する姿勢の間違い」に気づいた経験もあり、外の新しい情報が聞けて前向きな話ができるつながりや機会が得られるコミュニティ「KAIGO LEADERS」をつくろうと考えました。

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あおいけあの加藤忠相さんに教えてもらったこと

——「限られた世界の中でネガティブな介護のニュースばかりに触れていると、すごく疲弊する」。これは、実際に現場で働いた経験がある人にしか出せない見解ですが、「アルバイト時代の介護に対する姿勢の間違い」とは、一体何だったのでしょうか?

私がアルバイトしていた施設でよく「生きていることが申し訳ない」「迷惑ばっかりかけて、ごめんね」と口にしていたおばあちゃんがいました。そのときはただ「人生の終わりは必ずしも幸せじゃないんだ」と悲しく思っていたんですが、そう感じさせていたのは自分だったかもしれないと、介護の世界の外に出てから気づいたんです。それを教えてくれたのは、「KAIGO LEADERS」のイベント「PRESENT」でお会いした株式会社あおいけあ・代表取締役の加藤忠相さんでした。
私は、利用者さんができないことをその人の代わりに一生懸命やってあげることが介護だと思っていました。しかし、加藤さんは違いました。「介護者の役割は、『高齢者のお世話係』ではない。認知症や要介護認定されたとしても、その人が地域の中でいかに活躍できる環境をつくれるかが介護職の役割なんだよ」と教えてくれたんです。

実際、あおいけあの施設では、実際に認知症のおばあちゃんが地域のゴミ拾いをしていたり、認知症の周辺症状(BPSD)が出ている元庭師のおじいちゃんがなたを持って介護事業所周りをすごくきれいにしていたりと、高齢者の方々が活躍しています。ちなみに、そのおじいちゃんは自分の活躍の場を得たことで、BPSDがなくなったそうなんです。アルバイト時代は「介護がこんなにも可能性がある仕事なんだ」とは思っていませんでした。

私が関わったおばあちゃんのように、関わる人の在り方によってその人の暮らし方や終わり方が決まってしまうくらい、介護の仕事は大切で責任が重い仕事です。だから、新しい価値観や知らなかった情報を得ることは、利用者さんにとっても介護の現場で働く人にとっても大きな助けになると思います。

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コミュニティの力は人のアクションを支える

——あおいけあのおばあちゃんとおじいちゃんのエピソードは、「関わる人の在り方によってその人の暮らし方や終わり方が決まってしまう」ことの一つの裏付けですよね。ちなみに、「PRESENT」とはどんなイベントですか?

「PRESENT」は、学びたいテーマに関連するすてきな講師をお迎えし、共に考え、対話をし、つながる、ご褒美(プレゼント)のような学びの場を提供するイベントです。

介護職として専門的な知識やスキルを学ぶ機会は組織内でもいろいろあるとは思いますが、「PRESENT」では、今までとは異なる新しい取り組みを始めていたり新しい価値観を提示したりしているトップランナーにご講演いただいているのが特徴です。同時に、取り組みだけではなく、その方たちの思想の背景を学ぶ必要性もあると感じて、「PRESENT」を始めました。

学習の面に目を向けると、優良な介護事業所やカリスマリーダーがいる地域はその機会があるのですが、そうじゃない所は諦めるしかありません。介護事業所ごとの地域差が生まれているんです。「KAIGO LEADERS」のコミュニティで解決したいことの一つが、この「地域差」なんですね。特定の地域だけが幸せになるのではなく、その地域で働いている一人ひとりがリーダーシップを発揮して、自分たちの幸せをつくってほしいのです。全員のリーダーシップを高めることができれば、現場や地域でのより良い実践事例が増え、より豊かな社会につながると思っています。

課題解決の行動を生むプログラム——「KAIGO MY PROJECT」

——「KAIGO LEADERS」では「PRESENT」以外に「KAIGO MY PROJECT」という取り組みもされているようですね。具体的に、どのような取り組みになるのでしょうか?

具体的には、採用でうまく言っている介護事業者をお招きしてセミナーを開いたり、3ヶ月全6回の採用実践力を高めるプログラム「KAIGO HR College」では、それぞれの採用課題を持ち寄り、採用戦略やPR方法などの立案しています。

介護に関して課題意識を持った参加者が、それぞれの課題を解決するために、プロジェクトを立ち上げます。例えば、現場の中の人間関係や家族の介護など、それぞれの課題をどうプロジェクトとしてアクションを起こすのかを参加者全員で考えるんです。

過去、ある介護事業所の施設長が「一緒に働く現場スタッフともっと楽しく働ける職場をつくりたい」思いを持って「KAIGO MY PROJECT」に参加したのですが、彼は一人ひとりの現場への思いを聞き、コミュニケーションを改善・工夫するアクションにつなげました。その結果、1年間離職者が0となりました。他には起業するメンバーもいますね。

——誰かの問題を参加者同士で解決していくということですか?

集まった12人がそれぞれプロジェクトを立ち上げ、全員で解決のための方法を話し合い、それぞれにフィードバックします。この12人は「KAIGO LEADERS」の中でも強固なコミュニティですね。

新しいことに挑戦するときって、勇気が必要じゃないですか? 同じ時期に一緒にスタートするので、頑張っている仲間がいることが自分の勇気になるんです。仲間の気づいていない強みを他の人が指摘してくれるなど、お互い応援し合えるんですよね。コミュニティの力は人のアクションを支えるんだと思います。

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毎回いろんな職種や年齢の12人が集まってプロジェクトを進めていきますが、3カ月のプログラムが終わってからも、個人の課題は続きます。オンラインでもFacebookのコミュニティがあるので、そこで参加者同士フィードバックを続けるなど、個人の活動を互いに支え合う関係が自然と構築できていますね。

今は16期が動いていますが、これまでの参加した150人のメンバーは、「OBOGコミュニティ」として、オンライングループでつながり続けています。そのコミュニティでは参加者が自主的に合宿を企画してくれたり、定期的に場が設けられ、なんと違う期に参加したメンバー同士がコミュニティをきっかけにつながり結婚して、今年「マイプロベイビー」も誕生しました! 他にも、コミュニティ内で転職をしたりトライアル期と5期のメンバーが一緒に会社を立ち上げたりと、能動的なアクションが起き続けています。

厚生労働省と一緒に取り組む採用・育成力向上プログラム「CHANT」とは?

——お互いの活動を支え合うだけではなく、結婚をしたカップルもいるとは……驚きです。もう一つの事業「介護事業所を運営する組織側の採用支援や人材育成支援」のことも具体的に教えてください。

介護事業所の皆さんは口を揃えて「介護事業は人材確保が厳しい」と仰います。厳しい状況にありながらも、介護事業所は中小企業も多いので採用選任が必ずしもいるわけではなく、一人の従業員が多くの仕事を兼務しながら採用を担っているケースも多くあります。その中で最優先されるのは、利用者さんの暮らしを支える現場の仕事。「やらなきゃいけない」とわかっているものの、そこまで手が回らない現状があるんです。

現在の日本は、介護業界に関わらず全産業で採用が厳しく、採用の専門知識や戦略がより必要な時代ですが、大半の小規模な介護事業所は兼ね備えていません。そういった介護事業所に、個別のコンサルティングでご支援させていただいたり、「KAIGO HR」という介護領域の採用・育成について共に学ぶコミュニティを運営してます。

——人材不足・採用問題が叫ばれて久しい昨今、介護業界も同様の事情がある中、Join for Kaigoの採用力を高めるためのプログラムが国(厚生労働省)とコラボレーションすると聞きました。

より多くの人材不足の課題を抱える企業に届けるために、厚生労働省が今年の3月から「介護のしごと魅力発信等事業(ターゲット別魅力発信事業(介護事業者向け)分)」の公募に手をあげました。その介護事業者向けの枠組みで弊社の案を採択していただき、で弊社の案を採択していただき、今まで私たちが主体でやっていた採用プログラムを国の事業として9月から開催することになったんです!

イベント名は「介護事業者の採用・人材育成力向上プロジェクトCHANT(チャント)」といいます。「採用実践力向上プログラム」と「マネジメントスタンダードプログラム」の2本立てになっていて、私たちが開催するのは前者のプログラムですね。東京・大阪・金沢・福岡の4都市で開催されます。

「CHANT」には、「ちゃんと人材採用して、ちゃんと人材育成しよう」という思いを込めました。いきなり新しいことをやるのではなく、大切な土台のところである採用計画を「ちゃんと」立てて、「ちゃんと」育成できるような環境づくりしていきましょう——といったメッセージです。

後半では、現在の介護を取り巻く問題と問題解決のためのアイデア、秋本さんがイメージする明るい介護の未来について、お話しいただきます。

介護の扉 No.1/株式会社Join for Kaigo_代表・秋本可愛(後編)>>

関連URL

KAIGO LEADERS:https://heisei-kaigo-leaders.com/
CHANT:https://chant.biz
KAIGO HR:https://kaigohr.com/

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