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特集・コラム 2021-08-30

強化すべきは重度要介護者 ○○対策の遅れが収益に大打撃を与える

新型コロナが猛威をふるった2020年、ソーシャルディスタンスという新しい社会様式が生まれ、多くの企業が打撃を受けました。介護業界としては、業界全体での影響というよりは、打撃を受けた施設とそうでない施設がはっきりと分かれていたようです。明暗を分けた原因はいったいどこにあるのでしょうか。

withコロナといわれるこの時世をふまえ、介護業界の現状とこれからについてを、株式会社船井総合研究所にて介護事業や医療業界全般の専門コンサルタントとして活躍中の沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)さんに伺いました。

お話を伺ったのは…

株式会社船井総合研究所
地域包括ケアグループ マネージャー
沓澤 翔太(くつざわ・しょうた)

デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの新規開設、収支改善、異業種からの介護事業への新規参入支援などを手がける。現在は、デイサービスや有料老人ホームの利用者獲得や新規開設を中心にコンサルティングを行っている。
介護事業所のコンサルティング以外にも、療養病床の転換や訪問診療など医療業界のコンサルティング実績や医療器具の販売促進支援など介護周辺事業についても実績を持つ。

コロナ禍で明暗を分けた報酬改定の対策遅れ

新型コロナが流行した2020年、一度目の緊急事態宣言(2020年4月)の頃に全国でちらほらと介護施設でのクラスターが発生し、介護施設は新型コロナの感染源となりやすいという印象の報道がマスコミで何度もとりあげられてしまいました。

実際、一部の施設では大きな風評被害がでて、立て直しにかなりの時間を要した模様です。しかし、介護業界全体が新型コロナによって大きな打撃を受けたかというと、そういうわけではありませんでした。

「市場規模だけみれば介護業界において「新型コロナ」という観点での直接的な影響はほぼありません。介護業界全体が介護保険制度の上に成り立っており、税金を活用したビジネススキームとなります。高齢者は増加傾向にあり、介護サービスを必要としている高齢者が増加しているため、新型コロナで介護業界が縮小したかというとそんなことはなく、コロナの影響自体は市場規模という観点においては関係ないといってよいでしょう。ただし、施設単位で見ると影響を受けた施設もあります。」

介護業界では、要支援・要介護の計7段階のうち、自力でも生活が可能な要支援1~2の方や、要介護1などの軽度者の方が外出を控える傾向にありました。

介護業界のサービスを大きく分けると施設系、訪問系、通所系の3つとなります。その中でも、施設系は自力での生活が困難な重度要介護者の利用者が多く、軽度な方の利用率が高い通所系サービスが新型コロナによる打撃を最も受けました。

「施設入所される方の中心は要介護3~5で中度以上です。在宅サービスの場合は施設入所の前の軽度者が利用する傾向が強くなります。軽度の場合、毎日サービスを利用するのではなく、週2程度しかサービスを利用していない方も多くいらっしゃいます。そのような方の中には、利用するのが怖いという理由で利用を控える方が一定数いらっしゃいました。病院や診療所での定期健診を控えるのと同じように介護サービスの利用も控える層が一定数見受けられたのです。」

そうはいっても、すべての通所系施設が打撃を受けたわけではありません。業績が安定している施設も多く存在しています。実は、今回の新型コロナで明暗を分けたのは、介護保険の報酬改定にどう対応してきたかという点が大きく影響しているのです。

「介護保険については3年に一度報酬改定があります。2015年の報酬改定の際に、軽度者ではなく重度者を中心とした報酬体系に厚生労働省が舵を切りました。

これは、高齢者の増加で社会保障費が膨らむ中で、介護保険を維持するためには財源の見直しをしないとサービスが維持できないからという意図での改定です。つまり、そのタイミングで、軽度者向けのサービスから重度者向けのサービス中心に切り替えたところは今回の新型コロナでの大きな影響を受けていないのです。

間接的ですが、報酬改定への対応が遅れた事業所が今回の打撃を受けやすかったといえるでしょう。」

基本報酬については、通所介護のサービス提供時間の見直しや、通所リハビリテーションの基本報酬の見直しがおこなわれました。また、2018年の介護保険報酬改定は、6年に1度の診療報酬との同時改定であり、「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援・重度化防止」「多様な人材の確保と生産性の向上」「介護サービスの適正化」を軸に、特定施設入居者生活介護として入居者の保険適応範囲を広げるなど、訪問看護やターミナルケアなどの医療分野との連携も含めた改定となっています。

今回新型コロナで打撃を受けていたのが軽度要介護向けのサービスを基軸にした施設ですが、コロナ前は軽度要介護のデイサービスの利用者が多く、重度要介護者向けのサービスに移行せずとも経営が安定していたところほど、コロナで軽度の利用者が減ってしまったようです。

経営戦略を考える上で欠かせない高齢者対策と医療連携

通所系サービスの報酬については、2021年の介護保険報酬改定にて感染症や災害の影響により利用者数が減少した場合のフォロー措置の項目が追記となりました。トータルの利用者数減が生じた月の実績が前年度の平均延べ利用者数から5%以上減少している場合、3カ月間、基本報酬の3%の加算を行うというものです。そのため一時的な売上減に対しては多少補填されるといえます。

しかし、2025年に向けさらに要介護の方が増える中、政府の舵取りにうまく対応していけるかどうかは、経営サイドとしては非常に重要となりますので、このあとも引き続き報酬改定には注意していきましょう。コロナ禍で売上の打撃を受ける様子からもわかるように、現状の売上が安定していたとしても、経営体制は臨機応変に対応できるよう常に最善を検討する必要があります。

まず重度要介護利用者向けのサービスを強化できていない施設については、今後政府の方針としては重度要介護のための保障強化は続きますので、今からしっかりと対応策を練っていきましょう。また、今後増える後期高齢者に対しての対策も、意識を強く持たないといけません。

「今後経営サイドとして強化していかないといけないのは、認知症の高齢者、もしくは医療依存度の高い高齢者への対応です。
例えば今通院中や入院中の方で、介護サービスだけでなく、医療サービスも受けないと生活が成り立たない、といった方のサポートは今後ますます必要とされてくるでしょう。」

2018年・2021年の介護保険の報酬改定からもわかるように、政府の方針としては重度要介護の利用者の中でも、とくに医療面でのバックアップが必須である方の保障を手厚くするという方針です。介護だけでなく、医療との連携もふまえた運営体制の見直しをしていきましょう。

増え続ける老々介護 これからの施設経営で考えるべき人口集積率とは

高齢者が増え続ける中、徐々に問題が大きくなってきているのが老々介護です。介護業界においては、社会保障のスキームの中での報酬がメイン収益となり、基本的には全国一律のため、収益の上げ方自体は都心部と郊外での格差はそこまでありません。

しかし、人的な部分で郊外には課題が大きく残っています。
医療の進歩で寿命自体が伸びたことと、団塊の世代が定年を迎えていくことで、老々介護の世帯が増加してきている点です。

厚生労働省が2019年6月におこなった「国民生活基礎調査」によると、同居する家族や親族が自宅で介護をする在宅介護のうち、介護をする側と受ける側がお互いに65歳以上の「老老介護」の割合は59.7%と、4年前の調査より5ポイント増加。さらに、お互いが75歳以上の割合も33.1%となり、およそ3ポイント増加しています。いずれも調査を始めた2001年以降、最多となりました。

出典元:厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況 IV 介護の状況

出典元:総務省統計局 高齢者の人口

手がいないと施設の運営は成り立ちません。ただでさえ人材が不足する郊外は、外国人の雇用に頼らざるをえない状況でしたが、コロナ禍で海外からの入国に制限がかかる今、それも厳しい状況です。

「地方に行くと、高齢化率40%、50%の地域もあります。そういった地域は、利用者はいるが人が採用できず、働き手が足りません。人が少ない地域では採用に苦戦するので外国人の採用を強化することも検討する必要がありますが、それも難しい今、業務効率化が重要となっています。

少ないスタッフでも効率よく運営することができる体制の構築が必要となります。」

今後ますます老々介護が進む中、人材不足を最小限におさえるためには少しでも効率の良い運営体制に変えていく必要がありそうです。

大きな経営戦略の中では、運営方法の見直しや採用を見据えて人口集積率を参考に実施エリアを変えたり、展開を広げていくというのもひとつの手だといえます。

出典元:
厚生労働省 平成30年度介護報酬改定の主な事項
令和3年度介護報酬改定の主な事項
厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況 IV 介護の状況
総務省統計局 高齢者の人口

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