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特集・コラム 2022-12-08

スピーチロックがもたらす影響とは?スピーチロックが起こる原因や対策をご紹介

介護現場をはじめとしたあらゆる施設では身体拘束や精神的拘束が固く禁じられていますが、そこには言葉による拘束も含まれています。これをスピーチロックといいますが、人によっては聞き慣れない言葉かもしれません。

そこで今回は、スピーチロックの例や原因に加え、利用者におよぼす影響やスピーチロックを防ぐ対策などを解説します。

スピーチロックについて

スピーチロックは目には見えない言葉による拘束であることから、介護者が意図しないところでスピーチロックと受け取られる場合もあるようです。

ここでは、スピーチロックを含めた拘束の定義、どんな例がスピーチロックになるのかならないのかを掘り下げてご紹介します。

スピーチロックとは?

スピーチロックは「言葉の拘束」とも呼ばれており、言葉によって身体的・精神的な行動を抑制する行為を指します。

スピーチロックには明確なラインが無いため、厳密な線引きが難しいです。しかし、利用者が拘束と感じたり、結果として行動抑制につながったりした場合はスピーチロックがあったと判断されます。

3つのロックを知っておこう

介護現場における身体拘束としては、「スピーチロック」「フィジカルロック」「ドラッグロック」があり、これらを総称してスリーロックと呼んでいます。それぞれ、どのようなものなのかを確認しておきましょう。

スピーチロック:言葉や叱責による行動制止および身体拘束
フィジカルロック:ひもや腰ベルトなどを使った物理的な身体拘束
ドラッグロック:服薬管理をわざと誤り、過剰投与や不適切な投与することによる身体拘束

スピーチロックはフィジカルロックやドラッグロックと違い、言葉という目に見えない手段による拘束です。そのため、無意識におこなってしまう可能性があることに注意しなければなりません。

スピーチロックの例

介護者が何気なく放った言葉でも、利用者の行動を制限してしまえばスピーチロックになってしまうことがあります。

たとえば、別の作業で手が離せないときに「ちょっと待って」と言葉をかける場面は、利用者にとってはスピーチロックになってしまうことも。また、単独行動が危ないと思われる場面で「危ないから」と声をかけることも、スピーチロックの一例です。

このことから、利用者にとって行動を制限されていると受け取られる場合は、どんなことでもスピーチロックになり得ます。

スピーチロックにならない声かけ例

同じ内容の声がけでも、言葉に少し気を遣うだけでスピーチロックを防げます。

たとえば、「ちょっと待って」という言葉を「○分くらい待ってもらえますか」と具体的に言い換えるだけでも、制限されている印象を和らげることが可能です。

また、表現を柔らかくすれば、利用者がネガティブな感情を持つこともないでしょう。

スピーチロックによる悪影響

スピーチロックは言葉による身体拘束であり、直接触れなくても行動を制限する行為です。利用者におよぼす悪影響としてどのようなものがあるのかをご紹介します。

1. 日常生活動作の低下

スピーチロックが利用者におよぼす悪影響としてまず考えられるのが、日常生活動作(ADL)の低下です。「無視・拒絶された」と感じることで行動意欲がそがれてしまい、結果として身体を動かす機会を減らすことにつながります。

身体を動かさなければ利用者の筋肉は衰え、今までできていた動作ができなくなるおそれもあるのが特徴です。身体を動かす意欲が減退すると、ADLの低下によって要介護度の悪化を引き起こすという悪循環になってしまいます。

2. 高齢者患者の病状悪化

治療を受けている利用者がスピーチロックを受けた場合、高齢者であるということも相まって病状を悪化させることもあります。行動制限による身体面の病状悪化はもちろん、認知症悪化という精神面の影響はとくに気をつけなければなりません。

スピーチロックにより引き起こされたネガティブな感情は記憶に残り、結果として症状を悪化させてしまう可能性があります。

3. サービス利用者の信頼を失うおそれがある

スピーチロックは利用者の心身に大きな影響をおよぼすだけでなく、最悪の場合は介護者との信頼関係を壊すことにもなりかねません。

理由がわからないまま「行動制限を受けている」と感じれば、思っていることを介護者に言いづらくなり、利用者が心を閉ざすことで信頼関係が崩れ、じゅうぶんな介護ができなくなるおそれもあります。

スピーチロックは国も廃止の取り組みをしている

2000年の介護保険スタート当初から、やむを得ない状況を除き、身体拘束は原則禁止とされています。

国ではその後も拘束廃止や最小化に向けた取り組みをおこなっており、介護施設に対し、拘束適正化に関する検討委員会の定期的開催や職員に対する結果の周知徹底などを求めてきました。

ほかにも、施設内における指針整備や研修実施、ルール違反時の介護報酬減額など、さまざまな角度から拘束防止を図っています。

スピーチロックはなぜ起こるのか

言葉による拘束ともいえるスピーチロックは、利用者の行動制限につながる言動が原因です。ここでは、スピーチロックが起こる原因をご紹介します。

現場の人手不足

「ちょっと待って」という声かけは、介護者の手が回らず、じゅうぶんな対応ができずについ出てしまいがちですが、介護者に余裕がないことは施設全体が人手不足であるという証拠です。

この事例は、介護者本人というよりも介護現場全体の問題がスピーチロックを引き起こす場合もあるという典型的な例でしょう。

リスクの高い行動に注意しなければいけない

スピーチロックを防ぐには、利用者がリスクの高い行動をしないよう、ふだんから注視しておく必要があります。

介護サービスの利用者は日常の何気ない動作でもリスクに直結することがあり、とっさに声をかける際に口調が強くなったり、厳しくなったりする場合があるからです。

利用者の行動に注意を払うことでとっさの対応を予防でき、結果としてスピーチロックの可能性も下げられるでしょう。

スピーチロックを防ぐための対策

スピーチロックを防ぐために、自分でもできることはないのでしょうか。ここでは、スピーチロックを防ぐための対策をいくつかご紹介します。

言葉遣いに関する勉強をする

発する言葉が拘束になるスピーチロックを防ぐためには、言葉遣いに注意するとともに言葉遣いに関して日頃からじゅうぶんに勉強しておきたいところです。

とっさに出る言葉がスピーチロックになる場合もあるので、言葉をかける前にひと呼吸おく、声かけの理由を付け加えるなど、利用者の気持ちを考えた言葉遣いができるようよう学んでおきましょう。

研修に参加する

スピーチロックに関する研修を受講したり、施設内でおこなったりすることで、スピーチロック防止の意識を高めることも可能です。

たとえば、全国国保地域医療学会において、研修会にアンケート調査を組み合わせた取り組み事例が紹介されています。

この事例では、スピーチロックの定義や、なくすための方法を学ぶとともに、研修前後の意識を比較して可視化することで職員の意識向上が図られているようです。

ガイドラインを職場で共有する

スピーチロックは介護現場全体の問題であるため、職場内でガイドラインを作ることも防止のために有効です。

まとめたものを目につく場所に貼るのも効果的ですが、むしろガイドラインの運用や意識の共有など、全体でスピーチロック対策に取り組むことが重要となります。

日頃の言葉遣いに注意して長期的に利用者との関係性を築こう

利用者の人権を守るという側面だけでなく、お互いの信頼関係を構築して質の高いサービスを提供するという意味でも、身体拘束はあってはならないことです。

とくに言葉の拘束とも呼ばれるスピーチロックは普段の言葉遣いが緊急時の一言に現れるため、日頃から注意しなければなりません。

介護の現場だけでなく、日常生活での言葉遣いにも気をつけることで、生活のあらゆる場面で人間関係を良好にできるでしょう。

引用元
厚生労働省:サービス提供事業所における虐待防止および身体拘束対応指針に関する検討

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