どんな環境でも子どもには育っていく力がある。大人はそれを信じることが大事。 教育支援協会 南関東 理事長・岩間文孝さん#2
子どもたちに寄り添う仕事をしたい…と考えている人も多いのでは。前編に続いて、放課後児童支援や不登校・引きこもりの支援など、子どもたちをとりまくさまざまな環境に合わせたサポート活動をしているNPO法人 教育支援協会 南関東の理事長、岩間文孝さんのお話しをお届けします。
渋谷で子どもたちの居場所をつくり、多くの子どもや若者たちに向き合ってきた岩間さん。横浜に拠点を移してから、現場と運営の両面に携わるようになりました。
後編では、教育支援協会南関東の理事長になったいきさつ、子どもや若者たちに向き合う姿勢を学んだ3人の恩師のこと、子どもと向き合う仕事を希望している人に向けたアドバイスなどをご紹介します。
お話しを伺ったのは…
NPO法人 教育支援協会南関東
理事長 岩間文孝さん
日本大学卒業後、放課後や週末などに子どもたちの居場所をつくったり体験活動を支援する『渋谷ファンイン』に参加。その後、若者世代まで対象を広げたNPO法人『ピアサポートネットしぶや』を立ち上げる。2013年より活動の場を横浜に移し、フリースクールを運営。子どもの学びを支援する『教育支援協会南関東』に在籍し、併せてフリースクールなどの民間教育施設が参画する『横浜子ども支援協議会』の活動も行う。2016年より現職に就任。
最大のピンチに襲われ、思いも寄らない形で理事長に就任
――岩間さんが理事長に就任なさったのは、どんないきさつがあったんですか?
2021年に横浜市から受け取った委託金などの過大請求が問題になって、当時の理事長をはじめ運営側が一気に辞めざるを得なくなってしまったんです。「法人自体が、これからどうなるんだ」、「誰が引き継ぐんだ」という話になって、初代の理事長が「岩間しかいないだろう」と。当時、僕はまだ3年目でしたが、「現場の子どもたちのために、やるしかない」って理事長を引き受け、現場に出ていたスタッフに理事になってもらうことにしました。
――たいへんな事件のあとに引き継いだんですね!
「運営の体制は変わりました。これからはちゃんとします」と言っても、世間からはそう見られないんですよね。理事長になってからの仕事は「申し訳ありませんでした」って謝ることから始まりました。
世間からどう思われようとかまいません。でも、子どもたちから「おまえたち、そんなことをしていたのか」、「自分たちにウソをついていたのか」って思われたとしたら何よりも辛かったですね。
――子どもたちから何か言われたんですか。
何も言われません。いつもと変わりなく接してくれました。何も言わないってことが、彼らなりの優しさだったのかもしれませんね。
――何があっても真っ先に子どもたちのことを考えているんですね。岩間さんが子どものとき、そんな風に親身になってくれる大人がいたんですか。学校の先生とか。
学校にも「こんな風になりたい」という先生はいました。でも、お恥ずかしい話、中学か高校の先生になってバレーボールを教えている姿は想像できても、授業をしている姿が想像できなくて(笑)。だから僕は「学校の先生になりたいわけじゃないんだ!」って悟ったんですね。
――先生以外には?
憧れた大人は地域にいました。通学路の途中にある肉屋のご主人で、小学校で野球部のコーチもしていたんです。店の前を通るときは、いつも「ちわっす」って声をかけるんですが、暗い顔しているとコロッケをくれるんですよ。「腹減ってないか?」って言いながら。何を話したのかは覚えていませんが、学校のグチとかいろいろな話を聞いてもらうのが、すごく楽しかったのを覚えています。何となくですけど、この出会いが僕もこうやって子どもや人と関わっていきたい、っていう想いのベースになっていると思います。学校の先生でもない、親でもない立場で、子どもたちに関わろうって。
――先生でもない立場で、地域で見守るという考えはなかなかできないですよね。
そこが僕の性格の悪いところで(笑)。学校の先生は社会的な保証もあるし、認められている職業ですから、教職を目指す人は多いでしょう。でも、当時は地域で子どもに関わる役割は必要なのに、やろうとする人は少なかった。それなら僕がやらなくちゃいけないんじゃないか、って誤解しちゃったんです(笑)。
自分のペースで生きる大切さを教えてくれた3人の恩師
――お話しを伺っていると、「恩師」がよく登場します。
僕がとても尊敬している方が三人います。まず、「渋谷ファンイン」を立ち上げた渋谷の恩師。元校長先生で、常に子どもの気持ちにたって物事を考えられる人なんです。世間の常識とか社会的評価よりも、本人が「やりたい」、「チャレンジしたい」と思って本人らしい人生を送ることを、いつも第一に考えていました。本人がどう思っているかが一番なんだということを教わりました。
――世間の常識にあてはめないって、難しいですよね。
子どもたちには順調に成長してほしいっていう気持ちは誰にでもあるけれど、順調じゃないときでも、子どもたちはそこから学ぶ力があると思っています。
――他の恩師は。
二人目が横浜でお世話になった恩師です。渋谷の恩師と同期で、現場が大好きで定年を迎えるまで教壇に立っていたそうです。彼からは子ども一人一人にとことん寄り添う姿勢を学びました。教員時代、不登校の生徒がいたんですって。その子は釣りが好きだと知って、毎週日曜になるとそのこと一緒に釣りに出かけたそうです。家族から「もうやめてくれ」って言われたそうですけど(笑)、止めなかったそうです。その先生が子ども一人一人が「こうしたい!」っていうのを応援できるネットワークの土台を横浜に作ったんです。
――渋谷と横浜の恩師はご存命なんですか。
残念ながら(笑)。90歳は超えていますがお二人とも元気なので、つい頼っちゃう。困ったことが起こるたびに相談できるので、僕はまだ大人になりきれないんです。自立にはまだほど遠いですね(笑)。
――もうお一人は?
教育支援協会南関東をつくった初代の理事長です。教育支援協会は今、全国的に何カ所かあるんですが、それを全部つくって組織化した人なんです。「子どもたちのために」という想いを実現させていくのは、本当にすごいです。組織のリーダーっていう姿を僕たちに見せてくれました。
――理事長の仕事があって、子どもたちの見守りがあって、ストレスは溜まりませんか。
書類仕事はストレスが溜まりますね。気持ちがどんどん沈んでいきます。子どもに関してはまったくストレスを感じません。むしろ一緒に遊ぶとパワーをもらえます。
――子どもたちのことで、岩間さんにもどうにもできないことが起こると辛くないですか。
世間の期待とか学校の期待とか、いろいろなしがらみの中で、それに応えようと思って生きるより、自分らしい生き方を自分で考えて貫く方が幸せじゃないかと思うんですよね。
それに、子どもに何か問題があったとしても、そのままずっと不幸になるとは思えない。今はそうなんだな…と考えればいい。何とか大人が解決して「幸せにしてあげよう」ではなくて、ただ寄り添ってます。解決はその子にしかできないから。子どもたちには直面している課題を解決して乗り越える力を持っているんですよ。
――子どもたちの力を信じているんですね。
信じてます。みんな僕なんかより優秀だと思いますよ(笑)。どんな環境にあっても、子どもたちには育っていく力がある。必ず現状を乗り越えて生きていくんだろうな、って信じています。
――つい解決策を出したくなりませんか?
子どもからすると「よけいなお世話」かなと思ってます。この仕事は、子どもの立場に立つのがいちばん大事なのかもしれませんね。
僕は子どもたちの半歩、後ろを歩くようにしています。横並びじゃなくて後ろ。後ろからそっと支えられるようにする。たぶん、それが僕のやっていること何だと思います。
――最後に、子どもたちと関わる仕事に就こうと考えている方にアドバイスをお願いします。
人のためにならない仕事は存在しません。この仕事には「ありがとう」って言ったり言われたり、安心できたり、笑い合えたりする時間があります。そんなふれ合いのなかで幸せや生きる喜びが実感できるのが、この業界の魅力だと思います。僕たちが成長し続けるから、子どもたちも成長する。飽きる暇がないくらい、学びの毎日が待っていますよ。
岩間さん流! 子どもたちに寄り添うために欠かせないポイント
1.子どもたち自身がどう思っているのかを最優先する
2.子どもたちの成長する力を信じて待つ
3.子どもたちの横ではなく半歩、後ろに下がってそっと支える
撮影/森 浩司