変形労働時間制とは?注意しておきたい3つのポイントや残業時間の考え方など分かりやすく解説
働き方改革が推進され、変形労働時間制を取り入れる企業が増えてきています。求人票に、変形労働時間制と書かれていることも少なくありません。働きはじめてから、イメージと違ったということがないように、しっかりとポイントを押さえておきましょう。ここでは、変形労働時間制とは何か、その種類や残業時間の考え方などについて、分かりやすく解説していきます。
変形労働時間制について分かりやすく解説
変形労働時間制とは、事業所の繁忙期と閑散期が決まっている場合、そのシーズンに合わせて労働時間を調整できる制度のことをいいます。業務量に波がある仕事に対して効果を発揮し、労働時間をフレキシブルに調節できます。
変形労働時間制は、通常の労働時間制のように、1日8時間勤務で固定されていないことが特徴で、月・年・週単位で労働時間を設定します。例えば、繁忙期は1日10時間勤務、閑散期は1日7時間勤務といった労働時間の調整が可能です。
変形労働時間制と裁量労働制との違いを解説
そもそも、裁量労働制とはなんでしょうか?裁量労働制とは、働く時間を労働者の裁量にゆだねる制度のことです。「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。どちらも自分のペースで働けることがメリットですが、その代わりに質の高い成果を発揮することが求められます。
変形労働時間制と裁量労働制の大きな違いは、労働時間についての考え方です。変形労働時間制は、繁忙期や閑散期で労働時間が設定されており、所定の労働時間を超えると残業代の支払いが発生します。しかし、裁量労働制には、規定された労働時間や残業時間という考え方がありません。
変形労働時間制にはどんな種類がある?
変形労働時間制には、いくつか種類があります。ここでは、4つの変形労働時間制について紹介します。
1年単位の変形労働時間制
シーズンによって、忙しさに差がある事業所が適しています。例えば、GW、お盆休み、年末年始に業務が忙しくなる業種や職種が、1年単位の変形労働時間制に向いているといえるでしょう。
1カ月から1年以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が週40時間を超えないように設定することが必要です。繁忙期には、1日10時間以内、1週52時間以内、連続して6日の労働が可能になります。ただし、繁忙期の対象が3カ月以上になる場合、1週48時間を超える週の数について制限が設けられています。
1カ月単位の変形労働時間制
月初や月末に請求の処理で忙しくなる経理や、決められた日に締めがある業務など、1か月の中で業務量に偏りが出やすい業種に適しています。月ごとに週の労働時間を柔軟に調節できます。
会社のカレンダーなどで、労働日ごとの労働時間をあらかじめ設定することが求められます。1か月以内の期間について、1週間当たりの労働時間が平均して40時間以内となるように、労働する日や時間を決めることができます。特定の日や週に、8時間以上、週40時間以上の労働時間にすることが可能です。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
つねに労働者が30人未満になる小売業、旅館、料理店および飲食店のみが対象となります。1週間単位の変形労働時間制は、曜日によって業務の偏りが発生する業種や職種に適しており、短いスパンの中で労働時間を調節できます。
1週間の労働時間が40時間以内の範囲で、1日10時間を上限として働くことができます。ただし、1週間の日ごとの労働時間については、前週までに従業員に伝えなければならないと義務づけられています。
フレックスタイム制
従業員が、始業時刻と終業時刻を決められる制度です。ライフスタイルに合わせた、より柔軟な働き方ができます。保育園の送り迎えや通勤ラッシュを避けたいなどの理由で、フレックスタイム制を活用する人もいます。
フレックスタイム制では、事業所が一定の期間(3カ月以内)の総労働時間を決めておく必要があります。また、従業員が必ず働いていなければならないコアタイムという時間帯や、従業員が労働することができるフレシキブルタイムという時間帯を設定します。最近は、コアタイムのないフレックスタイム制を導入する企業も増えてきています。
変形労働時間制の残業時間はどう考えればいい?
変形労働時間制の残業時間は、固定労働時間制よりも複雑です。ここでは、それぞれの変形労働時間制の残業時間について分かりやすく解説します。
残業時間│1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制の残業時間は、日ごと、週ごと、設定期間である年ごとの単位での考え方があります。残業時間になる場合の基準は、以下の通りです。
注意したいのは、年単位で残業時間を計算すると、日・週単位で残業になった時間は時間外労働にはならない点です。
残業時間│1カ月単位の変形労働時間制
1カ月単位の変形労働時間制の残業時間は、日ごと、週ごと、設定期間である月ごとの単位での考え方があります。残業時間になる場合の基準は、以下の通りです。
月単位で残業時間を計算すると、日・週単位で残業になった時間は時間外労働にはなりませんので注意が必要です。
特例措置対象事業場の場合は、週の労働時間の基準が44時間です。つまり、44時間以上の労働を定めた週は、それを超えた時間が残業時間となります。
残業時間│1週間単位の非定型的変形労働時間制
1週間単位の非定型的変形労働時間制の残業時間は、日ごと、設定期間である週ごとの単位での考え方があります。残業時間になる場合の基準は、以下の通りです。
週単位で残業時間を計算すると、日ごとの単位で残業になった時間は時間外労働にはなりませんので気をつけましょう。
特例措置対象事業場は、1週間単位の非定型的変形労働時間制を取り入れると、週の法定労働時間が40時間になります。
残業時間│フレックスタイム制
フレックスタイム制には、清算期間(3カ月以内)で所定労働時間を定め、その枠内で働くという考え方があります。つまり、日ごとや週ごとではなく、清算期間を単位として残業時間が決まります。ここでは、清算期間が1カ月を超えた場合の時間外労働について紹介します。
・1カ月ごとに、週平均50時間を超えた場合
・清算期間全体で、法定労働時間(週平均40時間)の総枠を超えた場合
以上のどちらかに該当すると、時間外労働となります。月による繁忙期と閑散期の差が大きい場合にも、繁忙期に過剰に偏った労働時間とすることができない仕組みになっています。
変形労働時間制で注意しておきたい3つのポイント
一度では、なかなか理解しづらい変形労働時間制。職場が変形労働時間制だった場合に注意しておきたいポイントを3つ紹介します。
1.所定労働時間の繰り越しはNG
就業規則にある所定労働時間を、自分で変えることはできません。例えば、所定労働時間で8時間と定められた日に、9時間働いたとします。1時間を超えた分を、翌日の労働時間に繰り越すことはNGになります。また、前日に残業した1時間を次の日に繰り越して、就業開始時間を1時間遅らせるということはできません。遅刻としての扱いになりますので、注意しましょう。
2.法定労働時間をオーバーしていないかチェック
注意しておきたいのが、労働時間が法定労働時間をオーバーしていないかという点です。変形労働時間制を取り入れている事業所の中には、労働時間が法定労働時間を超えていることに気づいていない事業所もあります。この場合は、残業代が払われない恐れがあるため、会社のカレンダーなどで就業規則をチェックしてみましょう。
3.残業代が支払われているか確認
そもそも、就業規則をあやふやにして、残業代を払わない事業所もあります。例えば、7時間と規定している日に8時間働かせ、定時の扱いにするなどです。このように、故意に残業代を支払わない場合は、違法になります。自分の身を守るためにも、働いた労働時間を計算しておくことが必要です。法定労働時間外の場合は、残業代を請求できることを知っておきましょう。
変形労働時間制のメリットとデメリット
ここでは、変形労働時間制のメリットとデメリットを紹介します。
変形労働時間制のメリット
変形労働時間制は、残業時間の削減が期待できます。繁忙期は長く、閑散期は短く働けるため、仕事のオン・オフがはっきりすることも大きなメリットでしょう。閑散期に長期休暇を取りやすくなったり、ライフスタイルに合わせやすくなったりと、心身のリフレッシュにもつながります。
変形労働時間制のデメリット
残業時間の削減ができる一方で、給料の残業代分が少なくなるというデメリットがあります。繁忙期と閑散期で労働時間の差があるため、閑散期で短くなった労働時間のときには支払われていた残業代が、繁忙期では支払われないということが発生します。また、労使協定書の作成などの制度導入の準備や、開始後の勤怠管理の複雑さにより、人事担当者の負担が増す可能性があります。
変形労働時間制をよく理解して、就職や転職時に知識を活かせるようにしよう!
変形労働時間制は、今後も導入する企業が増える可能性があります。自分の働きたい分野で変形労働時間制が多く活用されている場合は、基礎知識を知っておくだけで有利になります。変形労働時間制についてしっかりと理解して、就職や転職で活かせるようにしましょう。
引用元
厚生労働省:労働時間・休日
厚生労働省:1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制
厚生労働省:1ヵ月単位の変形労働時間制(リーフレットシリーズ労基法32条の2)
厚生労働省資料:1週間単位の非定型的変形労働時間制
愛媛労働局:1週間単位の非定型的変形労働時間制(第32条の5)フレックスタイム制(第32条の3)
愛媛労働局:1年単位の変形労働時間制(2)(第32条の4、第32条の4の2)
厚生労働省資料:フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き