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特集・コラム 2020-08-13

「脱健着患」は、介護職員・看護職員が知っておくべき着脱の原則

介護職員や看護職員が衣服の着脱介助をする上で欠かせないキーワードとなるのが、脱健着患(だっけんちゃっかん)です。今回は、脱健着患の基本的な情報や円滑に行うためのポイント、脱健着患のメリットについて解説していきましょう。ぜひ現場での実践に役立ててください。

「脱健着患」とは? 衣服の着脱方法の一例も紹介

脱健着患とは、文字の通り「衣服を脱ぐときは健康な方の腕や足(健側)から、着るときは病気やまひ、痛みのある方(患側)から」という意味の言葉です。「着患脱健(ちゃっかんだっけん)」とも呼ばれています。介護職員や看護職員にとっても、衣服を着脱する際の原則が脱健着患であり、特に半身まひや片側に障害がある方の着替えに用いられる手法です。脱健着患の正しい手順に沿って行うと、まひや痛みなどがある方をあまり動かさず、スマートに着替えることができます。

特に、高齢者の着替えの介助を必要とするシーンは頻繁にあります。汗や皮脂などの目に見えない汚れから、食べ物や排せつ物などの目に見える汚れまで、高齢者の清潔保持のためには、こまめな着替えが欠かせません。また、入浴時においても着脱介助が必要になります。

では、具体的にどのような方法で行うのでしょうか。

前述したように、脱健着患には「衣服は健康な方から脱いで、うまく動かせない方から着る」という原則があります。しかし、洋服には前開きタイプなどさまざまなデザインや形があるため、手順はその都度確認する方が良いでしょう。ここでは、頭からかぶるタイプの上着を、半身まひのある方が着替える手順の一例をご紹介します。「健側」はまひのない方、「患側」はまひのある方と捉えてください。

上着の脱ぎ方

1.健側の手を使い、裾を首の近くまで手繰り上げる
2.健側の手で後ろの襟を前に引っ張り、首を抜く
3.持つところを徐々にずらし、裾をつかんで前に引っ張る
4.手で振ったり脇腹にこすったりしながら健側の袖を脱ぐ
5.健側の手を使って患側の袖を引いて脱ぐ

上着の着方

1.衣服を膝に広げて健側の手で裾を持ち、患側の手に袖を通す
2.袖をできる限り肩の方まで上げる
3.健側の袖を通し、後ろの裾と襟を手繰り寄せて頭を通す
4.健側の手で裾や襟など全体を整える

これは椅子に座って行う脱健着患の方法ですが、介護される側の状況によって方法が多少異なります。寝たままの姿勢で着替えを行う場合もありますし、自分で体のバランスを取ることが困難な方には、2人体制でサポートを行うこともあります。特に「ズボンを脱ぐ・着る」という行為は転倒などの恐れがあるため、近くに手すりや壁などがある場所を選び、安全に十分配慮して行う必要があるでしょう。

こうした最低限のサポートは必要不可欠ですが、脱健着患はなるべく本人の力で着替えさせることがポイントになります。それが自身の生活能力の向上にもつながるためです。介護職員や看護職員は、基本的に見守る方針でサポートすることが望ましいでしょう。

脱健着患をより円滑に行うためのポイント

半身まひや痛みなどのある要介護者が着替えを行う場合、どうしても動きが制限されてしまい、患部に強い痛みが走ったり、まれに骨折してしまったりする場合があります。介護される側の負担やストレスを減らすためにも、介護をする側の心掛けやサポート体制がとても重要になります。

では、より円滑に脱健着患を進めるにはどうしたらいいのでしょうか。ここでは、ポイントを3つに絞ってご紹介します。着替えの介助が必要になった際には、ぜひ参考にしてみてください。

【ポイント1】環境を整える

着替えを行う際の室温は23~25℃に保ち、脱いでも寒くない環境を整えてあげましょう。特に冬場は室内の温度が下がりがちです。暖房を利用するほか、介護する側の手や衣服を温めておくのもおすすめです。

また、着替える場所の近くに物などが乱雑に置かれていると、万が一転倒した場合に危険を伴います。介護する側は介護される側の隣(患側)でサポートすることが必要ですが、周辺は整理整頓した状態で行いましょう。

人によっては着替えに時間がかかってしまうため、事前に排せつを済ませておくことや、扉やカーテンを閉めるなどして、プライバシーの保護に努めることも大切です。

【ポイント2】着脱しやすい衣服を選ぶ

円滑に脱健着患を行うためには、着脱しやすい衣服を選ぶのもポイントです。例えば、袖口やズボンの裾がゴムなどで強く絞られたものは避け、緩いものを選ぶと良いでしょう。ボタンの代わりに面ファスナーを施した服や、裾やズボンにファスナーが付いている服もおすすめです。マグネット式ボタンや、目に見えるところはボタンで裏がテープ仕様になっている服もあります。また、袖口やズボンのウエスト部分にひもなどで取っ手を付けてあげると、衣服の上げ下げがより楽になります。寝たきりの要介護者の場合は、前開きデザインの服や浴衣などを選ぶと良いでしょう。

このように、着脱のしやすさを考慮して作られた衣服を選ぶことで、楽に着替えを行うことができます。最近は普段着のようなおしゃれなデザインで、かつ機能性に優れた介護用衣服が多く市販されています。脱健着患が「うまくできない」「時間がかかってしまう」と感じる方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

ただ、着脱のしやすさだけを考慮すればいいわけではありません。洋服は心理的な面に影響を及ぼすことがあるため、必ず着る人の好みも尊重しましょう。その上で、介護される側にとって着脱しやすい衣服を選ぶのがベターです。

【ポイント3】動作ごとに声掛けをする

前述したように、介護される側に半身まひや痛みがあっても、着替えはなるべく本人にやってもらうことが大切です。ただ、一見簡単そうに見える脱健着患でも、コツや手順を理解していないと、スムーズにいかないこともあります。最初のうちは1つずつ手順を確認しながら、丁寧に着脱介助を行ってください。「上着の前を開けますね」「次は袖を通しましょう」など、ひとつの動作ごとに声をかけて、ゆっくりと焦らず進めてあげましょう。コミュニケーションを取りながら行うことで、介護される側の安心感にもつながります。

着替えの途中でどう動けばいいか迷っているときは、次の動作をさりげなく伝えてみます。認知症などで衣服の着脱方法をなかなか覚えられない高齢者には、声掛けを多めに行ってあげると良いでしょう。たとえ時間がかかっても、最後まで優しく見守ってあげることが大切です。

【ポイント4】介護する側の負担を軽減する

介護される側が衣服の着脱をスムーズに行うことが第一ですが、介護する側の負担もより軽くなるように工夫をしましょう。例えば、なるべく要介護者の近くに寄り添い、無理のない姿勢を保つことを意識してください。無理な体勢では、万が一転倒した際に支えてあげることが困難になります。

また、便利な介護用品を活用するのも良いでしょう。デザイン性と機能性を兼ね備えた洋服以外にも、片手で履ける靴下や、着脱が楽にできる肌着などもそろっているため、こうした衣類を利用してもらうのもおすすめです。

着脱介助に欠かせない「脱健着患」のメリット

最後に、脱健着患のメリットについてまとめてみました。主なメリットは下記の3つです。

・介護する側もされる側も負担が少ない
・障害がある方(患側)の動きを最小限に抑えられる
・健康な身体機能の維持や向上につながる

脱健着患の最大のメリットは、介護する側もされる側も負担が少ないことでしょう。まひや痛みなどがある方をできる限り動かさないように行い、健康な手足を最大限に活用する方法なので、介助する側も楽になります。

また、うまく動かない方の動作を抑えられるのも、脱健着患の良いところです。患側は可動域が狭く、無理な動きをすることは体にとって良くありません。ただ、全く動かさずにいると関節が硬くなってしまうため、適度にほぐすことは必要です。もし可能であれば、定期的に関節を痛くない程度にほぐし、日頃から柔軟性を身につけると良いでしょう。最低限の可動域を確保することは、スムーズな着脱介助にもつながります。また、これにより、弾みなどで起こり得る急激な痛みや骨折などのリスクも軽減できます。

脱健着患によって、病気やケガなどで残された機能「残存機能」をうまく活用することもできます。着替えという行為で残存機能の低下を防ぎ、伸ばしていくことはリハビリにもつながります。つまり、健康な身体機能の維持や向上が目指せるのです。

このように、さまざまな角度からメリットをもたらしてくれるのが脱健着患です。最初はゆっくりでも良いので、手順を正確に理解し、介護される側のペースに合わせてサポートしてあげましょう。安全を第一に考えて介助することが求められます。ある程度回数を重ねていくと、動作が速くなるだけでなく、「今日も自分で着ることができた」という達成感も味わえるようになります。また、清潔な肌着や衣類を身につけてあげることで、介護される側も気持ちよく毎日を過ごすことができるでしょう。

おわりに

脱健着患の意味や方法、メリットなどについて紹介してきました。脱健着患は、介護する側の原則として知っておくべき方法と言えるでしょう。まずは「脱ぐときは動きやすい健側から行い、着るときはうまく動かせない患側から」という原理をしっかりと理解すること。その上で回数をこなしていけば、きっとうまくいくはずです。介護される側の立場になって体を動かしてみると、脱健着患のコツがつかめてくるかもしれません。

また、着替えは生活リズムを整えるだけでなく、体を清潔に保つためにも大切なルーティンです。要介護者が快適かつスムーズに衣服の着脱ができるよう、ぜひ脱健着患の手順をマスターしてみてはいかがでしょうか。

参考元:
コトバンク
新ほっと介護 着替えの介助|全日本民医連
おしゃれを楽しんで生活を豊かに!スムーズな着替え介助のポイント|あずみ苑
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