作業療法士とお笑い芸人の経験をいかした「介護エンターテイナー」の仕事とは【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.119/介護エンターテイナー 石田竜生さん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回は、介護エンターテイナーとして活動している石田竜生さんにインタビュー。作業療法士として働きながらお笑い芸人として活動を始めた石田さん。「介護エンターテイナー」として、リハビリ体操に笑いの要素を取り入れた活動を続けています。
前編では、石田さんがヘルスケア業界に入った経緯と、「介護エンターテイナー」としての活動についてお聞きします。
お話を伺ったのは…
介護エンターテイナー 石田竜生さん
作業療法士として働きながら、フリーのお笑い芸人・舞台俳優の活動をスタート。その経験を生かし、日本介護エンターテイメント協会を設立。『人生のラストに「笑い」と「生きがい」を』をモットーに、『介護エンターテイナー』と名乗り活動中。リハビリ体操に笑いの要素を取り入れ、介護現場を『笑い』でいっぱいにするために、日本全国でボランティアやセミナーを開催している。
YouTubeチャンネル:「介護エンターテイメント脳トレ介護予防研究所」
芸人生活のために続けていた作業療法士の仕事…
「これじゃダメだ」と思ったとき
見つけた介護エンターテイナーの活動
――石田さんがヘルスケア業界のお仕事を始めた経緯を教えてください。
僕の兄と姉は看護師をしていて、高校生で進路を考えるときに2人から作業療法士という仕事があることを教えてもらいました。そこで興味を持ち、作業療法士の資格が取れる大学に入学して、卒業後は地元の富山県にある老人保健施設に就職しました。
――現在は「介護エンターテイナー」としても活動されています。そのきっかけは?
昔からお笑い芸人になりたいという気持ちはあったんです。でも簡単に活躍できる世界ではないこともわかっていたので、「お笑い芸人でやっていけなくても働ける資格を取ってからチャレンジしよう」と考えて作業療法士の資格を取った部分もありました。
就職して1年後、大阪の吉本興業の養成所(NSC)に入学。NSC卒業後は、パートの作業療法士としてデイケアで働きながら、芸人の活動も併行していました。
「介護エンターテイナー」として活動し始めたのは30歳ごろ。芸人としてパッとせず、作業療法士の仕事はお金のためになっていて、「これでいいのか」とモヤモヤしていたころでした。ボランティアとして体操をしたときに、高齢者でも笑うことで元気になってもらえることに気づいたんです。介護の現場は明るいイメージが少ない世界ですが、芸人活動で学んだこと、経験してきたことを強みに変えて、介護の現場にも役立てたい。そう思ったのが活動を始めたきっかけでした。
――当初から「介護エンターテイナー」という名前や扮装は決めていたんですか?
そうですね。介護と笑いを組み合わせたかったので、「介護エンターテイナー」という名前を決め、活動するときはおばあちゃんのカツラをかぶることにしました。カツラをかぶってキャラクターを作るのは、覚えてもらえるように自分のシンボルにしたいという考えと、「今から楽しく体操をしますよ」という雰囲気作りのためです。
この格好をすることで、見てくれている側もスイッチが入るんですよね。「こういう格好をして楽しませてくれるんだな」というワクワク感を生み出すことができるんです。
――当初は、どんなかたちで活動していましたか?
知り合いの介護施設にボランティアとして参加して、40分ほどのオリジナル体操をすることから始めました。そこからSNSでの発信やクチコミで活動が広まり、いろんな施設から依頼がくるようになったんです。
オリジナルの体操は、作業療法士として経験してきた知見を取り入れたもの。体の関節は決まっているので基本的な動きは今までにもよくある動作ですが、そこに僕なりのアレンジを加えて考えています。
――活動を始めて10年となる現在は?
現在は、行政が主催する高齢者向け介護予防イベント、JAやコープなどの会員さん向けのイベントや講演会などに呼んでいただいて、登壇するという活動がメインです。また介護スタッフやリハビリスタッフに向けて、利用者さんとのコミュニケーションや体操などのアプローチ方法を伝えるセミナー活動も行っています。
NSC卒業後にパートで働き始めたデイケアには、今でも月に数回ヘルプで入っています。「介護エンターテイナー」の仕事の状況に応じて勤務日数を変えながらですが、作業療法士の仕事も継続中です。
体が動かせなくても楽しい空間を
活動を通して作っていきたい
――石田さんがお仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?
介護の現場では高齢者と接しますから、指示したことができない人もいます。そういう人に無理やりしてもらったり強制したりせず、「その場にいてもらうだけでオッケーだよ」というポジティブな雰囲気作りは、とても大切にしています。
その場で体操したくなくても、みんなが動いている雰囲気を感じてもらうことで少しヤル気が出たり、体が動かなくても笑ってもらえたり。楽しい雰囲気の場所って、その場にいるだけで元気になったり、心のリハビリになったりするんです。そんな場作りができるようにいつも意識していますし、お笑いの経験というのも活きていると思います。
――お仕事に感じるやりがいは?
さまざまな媒体を含め「介護エンターテイナー」という僕の活動に触れてもらうことで、やる気を持って体操してもらったり、動いてもらうきっかけを作れるというのが一番のやりがいです。
僕の体操を見て「毎日体操しているよ」と言ってくれるおじいちゃんおばあちゃんたちに会えると、今まで何も運動していなかった人が動くためのきっかけになれたんだと感じられます。
「介護エンターテイナー」として高齢者の方々に直接触れ合う機会はあまりありませんが、講演会後にみなさんと少し会話をしたり、廊下で挨拶しているときに少しお話したり。そういった場でコミュニケーションが取れると嬉しいですよね。
次回後編では、これからヘルスケアのお仕事を目指す方へのアドバイス、石田さんのお仕事の心得3か条を教えていただきます。
取材・文/山本二季