同じ美容師だから仕事の大変さも楽しさも共有できる。それが夫婦最大の強み! suiトップスタイリスト 中村育美さん #1
ヘアサロンの激戦区、表参道に店を構えて6年になるsui。数々のファッション誌などでクレジットを見かけない日はないほど、人気と実力を兼ね備えたサロンとして定着しています。ここでトップスタイリストとしてサロンワークをこなしながら、6歳の長男と3歳の長女の子育てをしている中村さん。都内の有名サロンでアシスタントをしていたときにパートナーと出会い、それからずっと二人三脚で現在に至っています。
前編では、最良&最強のパートナーとの出会いのこと、前に勤務していたサロンで師事していた先輩スタイリストがくれた「出産後の働き方」についてのアドバイスについて伺いました。
お話を伺ったのは…
suiトップスタイリスト 中村育美さん
山野美容専門学校を卒業後、都内の有名サロンに勤務。ここで修行を積み、スタイリストに。第一子を出産後、2016年7月よりsuiにトップスタイリストとして勤務。サロンワークや雑誌の撮影をこなしながら育児に奮闘している。
ライバル心むき出しのアシスタント時代から、仲間として絆が深まったスタイリストへ
――パートナーとはどこで知り合ったのですか?
学校を卒業後、初めて勤めたサロンで知り合いました。私が先にアシスタントとして働いていて、1年後に夫が新卒で入社してきました。
――アシスタント同士だと、お互いにライバル心を感じませんでしたか?
アシスタント時代はみんながライバルだったような気がします。与えられたカリキュラムを誰よりも早くこなすことが大事だったので、ライバル心むき出しでした(笑)。
それがスタイリストになると、年齢の近い者同士で協力し合うようになるんです。お客様のサポートに入ったり、サロンのホームページに載せる作品を一緒に撮影したりして、仲間意識がどんどん強くなっていきました。
――パートナーとの結婚を決めたポイントは何ですか。
アシスタントからスタイリストになるまでずっと一緒で、お互いに「同志」という感覚でした。彼をずっと近くで見ていて、何でも真面目に取り組む姿勢に惹かれましたし、何より当時から才能が抜き出ていたんです。「この人はきっと売れるだろうな」という確信もありました(笑)。
大切なお客様だからこそ、安心して任せられる夫に託して産休・育休へ!
――31歳で結婚なさって、33歳で出産ですね。
もともと子どもがほしかったので、不安よりも嬉しい気持ちが大きかったです。ただ、私も夫も地方出身で実家が遠いので、子どもが生まれてから「いろいろ大変なことになるだろうな」とは覚悟していました。
――前に勤務していたサロンは男性が多かったそうですが、妊娠中は大変ではなかったですか。
逆に気を遣ってもらえました(笑)。妊娠後期になるとお腹が邪魔でシャンプー台に手が届かなくなるんですね。私の代わりにシャンプーしてくれるなど、体に負担がかからないようにみんながサポートしてくれたので、妊娠9か月までギリギリ働くことができました。
お客様の前だと気が張っているせいかしんどくないんです。お休みの日の方が辛かったですね。
――産休・育休を取るにあたって、準備したことはありますか。
産休に入る前に、自分のお客様を夫に託しました。私のお客様に夫を紹介して、「このスタイリストだったら安心して任せられるので」と。
――当時のサロンで産休と育休を取ったのは2人目だったとか。
私を指導してくれていた先輩が取っていました。常々「子育ては大変だから、育休中は仕事のことを考えるゆとりはないよ」とか、いろいろ教えてくれました。
本当にその通りでしたね。ただ、復帰をするにあたって、「保育園に入れなかったらどうしよう」という不安はありました。
――長期の休みを取っている間に技術が落ちるとか、そんな不安はありませんでしたか。
ちょくちょく実家の母や姉が遊びに来てくれて、そのたびに髪をカットしていたせいかもしれません。考えると不安だらけになってしまうので、自分で解決できないことは深く考えないようにしていました。
歩合給の見直しなど、復職後にガツンと効いた先輩からのアドバイス
――産休明けで復職したのが、現在のsuiなんですね。
実は前に勤めていたサロンが倒産してしまって…。前のサロンの同僚たちが立ちあげた、このsuiに転職しました。
――今までと勝手の違うサロンで復職すると、戸惑うこともあったのでは。
今まで私が担当していたお客様は離れてしまいましたね。あと、せっかく予約が入っていても、子どもが急に熱を出して仕事をキャンセルすることもしばしばありました。お客様に事情を説明すると、お子さんをお持ちの方は「子どもが小さいとよくあること」と言っていただけるのですが、中にはそのままご縁が切れてしまうこともありました。
――お子さんが小さいと思い通りにならないことが増えますよね。
前のサロンの先輩から、サロンをいったん離れるとお客様は減ってしまうことは聞いていたので、「なるほどね」と心の準備はできていました。
――ほかに参考になったアドバイスはありましたか。
お給料のことですね。私たちスタイリストはほとんど歩合給です。でも保育園の送り迎えのことを考えると、営業時間をフルに働くことはできません。先輩は復職するにあたって、歩合給から固定給にしてもらうように交渉していたんです。そのいきさつを聞いていたので、私も固定給にしてもらいました。歩合のプレッシャーにさらされることがないので、育児に専念できます。
あと営業時間外でもお客様の予約が取れるようにしてもらいました。子どもを保育園に預けてしまえば、私は午前中から働けます。でもサロンの営業は午後からなので、私からすると午前中がもったいない(笑)! お客様の中にはお子さんを保育園や幼稚園に送り届けた空き時間に「髪を切りたい」という方もいらっしゃるので、営業時間に関係なく予約を受けられるようにしてもらったんです。
suiの店長も子どもがいて子育ての大変さを分かっているので、かなり融通を利かせてくれています。働きやすい環境づくりに協力してもらいました。
子育てに最適な環境をつくるための中村さん流「交渉ポイント」
1. 給料を歩合制から固定給に切り替えてもらう
2. 営業時間外でも店舗を使えるようにしてもらう
3. 急な早退などに対応できるよう、スタッフに協力を仰いでおく
アシスタント時代に出会い、スタイリストとして独り立ちするまでの様子を互いに知っているからこそ、中村さんとパートナーは絶大な信頼感で結ばれているなと感じました。子育てをしながら働くために、まずは職場の環境づくりが重要。中村さんがお手本にした先輩からのアドバイスは、スタイリストとして復職するワーキングママやパパにも参考になりそうです。
まず、給料を歩合制から固定給に変更してもらうこと。子どもと一緒に過ごす時間を優先すると、フルタイムで働くには限界があります。金額は減るかもしれませんが、固定給になれば歩合のために無理しなくて済むのは大きなメリットと言えそうです。
そして勤務時間をサロンの営業時間に限定せず、営業時間前にも予約が取れるようにすること。働く本人だけでなく、お客様のメリットにもなるのなら試してみる価値はあります。もうひとつ重要なことが、同僚の協力を得ることです。例えば、接客中に保育園から呼び出しがあって早退しなければならないときや、子どもの病気で店を休まなければならないときなど、どうにもならないときに助けてくれるのは同僚しかいません。普段から信頼関係を築いておくようにしたいものです。
後編では、子育てと仕事で溜まったストレスの発散法や、忙しいパートナーとお子さんとの時間の作り方などを伺います。