お香の魅力に気づき、会社員から香司に。「お香」を通じて癒しを届けたい【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.90 お香専門家・教授香司 石濱栞さん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回は、お香専門家・教授香司の石濱栞さんにインタビュー。石濱さんは、愛知県名古屋市にある願隆寺にてお香の文化を伝える活動を通し、お香により感じられる癒し・リラクゼーションについて発信しています。
前編では、石濱さんがお香と出会ったきっかけや香司になった経緯を伺います。
お話を伺ったのは…
お香専門家・教授香司 石濱栞さん
お香の魅力に気づき、会社員として勤務しながら講座に通い、香司の資格を取得。副業として自身でお香の手づくり講座を経験したのち、香司の仕事に絞る。願隆寺の住職と結婚したあとは、お寺で講座を行っている。現在は、香司教授として香司を輩出することに力を入れながら、多数メディアにも出演するなどお香を伝えるため幅広く活躍中。
お坊さんの「手づくりお焼香」がきっかけで香司を目指すことに
――お香に着目した経緯をお聞かせください。
もともと祖母がお寺の親戚だったこともあり、神社やお寺の文化が身近にありました。その影響か、私もお寺や神社が好きで、寺社巡りが趣味でした。
いろいろ巡った中で、自分にとってすごくいい気が流れていると感じる神社やお寺は必ず、「良い香り」がしていることに気づいたんです。それからお香に注目し始めましたが、勉強までしようとは思っていませんでした。
――どんなきっかけから学ぶことになったのですか?
祖父の法事に来ていただいたお坊さんが手づくりした「お焼香」を嗅いだことがきっかけです。
焚かれた香りを嗅いだときにびっくりしました。その香りというのが、自分にとって「いい気」が流れていると感じる神社やお寺で嗅ぐ匂いと同じだったんです。
香りがとても気になったので聞いてみたら、「香木(こうぼく)」を使って作られたことを説明してくださいました。そのとき、調合次第でいろんな用途に使うことができるお香に興味が湧いてきました。
――それから香司を目指されたのですね。
そうですね。自分でも香りをつくってみたいと思うようになり、ネットで香司の講座を調べました。
ところが、当時私は名古屋市に住んでいて近くにそういった講座はなく…東京まで通うことになりました。平日は働いていたので半年間土日を使って勉強をし、香司を取得しました。
資格を取得してからは、お香を自分でつくれることが楽しくて周りに配ったりしていました。意外にも興味をもってもらうことが多く、資格があるのだからやってみようと思って講座を始めました。
――反応はいかがでしたか?
とりあえずの気持ちで「お香の手づくり講座」を開いてみたところ、かなり好評でした。個人的にお香ってニッチな印象だったので、反響が多かったことにビックリしましたね(笑)。
会社に勤務しながら土日は講座を、というような感じで副業としてスタート。だんだんお香の講座で収入が得られるようになったので会社をやめて、講座一本に絞ることにしました。
香司として、お香による「癒し効果」を伝えていく
――集客はどのように行っていたのですか?
当時は、ブログやフェイスブックが主流でした。お香の知識をメインに投稿しながら、たまに講座の案内を告知すると、来てくださる方が多かったです。
実は私、寺社巡り好きが高じて、東海3県で放映されているテレビ番組に何度か出演したことがあるんです。東海県内の神社やお寺をピックアップして紹介する企画なんですが、その出演した際にお香の告知もさせていただいていたことで反響があり、講座に来てくれる方も増えたように感じます。
また、この頃のテレビ出演がきっかけとなり、願隆寺の住職と出会い、結婚後は願隆寺で講座を開くようになりました。
――お寺で講座を開くことになってから変わったことはありますか?
お寺が好きといった理由で来てくださる方も増えたので、お寺の良さを最大限に引き出す雰囲気づくりに力を入れるようになりましたね。
お寺の清らかな空間を演出できるようにあたたかみを残すことを意識しながら、季節の設で飾り付けをしたり。結婚前はレンタルスペースでの開催だったので、できなかったこともあり、今は楽しく感じています。
――実際に受講される生徒さんの反応も教えてください。
受講される理由は、和文化が好き、お香が好き、癒されたい、家で過ごす時間を充実させたい、などさまざまです。
ただ受講していただいた感想としましては、「癒された」といったお声が多いですね。手先に集中して自分の世界に入り込めるところや、つくっているお香の香りの変化などによって落ち着いてくるようです。お香は鎮静作用もあるのでイライラが収まったり、怒りの感情が減ったりするなどの効果もみられます。
――やはり、お香は「癒し効果」があることが魅力なのでしょうか?
私の場合はお香を始めた頃に周りから「おだやかな顔つきになったね」と言われることが増えました。お香には気を鎮めてくれる効果があるので、習慣化したことで、せっかちだった性格が落ち着いたり、イライラすることが減りました。
気持ちの変化以外に体内の変化もありました。お香を焚くと、「ごろごろ」と、胃腸の動きが活発になるんです。
――気持ち以外にも影響してくるなんて意外でした!
勉強をしてから分かったことなのですが、もともとお香は「薬」として入ってきたものだそうで。「香りの強いものは魔を除ける」と言われ、昔から疫病を恐れていた日本人はお香を軒先に吊るしたり、お守り代わりとして持ち歩いたりしていたらしいのです。
実際に当時から使われていたお香の原料の目録が奈良県にある正倉院に残されていますが、その中から香りの良いものをピックアップして現在のお香に使われるようになったと言われています。
手づくり講座でお香をつくる原料もそういった歴史を踏まえて、日本古来のお香と言われる、沈香と白檀をベースにしていますよ。
お香に興味を持ったことで香司の資格を取得し、講座で利益を得るようになった石濱さん。後編では、講座で行っているお香の種類や特徴、さらにご自身と同じ香司の資格を目指す人に向けた講座を開設した経緯について伺います。
取材・文/東菜々(レ・キャトル)