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ヘルスケア 2024-07-17

失敗した分だけ相手に寄り添う強みになる!【もっと知りたい!「ヘルスケア」のお仕事Vol.148/(株)ロッカン 代表 白井剛司さん】#2

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

前編に続いて、マインドフルネスの講師・指導者として個人はもちろん、企業研修にも携わっている白井剛司さんにお話しを伺います。

前編では30代前半でメンタルダウンしたことや、2つの瞑想や実践法を学んで秦野を拠点に活動を始めたことなどをご紹介しました。後編では、拠点に秦野を選んだ理由、ここだからできる白井さん流のマインドフルネスについて、これからマインドフルネスに携わりたい方へのメッセージを語っていただきます。

お話を伺ったのは…
(株)ロッカン
代表 白井剛司さん

大学卒業後、広告代理店の(株)博報堂に入社。営業職として大手企業の広告宣伝やマーケティング、イベントプロモーションを担当。30代前半でメンタルダウンの後、キャリアチェンジし、社内の人材育成業務に長年携わる。2022年に退社し、弟の白井寛人氏((株)トアポイント代表)が神奈川県秦野市に開拓した農場に合流する。ここで企業や個人を対象としたリトリート体験ができる場を設営するために活動を始める。今後は寛人氏を中心に農場レストランや宿泊施設の展望も。MBSR(マインドフルネスストレス低減法8週間)の認定講師。ICC(国際コーチング連盟)認定コーチ。

秦野は農作業とマインドフルネスを体験できる最適な場所

弟の寛人さん(右)は料理人。農作業とマインドフルネス体験の合間に、田畑で収穫した作物を使った料理でもてなしてくれます。

――白井さんが秦野を選んだのはなぜですか? ご出身はこちらですか?

僕の出身ではありません。料理人をしている弟が食材にこだわって、農業を学びながら関わるようになり、里山の環境が魅力的なここ秦野市上地区に移り住んだのがきっかけです。

――農作業とマインドフルネスが体験できるのも、弟さんの田畑があるからなんですね。

(株)ロッカンでは、企業や個人に対して「心身の健康を育むこと」、「安心できる仲間との関係性を築くこと」を提案しています。そのためにマインドフルネスを柱にして心を満たす場を作りたかったんです。弟が開拓したこの田畑で農業体験を提供しながら、同じ職場の仲間たちと一緒に食も楽しんでもらいたいですね。

――企業の研修も受け入れているんですか?

会社を離れて一緒に農作業を始めると、年齢も肩書きも意味を持ちません。同じ作業をするうちに仲間意識が生まれます。関係の基盤とでも言いましょうか、一度、こうした共通の体験をしておくと、社内で意見の食い違いがあっても、最悪な状況になる前でくい止められたり、許し合えたりするものなんです。

一度ネガティブなイメージが付いてしまうと、それを払拭するのは大変。だからこそ、新年度が始まったらすぐにでも体験して欲しいですね。

――海外に比べて日本のビジネスパーソンにマインドフルネスが浸透しないと言われるのはなぜでしょう?

日本のビジネスパーソンはとにかく忙し過ぎる。マインドフルネスをやっている時間なんてない。だから、いつか時間ができたらとか、引退したらやる!と思っている方がほとんどでしょう。

それに、マインドフルネスの先にはウェルビーイング(良い状態が続く)があるといわれても、今、辛くて苦しい思いをしている人には少し距離感があって響きませんよね。

――忙しい人に響くには何が必要ですか?

忙しい人にとって、いちばんの価値はリラクゼーションとパフォーマンスを上げることだと思います。一般的に瞑想やマインドフルネスの世界には、こうしたリターンを求めないほうがいいという考え方があるんです。でも、マインドフルネスに興味のある人は、苦しみや課題を何とかしたいはずなんです。だから最初の半年~1年はリターンを追ってもいいと、僕は思っています。でも、そのまま続けていかない方が良い、結果として自分を苦しめることになるから注意が必要だよ…と伝えています。

――白井さんの会社員時代に陥った負のスパイラルですね。

瞑想の最初の入り口はリラクゼーションでいいと思っています。アメリカでマインドフルネスが広まったのは、幸福感が得られると同時に集中力が上がってリーダーシップ力が身につくからという文脈だったと思います。その先に「自分へのやさしさ」など、本質的な価値を知ればいい。最初は効果から入って、その先に自分が抱えている問題が減っていくような、心の成熟に向かう進み方が理想です。

最初から「リラクゼーションや効果を期待すべきではない」なんて言われたら、ハードルが高くなりますよね。

――マインドフルネスや瞑想は静かな場所で行うものだと思っていました。

静かな屋内で行われることが多いですね。マインドフルネスは意識を自分の中に向けることなので、自然の中で行うのはちょっと特殊。ここでは鳥のさえずりが聞こえたり、風に当たる感触があったり。温かさや寒さも感じるでしょう。自然の中で、自分も自然の一部だということが体験できます。

――どうやってガイドをなさるんですか?

自分の内側に集中することから始めて、鳥の声が聞こえたとしても、まずは自分の内側に集中してもらいます。慣れてきたら風の音を聴いたり、また内側に戻ったり、また自然の音に耳を澄ませたり。これを繰り返していくと身体の内側、際(表面)、外側の境目がだんだん希薄に感じる方もいるかもしれません。

遮るものが何もなく、自然と一体になったような感覚に近づけたら、それがこの自然の農場で体験してもらいたい理想的な状態です。自然環境の音や風、匂いや感触など多種多様な刺激を五感で受け取ると安心感が高まります。最初から誰でもできるわけではないとは思いますが。

失敗をたくさんしている人こそ、瞑想の指導者に適任

この場所に宿泊もできる施設が建設される予定。弟の寛人さんが腕を振るうレストランも併設されるとか。

――マインドフルネスの講師や指導者になるのは難しいですか?

やることだけで言えば、スクリプトを読めば、誰でもそれなりに出来ると思います。とは言っても、やはり経験が必要です。ガイドをしている間、自分と参加者の両方を意識しながら進めなくてはなりません。また参加者が今どんな状況にあるのかを分かった上で、的確に対応する必要もあります。ガイドをする本人もマインドフルネスを体現していることも重要です。

――ガイドをするときは、参加者の様子を見ているんですか?

人はリラックスすると、トラウマ的な身体的な不快さや違和感が出ることがあります。そうなると、急に顔色が悪くなったり、呼吸が浅くなったり、苦しい様子を見せたりします。そういう反応に気づければ声がけができます。

オンラインでガイドをするときは、表情や呼吸など身体の状態が分かりません。そんなときは「私は今、こんな状態にあります」とか、常に感想や質問を受け付けるようにしています。参加者のみなさんが遠慮したり、恥ずかしがったりしないように、自分の状態を言いやすい雰囲気にするのも大事です。

――ガイドが注意すべきことは他にありますか?

参加者に強制しないことです。例えば、マインドフルネスは目を閉じた状態で呼吸を観察するのが基本ですが、「目は閉じても閉じなくてもいいです。目を開いていても、薄目を開けていてもかまいません」と、選択肢を与えます。

また、ガイドが「理想の状態はこうです」と言い切ると、参加者の中でそうなれなかった人は「自分は間違ってしまったのでは」と思ってしまう。それではいけません。自分の価値観を押しつけてはいけないのです。たとえば、参加者が気持ち悪いと感じたら、「この瞑想は気持ち悪かったです」と言いやすいような自由と選択がある環境づくりが大切です。

――理想的なガイドになるにはどうすればいいですか?

場数を踏むことですね。自分もいいことや辛いことなどたくさん経験すると、参加者の気持ちが分かるようになります。

書道でも武道でも「道」がつくものを極めるとき、さっさと早く進む人がいれば、遠回りをする人もいる。トライ&エラーを繰り返して遠回りすると時間はかかるけど、その分リソースが増えます。失敗が多い人はその人なりの価値があると思います。

――白井さんも遠回り派ですか?

そうですね。僕は思考が強くてコミュニケーションが苦手。自分はもちろん他人がどう感じているのかを気づきにくかったんです。瞑想を繰り返すうちに、自分の中の感情や感情に気づきやすくなりました。自分の気持ちが分かると、他人の感情も見えてきました。

自分の感情が分からないことを例えるなら、夜道にサングラスをして歩いている状態ですね。目の前にきれいな花が咲いているのに、サングラスのせいで何も見えない。実際にあるのに感じられないのは思考が強い人の特徴ですね。今は人との関わり方が自然になってきたと思います。

――マインドフルネスの講師・指導者を目指している人にアドバイスをお願いします。

私も道半ばですが、今まで経験してきた苦難や困難、人より劣っている点そのものが実は自分の強みやリソースになっていると信じています。一つ一つを愚直に経験することを大切にしてください。

白井さん流! 講師・指導者として長く続けるためのポイント

1.トライ&エラーを意識し、瞑想の経験を積み重ねること。

2.自分の思考や感情を否定せずに受け入れると同時に、他人の思考と感情も受け入れる。

3.指導者としての考えや価値観を押しつけず、参加者に選択の自由がある環境を作る。

慌ただしい日常から離れて、弟さんが開拓した丹沢の農場でチームとともに体を動かす農作業とマインドフルネスが体験できる場を提供している白井さん。宿泊施設が完成したら、採れたて野菜をふんだんに使った弟さんの料理が堪能できるだけでなく、ヨガインストラクターの妹さんが指導する本格的なヨガも体験できるとか。オープンが待ち遠しい!

撮影/森 浩司
撮影協力/(株)トアポイント(秦野市上地区柳川)

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