介護施設でご利用者様に授業を行う⁉︎ 話題の「学校式介護」を深堀り!【介護リレーインタビュー Vol.43/おとなの学校 船橋本町校・秋吉智美さん】#1
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
今回お話を伺ったのは、
学校式介護で注目を集める「おとなの学校」。
前編では、「船橋本町校」の秋吉智美校長に、「おとなの学校メソッド」やご利用者さまへの向き合い方などを伺います。
「学校式介護」は
ご利用者様もスタッフも笑顔になれる!
――秋吉さんは、「おとなの学校 船橋本町校」の校長先生ということですが。
この施設の中では校長ですが、行政上は管理者になります。ちなみにこの施設を運営しているのは「社会福祉法人 照敬会」で、「おとなの学校グループ」の直営校です。
「おとなの学校」は直営校とフランチャイズ校、そして「教科書」だけを利用している導入施設があり、直営校とフランチャイズ校は全部で9校。そこでは基本「学校式介護」にのっとって、1日4コマの授業を行なっています。
導入施設は全国で596施設(2024年1月時点)あるのですが、それらは各施設の活動の中に「おとなの学校」が発行する「おとなの教科書」を利用した授業(レクリエーション)を導入している、という感じです。
――なるほど、まるごと学校としてのシステムを取り入れるか、レクリエーションの中に授業として取り入れるかの違いですね。ちなみに秋吉校長がこの「船橋本町校」に入られたのは?
22年7月です。当校自体が22年9月開校なので、そのオープニングスタッフとして入社し、2ヶ月間は校長研修などを受けて準備していました。
――そもそも介護士になったきっかけというのは?
もともと看護師になりたかったのですが、勉強が苦手で……。高校の担任の先生に相談したら、介護士を勧められました。国家資格ですし、これから求められる職業だと。先見の明でしょうか。
ちょうど自宅の近くに介護福祉科の専門学校があったのでそこに進学して、そのまま介護士に。気がついたら約25年この仕事をしています。
――「おとなの学校」を選んだ理由というのは?
「学校式介護」というのに惹かれました。それまで認知専門のデイサービスや一般的なデイサービスに勤めていて、ここに入社する直前までは介護士兼トレーナーで働いていたのですが、既存のデイサービスの働き方に少し物足りなさを感じるようになってしまって……。
そんな時に「学校式介護」というのが目に入って、おもしろそうだなと。すぐ調べて、すぐ応募しました。
――実際に働かれてみてどうでしたか?
お客様(ご利用者様)が生き生きしていますね。みなさん介護施設に来ているというよりも、学校に通っていると思ってらっしゃるので、授業中の会話にも積極的に参加してくださいますし、お話も盛り上がります。
先生(スタッフ)側も、基本的には1人で授業を受け持つので、他の先生たちはその間に他の業務を進められますし、負担が少ないのも助かっています。
「回想法」をベースにした教科書で
会話が弾み、心まで若返る⁉︎
――「おとなの学校メソッド」について少し詳しく教えてください。
「学校式介護」というように、学校のような教科書をベースにした授業を行うのですが、これは回想法を取り入れた内容になっています。
なので、教科書はあくまでお話のきっかけであり、大切なのは「みんなでおしゃべりしてもらう」こと。例えば「お寿司」がテーマだったら、「みなさんどのような郷土寿司を食べたことがありますか?」とか、「どのネタが好きですか?」などお話を広げて、思い出を語っていただきます。
昔を思い出しながらおしゃべりすることで脳を活性化させ、認知症の緩和を目指すわけですね。特に食べ物の話題は盛り上がります。正直、問題を解いて正解を出すのは二の次。答えは一緒に答え合わせをするときに写してもらうだけでもいいんですよ。
――楽しそうですね!
お客様も、ただ「何かお話ししましょう」では、何を話していいかわかりませんし、それだと「放っておいて」「寝かせて」という方も出てしまうと思うのですが、授業となればみなさま意欲的に会話に参加してくださいます。
そして、思い出を教えてくださったら「ありがとうございます」と拍手をして、次の方につなぐ。皆様がこれまで歩んでこられたことを称賛しつつ、より前向きに取り組んでいただけるように心がけています。
2〜3ヶ月経つと、発言内容も変わってきます。中には、ふだん杖を使って歩行されている方が、授業後に杖なしで歩き出して、「〇〇さま、杖は大丈夫ですか?」と言うと、「あらあら、どうしましょう!」という方も(笑)。学生時代を思い出し、心まで若返るようですね。
――ちなみにスタッフさま側としてはどうですか? 「授業」と聞くと、ちょっと準備が大変そうな気もしますが……。
お客様用とは別に先生用の教科書(教則本)があるので、それにのっとって進めれば特に授業のための準備は必要ありません。よくあるレクリエーションのネタを毎回考えるよりも楽だと思いますよ。
――介護職初心者でも心強いですね! ちなみに、この船橋本町校ならではの取り組みもあったりしますか?
おとなの学校では「国語、算数、理科、社会、英語、音楽・美術、家庭科、保健・体育」と8科目の授業があるのですが、家庭科の項目で出てきた食べ物を調理実習として取り入れています。
今までに作ったのは、天ぷら、そば、スパゲッティなど。女性のお客様は特に張り切って取り組んでくれました。1月の教科書はお雑煮の紹介が載っていたのですが、さすがにお餅はちょっと危険なので避けましたが、今後もできる限り取り入れていきたいなと思っています。
あとは、季節のイベントですね。クリスマス会や夏祭り、運動会なども行なっています。新しくお客様が入られた当日は、入学式も行いますよ。
――素敵ですね! ちなみに「船橋本町校」のご利用者さまの人数は?
本来、授業のシステムとしては先生一人に対して30名ぐらいまでのお客様を見れますが、ここでは1日の定員が15名。授業は月〜金曜で、曜日ごとにいらっしゃるお客様が固定されているので、全体の登録者数としては約40名です。男性のお客様もたくさんいらっしゃいます。
「優しさの押し付け」にならないよう、
「本当に必要なケア」で継続的なサポートを
――ご利用者様と向き合う時に大切にされていることはありますか?
自己満足にならないように気をつけています。これは介護職あるあるだと思うのですが、よかれと思ってやっていても、その場だけの優しさだったら、スタッフ側の自己満足だと思うんです。
うまく言えませんが「やってあげている感」というのでしょうか、そういうのが出てしまうと、それはただの「優しさの押し付け」になるので、継続的にサポートしていくことを前提に、「本当に必要な手助けとは何か」を考えて行動するようにしています。
――介護職のどんなところにやりがいを感じますか?
やはり、お客様やそのご家族に頼りにされるとやりがいを感じますね。
一番印象的だったのは、「先生、学校を作ってくれてありがとう」って言われたこと。これはご家族からのお言葉でした。正直、私が作ったわけではないのですが(笑)、「ここに通うようになってから、お父さんがすごく変わった」と言っていただけて、すごく嬉しかったのを覚えています。
そのお客様は認知症で、短期記憶がほとんど残らない方なのですが、家に帰って「今日、日直で……」と、時々授業の話をすることがあるそうです。
男性って介護施設に来たがらない方が多いので、入学当初はあまり楽しそうじゃない方もいますが、だんだん楽しそうになっていって、ご自宅でもそのお話をするようになって。そういうお話をご家族から聞けると、「この仕事やっていてよかった!」と思いますね。
――素敵なエピソードですね。
千葉にはここ以外にもう一つ「おとなの学校 船橋前原東校」があるのですが、もっともっと「おとなの学校」が増えるといいですよね。そうしたら私は「千葉で最初の『おとなの学校』の校長先生」として、有名になりたいです(笑)!
――ありがとうございました! 最後に「介護士の心得3箇条」を教えてください。
・明るく
・楽しく
・元気よく
私が授業をすることは他の先生に比べて少ないのですが、少なくとも1日1回は黒板の前に立って、みなさまのお顔を見たいと思っています。授業に立てない日はできるだけ朝礼と終礼は自分で担当することをマイルールにしているのですが、特に朝礼は、1日最初のご挨拶。その時に元気がないと、お客様も困惑すると思うんです。
ですから、みなさんの前に立つときは、元気いっぱいの笑顔でいること。その日1日お客様に楽しんでいただくために、私自身が楽しむことを大切にしています。
後編では、「船橋前原東校」の脇田紀隆校長に、「おとなの学校」での働き方やこれから介護士を目指す人へのアドバイスなどを伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄