【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.47】家事援助で用意した食事を食べてくれなかった! どうして?
介護のお仕事で遭遇する「困ったな…」という出来事の対処法をご紹介するこの企画。今回は、食事の提供をしたのに思うように食べてもらえない時に考えるべきことをご紹介します。
初めて訪問する利用者へ食事を用意したけど、料理を目の前にしても食べてくれない…。
初めて訪問する利用者Nさん。サービス内容は家事援助で、食事の用意もすることになっていました。認知症の症状が軽く見られるとは聞いていましたが、食事については特に注意事項は聞いていません。ですが、食事を用意したところ、料理を目の前にしてもなかなか食べてくれません。具合が悪い? 口に合わない? お腹が空いてない?など、色々考えますが、今後どうしたらいいのか困っています。
お話を伺ったのは…
介護ラボしゅう 代表/株式会社Salud代表取締役/NPO法人 Ubdobe(医療福祉エンターテイメント) 理事/株式会社介護コネクション 執行役1983年東京生まれ。ヘルパー2級を取得後、アルバイト先の特別養護老人ホームにて正規職員へ。約10年、特別養護老人ホームとデイサービスで勤務。その後、デイサービスや入居施設などの立ち上げから携わる。現在は、介護現場で勤務しながらNPO法人Ubdobe理事、株式会社介護コネクション執行役なども務める。2010年に「介護を文化へ」をテーマに『介護ラボしゅう』を立ち上げ、毎月の定例勉強会などを通じて、介護事業者のネットワーク作りに尽力している。
高齢者にとって一食一食の食事がとても大切だということや、QOL低下を招かないための対応ポイントについては【今さら聞けない!? 介護のお仕事の基本vol.41】でお話ししましたので、今回は、食べてもらうための具体的な対応策についていくつかご紹介していきます。
ポイント1:食べ物だと分からないのかも…
介護や認知症に詳しくない人なら「そんなことあるの?」と思ってしまいそうですが、認知症の影響で目の前の料理を食べ物だと認識できていない可能性は十分にあります。視覚的に、または行動的に食べ物であることを認識できるように働きかけてみましょう。
1. 今まで食べ慣れてきた料理にする
2. 料理を作るところを見せる
3. 一緒に料理を作って盛り付ける
4. 料理と器の色・柄の組み合わせを工夫する(白いご飯を内側が濃い色の茶碗に盛る、模様のない皿を使うetc.)
5. 目の前で料理を食べて見せる
ポイント2:食べることに集中できないのかも…
目の前の料理以外に気を取られてしまい、食べることを忘れてしまっていることも。テレビの画面や音、窓の外の風景などでも、視覚・聴覚情報は入ってきています。認知機能が衰えていると、こういった無意識に入ってきてしまう情報を処理しきれず、目の前に料理があってもそれを食べるという行為まで意識が回らなくなってしまうこともあります。
また、皿数が多い、魚などの食べ方に迷う、といった料理でも、何から食べたらよいのか、どうやって食べたらよいのかといった情報処理が追い付かず、料理に箸をつけるところまでたどり着けないということも。食事の際は、食事に集中できる環境作りをしてみましょう。
1. テレビを消す
2. 食べる場所を窓の外が見えない場所にする
3. 食べている途中であまり声かけをしない
4. 途中で食べるのをやめてしまう時はいったん中断して、時間をずらして再度出してみる
ポイント3:体調に原因があるのかも……
認知の問題以外に体調が関係しているのかもしれません。例えば、便秘でお腹が張っていると食べられないことがあります。また、寝起き直後だったり、眠かったり、脱水症状による意識レベルの低下でボーッとしていたり、歯が悪くなっていたり、入れ歯などが合わなくなっていたりということでも、食事に気持ちが向かいません。
排便の回数や状態をチェックしたり、寝ぼけていないかを確認したり、水分補給をしたり、歯磨きなど口に何かを入れる時にいつも違う様子がないか、観察して探り出し、その原因から対処しましょう。
「噛む」「飲み込む」力が衰えたのかも! 注意したい3つの特徴
1. 今まで食べていたものが食べにくそう
2. 食べ物が口に入ったままで飲み込めない
3. 舌の上が白い
「噛む」「飲み込む」という行動は、脳の働きや口の細かい動きによって支えられています。食べ物の固さや温度などを感知してその食べ物の特性に合わせて咀嚼したり、上手く飲み込んだりすることは、実は運動機能や過去の経験に深くかかわっています。だから老化によって認知機能や筋力・運動機能が低下すると摂食機能障害が起こるのです。
段々とこれまでのように食べられなくなっているので、窒息事故や誤嚥性肺炎の発症などにつながらないようにするためにも、調理をする際には摂食機能の状態への注意が必要です。
上記の3点は、「噛む」「飲み込む」という機能が低下していると考えられる状態なので覚えておきましょう。状態に合わせて、調理方法や提供する形などを配慮しましょう。
監修・中浜さんの「実際にこんなことありました!」
認知症をはじめ様々な病気を理由に食事が進まないということが起こります。
私が接してきた利用者さんにもありました。原因が認知症だったこともありましたが、他にも視力の問題でお茶碗に入っているご飯を認識できずにご飯を召し上がらないということがありました。この時は、お椀を色のついたものに変更するなどして対処しましたね。
食事が進まないと、「食欲がないのかな」「嫌いな食べ物なのかな」と受け止めて終わらせてしまうこともあるかと思います。ですが、今回のテーマにあるような広い視野を持って受け止めて考えていくことも、利用者のQOLを保つ上では大切なことです。ぜひ、「もしかして…?」と色々疑ってみて、試してみてください。こういう試行錯誤も介護職の醍醐味であり、介護の仕事を楽しむコツかなと思います。
文:細川光恵
参考:「絵で見て分かる 認知症「食事の困った!」に答えます ―「食べてくれない」には理由があります―」女子栄養大学出版部