外出が難しい人に心が安らぐ瞬間を届けたい。その思いから訪問介護美容を開業【もっと知りたいヘルスケアのお仕事Vol.163 ケアビューティ・まつりか 新郷ひとみさん】#1
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載「もっと知りたいヘルスケアのお仕事」。今回は、作業療法士・ケアビューティストの二足の草鞋を履く新郷ひとみさんにお話を伺います。
作業療法士として10年のキャリアを持つ新郷さんは、訪問リハビリの経験から外出が難しい人がたくさんいることを知ります。自宅での生活に心が安らぐ瞬間を届けたい。そんな思いから訪問スタイルの介護美容をスタート。「凝り固まった体がほぐれて楽になった」「ネイルサロンには行けないけどきれいになって嬉しい」そんな利用者さんの声を励みに奮闘する日々の活動について教えていただきました。
お話を伺ったのは…
作業療法士
ケアビューティスト
新郷ひとみさん
2014年より作業療法士として介護老人保健施設や訪問看護ステーションに勤務。訪問リハビリの経験が長かったことからケガや病気のため外出が難しい人がたくさんいることを知る。自宅での生活にワクワクできる時間を届けたい。そんな思いを実現するためケアビューティストの資格取得後「ケアビューティ・まつりか」を創設。作業療法士として勤務する傍ら、自宅に出向いてネイルやフェイシャル・フットトリートメントなどを行う介護美容とハンドメイドを教える活動を行う。トータル・ケアビューティー協会・埼玉支部
新郷ひとみさんのインスタグラム:@sungomango_carebeauty
趣味の手芸を楽しみながら仕事ができそう
――新郷さんは作業療法士としてのキャリアが10年以上だそうですが、まずは作業療法士になろうと思ったきっかけを教えてください。
高校の進路選択のときに心と体に関わる仕事、リハビリの仕事がしたいと思ったのがきっかけです。理学療法士も選択肢にあったのですが、手芸や工芸などの作業を通して患者さんや利用者さんの生活を豊かにする作業療法士の仕事に魅力を感じました。母の影響で小学生の頃から手芸や工芸をしていたいので、自分も楽しみながら仕事ができそうだなと思ったんです。
――高校卒業後の進路は?
医療福祉系大学の医療福祉学部作業療法学科で学び、卒業後は埼玉県上尾市内にある介護老人保健施設に就職しました。
――具体的にはどんなお仕事なのでしょうか。
介護老人保健施設は、病院に入院していた方や自宅での生活が困難になってきた方が入所・通所される場所です。リハビリなどで利用者の方がよりスムーズに生活できるようにお手伝いしたり、ご家族の介護の仕方や環境を整えていくのが作業療法士の仕事になります。
――想像以上に幅広い仕事内容なのですね。
入所・通所の他に訪問リハビリもあり、実はそこがいちばん長かったんです。訪問リハビリの利用者さんは、ケガや病気など理由もさまざま。寝たきりの方もいればわりと元気に活動されている方もいるので、介護保険内のリハビリだけでなく、介護予防教室や認知症予防教室など地域で高齢者を支援するサービスについてひと通り経験させていただきました。
臨床以外に自分らしい活動がしたくてケアビューティストに
――介護美容を始めたきっかけを教えてください。
作業療法士として働き始めて3年目くらいから、日々の臨床以外に自分らしい活動もしたいなという思いがあって。そのときに浮かんだのが、障害者・高齢者の方向けのファッションをテーマに取り組んだ大学の卒業研究でした。すごく大変だったんですが、自分らしいテーマだと思えたし、まわりの人からも新郷さんらしいねと言われて、結局楽しかったんですよね。このテーマで第二のキャリアを見つけてみたいなと思いました。
もうひとつの道を探したくてファッションのイベントに参加してみたりしたのですが、どう活動に結びつけていいかわからず。そんなときに介護美容研究所を知り、ファッションも美容も通ずるところがあるのかもと思い学び始めたんです。
――介護美容研究所ではどんなことを学ぶのですか。
メイク、オイルトリートメントなどのエステ分野とネイルなど高齢者向けの施術のほか認知症について、高齢者の方とのコミュニケーションのとり方などを学びました。個人的にすごく勉強になったのが、チームを組んで利用者さんお一人に3~4週間美容の施術をして、どういう変化があるのかを見つけるアセスメントの実習でした。
――利用者の方にはどんな変化があったのでしょうか。
手の骨折による痛みで整形外科に通っていた方にハンドトリートメントのやり方をお伝えしたらご自分でやってくれて、そうしたら痛みがやわらいで湿布をもらわなくても大丈夫なまでになったんです。施術の効果はもちろん、これをやれば病院に頼らなくても大丈夫という安心感も芽生えたんだと思います。
――介護美容にはそんな素晴らしい作用があるのですね。ケアビューティストの資格取得後はどんな動きを?
ボランティアでやるか仕事としてやるか直前まで悩んだのですが、せっかくやるならと開業を決意。それと同じタイミングで、新しいことへの受け入れがよさそうな職場を探し、一緒に巻き込みながらできるといいなという思いで訪問看護ステーションに転職しました。訪問看護ステーションは、病気をされた若い方やお子さんも対象なので、高齢者だけでないところがそれまでとの大きな違いですね。
心が安らぐ瞬間を届けたくて訪問介護美容で開業
――独立後の活動について教えてください。
ケアビューティストには契約した施設で施術を行う人が多いんですが、個人宅への訪問スタイルを基本にした「ケアビューティ・まつりか」を開設しました。それまで関わってきた利用者さんには、体は良くなってもその先の楽しみの場がない方や、ずっと調子がよくならない方もいらっしゃいます。そういう方にも心が安らぐ瞬間を届けたいという思いから訪問スタイルを選択しました。
――どんなメニューがあるのですか。
ネイルカラーやネイルケア、オイルを使ってむくみやすい膝から足をやさしくほぐしていくフットトリートメント、フェイシャル・ヘッドトリートメントが中心です。
――利用者さんはどんな反応ですか。
トリートメントの後は「すごく体が軽くなる」「気持ち良かった」とその場で喜んでいただけることが多いです。毎月訪問日が決まっている利用者さんに「体がガチガチすぎるから急遽で申し訳ないけど明日来てくれる」と依頼されると、頼られているんだなと嬉しくなります。
90才ぐらいのご高齢の利用者さんからは「お店には行けないけど、前からネイルをやってみたかったから嬉しい」と喜んでいただけました。同じ方に「家族でお墓参りに行く前にきれいにしたいからまた来てください」とご依頼を受けたときも嬉しかったですね。
――告知や集客はどうされたのですか。
転職のタイミングでそれまで担当していた方にこっそり資料をお渡ししたり(笑)、モニターになってもらったり、まずは自分が関わっていた利用者さんにご案内しました。あとはずっと埼玉県の上尾・桶川エリアを中心に訪問リハビリをしていたので、ケアマネの方と顔見知りだったりするんですね。その繋がりでご紹介いただくことも多いです。
――訪問スタイルならではの大変さはありますか。
施設と違ってフォローしてくれる人がいないので、すべて自分で対処しないといけないことです。例えば、足湯のお湯をこぼしてしまっても拭いてくれる人はいないですし、それ以前に家具などを汚さないように常に気をつけています。
後編では、今後充実させたいというハンドメイド分野のこと、作業療法士×ケアビューティストのやりがいなどについてお伺いします。
撮影/山田真由美
取材・文/永瀬紀子