これからのヘルスケア従事者に必要なのは、人を引き込み、伝える力【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.122 作業療法士/conditioning studio VIVALUCK! 代表 恒松伴典さん】#2
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
前回に続き、作業療法士として長年のキャリアを積んだ後、脳の仕組みを元に『脳チング』を考案した「VIVALUCK!」代表の恒松伴典さんにインタビュー。
後編では、恒松さんがヘルスケアのお仕事に感じる魅力、これからヘルスケアの仕事を目指す人に向けたアドバイスをお聞きします。
お話を伺ったのは…
『conditioning studio VIVALUCK!』代表 恒松伴典さん
医療・介護業界に20年以上従事。脳科学ベースの人材育成法により離職率を大幅に改善。脳の仕組み×コーチング・ティーチングの手法『脳チング』を考案。離職防止、ストレスマネジメント、メンタルコントロール、人材育成の研修が好評。脳の仕組みを解説し、ワークライフバランス回復・維持を支援している。
『conditioning studio VIVALUCK!』Instagramアカウント:@conditioning_studio_vivaluck
人の資本になる体と心に関わる仕事は
あらゆる働く人たちに役立てる
――作業療法士をはじめ、ヘルスケアのお仕事の魅力は何だと思いますか?
体はどんな人にとっても資本ですから、そこに携わり役に立てるのはとても魅力的な部分だと思います。
どの業界も人材不足の今、人材の確保はとても重要です。人的資本経営と言われるように、人材をより大切にすることで生産性を上げるという考えも広まってきました。「心も体も元気に働ける」状態というのが、大前提として必要とされているんです。
そんな現状もあり、作業療法士が当たり前に持つ知識が、多くの企業から重宝され、新鮮に受け取ってもらえているのを活動の中で感じます。自分が学んできたことが、病院以外のところでも役に立てている。リハビリという治療行為をしてきたところから、高齢者を通して予防という世界に足を踏み入れ、今では働く人たちの役にも立てるようになりました。
働く人たちの高齢化も問題になってきていますから、機能低下予防などで経験したことも、さらに役立ってくると思います。幅広く健康知識を持っているということが、これからさらに重宝されていくのではないでしょうか。
――活動のなかで現在力を入れていることを教えてください。
力を入れていきたいのは、私自身の『講師力』を上げることです。私が講師として前に立つ企業研修というものは、「受けなさい」と言われて来ている方々がほとんど。場合によっては、研修が終わって一歩外に出たら内容を忘れてしまう可能性が高いんです。
でも私たち講師の仕事は、気づきを与えて「やってみよう」と思わせ、行動を起こさせることがゴール。研修内容に興味がないのに来ている人たちを、行動するところまで持っていくためには、高い『講師力』が重要になってきます。
これはリハビリテーションとも共通している部分です。病気で後ろ向きな人たちを、いかに自分で行動して改善していこうと思わせるか。それには作業療法士側、講師側の関わりというのが、とても大切なんですよね。
だから今は、自分から「やってみよう」と思わせられる研修設計やプレゼンテーション力という部分を、磨いているところです。
――講師として行動を起こさせるための取り組みの中で、効果を感じた方法は?
脳の仕組みから考えると、人間が行動を起こすための思考には2パターンあります。「これをしないとまずい」と危機感を感じるか、「やってみたい」とワクワクするのか。また、人間の脳は未来の価値よりも今の価値を優先するものなので、いかに「今の価値」に当てはめて話してあげるかというのも重要です。
事前のヒアリングやその場の雰囲気から判断して、危機感を持たせるか、ワクワクを感じさせるかのどちらかに当てはめながら、「今の価値」が感じられるように話していく。すると行動を起こす確率は上がります。研修後のアンケートなどでも、実際に行動したという回答を多くいただけますね。
――今後、『脳チング』講師の育成などは考えていますか?
まずは、これまでに経験してきたものを、少しずつ整理しようと思い、書籍を出したいと思っています。デイサービスでの離職防止に奮闘した1年間のストーリーを軸に、脳科学的な視点からどんな取り組みをしてきたかというところをまとめる予定です。
その後、書籍の内容を元に、まずは作業療法士、理学療法士などベースの知識を持った人たちに声をかけて、『脳チング』を伝えていきたいです。それが同業の方たちのパラレルキャリア、新しい道の一例になればいいなと思っています。
私は「世の中からネガティブな離職をゼロにする」というミッションを掲げているんです。一緒に学びたいと言ってくれる方が増えれば、カリキュラムも構築していけるでしょうし、育成というより二人三脚で学んでいけるんじゃないかなと思っています。一緒に働いてくれる人が増えれば増えるほど、私のミッションに近づくと思うので、どんどん仲間を増やしていきたいです。
人を引き込む力と伝える力があれば
学んできたことで人々をサポートできる
――これからヘルスケア分野のお仕事を目指す人が学んでおくといいことは?
第一に必要なのは、人を引き込む力だと思います。知識は後からついてきますが、人を引き込めなければ伝えられないんです。
医療・介護関係の場合、そういう部分を学んでくる機会がなかったので、多くの人を巻き込んだり、伝えたりするのが苦手な人も多いと思います。逆に、例えばフィットネスインストラクターの方などは、人を引き込む力がとても高い。私も講師の仕事を通してインストラクターの人たちと関わるようになり、その「人を引き込む力」というのを脳の仕組みから考えてみました。
人を魅了したり、楽しませたりするという部分を考えたとき、ベースにしたのは発達心理学でした。子どもが大人になるまでに、どんなふうに相手を信頼するか。そこをベースに考えていくと、人を引き込んだり、魅力的に感じてもらうことができるんです。
まずは「この人の話を聞いてもいい」と思えるファーストインパクト。姿勢や表情、声などが与える印象です。そういった部分は急にできるものではないので、常日頃から意識して癖づけておかないといけません。
――魅力的に感じてもらえるような意識が大切なんですね。
次に、伝える力も重要です。難しい話をわかりやすく、わかりやすい話を面白く、相手の視点に立って伝えること。また「相手のことを知る」というのもとても大切です。相手が知りたいこととズレたことをしても伝わりません。私も研修前のヒアリングはとても重視しています。何を知りたくて、何を持ち帰りたいのかを明確にし、相手が知りたいことにフォーカスして、感情が動く構成をする。そこを意識することで、伝わり方はグッと変わると思います。
そういった伝わる力を身につけたいという人が、誰でもできるような話の構成の仕方をまとめたものも作りました。BtoCの研修でお伝えしたり、『脳チング』のカリキュラムにも入れたいと思っています。学んでみたいという方がいれば、是非ご連絡いただけたら嬉しいです。
――最後に、ヘルスケアのお仕事を目指す方へアドバイスをお願いします。
私がそうだったからというのはありますが、やっぱり脳のことを知って欲しいです。すごく面白いですし、受講者さんや利用者さんに脳の話をすると説得力も上がります。体のことや健康のこと、食事、睡眠など、ヘルスケアにまつわることはいろいろありますが、すべて管轄しているのが脳ですから、興味を持つと世界が広がっていくんじゃないでしょうか。私も元々は徒手治療をメインに勉強してきたんですが、認知症予防などに関わるタイミングでしっかり脳の勉強をし直したことで世界が広がりましたから。
脳の勉強をするときは、まずは『脳にいい○○~』のような一般書から読んでみて、興味を持った部分を参考書などで深掘りしてみるのがおすすめです。一般の人たちが興味を持つ前提で書かれた本から入っていった方が、自分が伝える側になったときにも伝えやすいし、ワクワクした気持ちで学べると思いますよ。
取材・文/山本二季