「障がい」ではなく「個人」にフォーカスする!【介護リレーインタビューvol.66/ヘアサロン スイッチ オーナー 野村貴子さん】#2
介護業界に携わる皆さまのインタビューを通して業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
ヘアサロン スイッチ
オーナー 野村貴子さん
1997年に理容師免許を取得。三鷹の住宅街にある理容室でインターン時代を過ごし、その後、お茶の水にある老舗の理容室で腕を磨く。川崎で40年間サロンを営んできた前経営者から店舗を譲り受け、2002年に独立開業し、現在に至る。
お母さまのアドバイスを受けて理容師になった野村さん。前編では老舗の理容室にお勤めの時に前経営者のご子息からスカウトされ、店を引き継ぐことになったいきさつをご紹介しました。
後編では、発達障がいのお子さんを受け入れるようになったきっかけ、どのような心構えで接しているのか、この仕事に就こうと考えている方へのアドバイスを語っていただきます。
障がいを知れば知るほど、ためになる発見ばかり!?

小学生の頃からスポーツ万能で、20代のころは水上スポーツのウェイクボードにハマり、30歳で全日本選手権で優勝した経験も!
――野村さんがお店で発達障がいの方を受け入れるようになったきっかけは?
もともと前経営者のお客さまに発達障がいをお持ちの方がいらして、「私でも大丈夫なのか」と不安に思いながらも、その方に受け入れてもらえたのがきっかけです。
どういったことに注意をしたらいいのか、もっと勉強したくて情報を集めるようになりました。
――障がいを持っている方をお断りしているお店もあります。
小学生のとき、発達障がいを持っているクラスメイトがいたんです。そのおかげで距離の縮め方とかに慣れていたせいもあります。その子だけじゃなく、学校の近くに養護学校があって通学路ですれ違うこともあったし、同じ電車に乗り合わせることもありました。身近に障がいのある方たちがいたので、特別に身構えることはありませんでした。
――情報を集めて、いかがでしたか?
深掘りしていくと、さまざまな感性があることが分かりましたし、ふれ合うことで、たくさんの気づきをもらえました。
――気づきというと?
例えば、髪を切るとき引っ張られて「痛い」と感じることはありませんか? 一般のお客さまだと、「『痛い』と言って雰囲気が悪くなるより、ガマンしたほうがいい」って思う方がほとんどですよね。しかし彼らは違う。痛ければ素直に「痛い! イヤだ!」って反応してくれるんです。その結果、ハサミの切れ味が悪いことに気づかせてくれるので、他のお客さまのためになります。発達さんに対して「ご意見番になってくれて、ありがとう!」という気持ちしかないです。
――ハサミの切れ味が分かってしまうんですね。
ほかにも切った髪が顔にかかってチクチクするのも嫌がります。大人だとガマンしがちですが彼らは本気で嫌がりますので、毛が残らないように細心の注意を払います。
――感度が高いというか、敏感な方が多いですよね。
でも、こういうことって発達さんに限らず、一般のお客さまに対しても徹底して注意すべきことだと思っています。自分たちだってイヤな思いをしたら他のお店へ行きますよね。だから、どなたに対しても切れ味最高のハサミを使いたいので、月に一度はメンテナンスをしています。
障がい者は「可哀想な人」ではない!

「政治と野球の話はしない」が常識とされていますが、ここでダブーは一切なし。何でも自由に話ができる雰囲気を大切にしているそう。
――障がい者から料金をとることに抵抗を感じる人がいます。
障がい者=可哀想な人ではありません。自分たちとまったく変わらない。ただ成長のペースがゆっくりなだけなんです。だから平等というか、分け隔てなく料金をいただいています。その分、こちらもプロとしてきっちり仕事をします。逆に料金をいただかないのは差別だと思うんです。
――発達障がいのお子さんに対して、どんな風に接していますか?
まず心が整うまで待ちます。ipadを見始めたり遊び始めたら、親御さんとどんな髪型にしたいのかを相談します。
――障がいの種類とか、苦手なこととかは聞かないんですか?
発達障がいの方は、先に何をするのかを伝えた方がいい特性があります。これを念頭におきつつ、日常的に何が不得意なのかを伺います。でも、もっとも理解すべきは個性だと考えています。なので、まず私と店になれてもらうことから始めて、次にどのような声がけをしたら良いか、どんな道具を使えば髪を切れるのかを見極めて作業を進めていきます。
発達さんによって店に慣れるまで時間がかかる場合もあって、カットまで進めないこともありますが、ここからがスタートです。
――様子を見ることが大事なんですね。
一般のお客さまに対しても同じですよね。天気の話とか世間話をして、会話が弾まないようなら「今日は話をしたくないんだな」って伝わるものです。
基本、ここでは「やっちゃダメ」なことはありません。好きな音楽や動画を爆音でかけてもいいし、霧吹きを吹きかけてもいい(笑)。彼らにとって居心地のいい場所になってくれれば、と思っています。
――爆音が心地いいこともあるんですね。
心地いいとか好きな場所だと悪いことはしないし、「また来たい」って思うじゃないですか。だから、すごくお行儀がいい(笑)。カットが終わって「終了です」って言うと、ipadのボタンをポチッと押して片付けてくれるんです。その姿が可愛らしい! その様子を見て、親御さんたちも驚かれますよ。「ちゃんとお片付けしてる!」って。
――野村さんはすべてを受け入れてくれるから、居心地がいいんでしょうね。
性格が「合う」か「合わない」も大事だと思います。お客さまから「うちの子どももお願いしたい」と言われることがあります。私とお子さんの相性が合えばお引き受けしています。自分たちがお店を選ぶときも同じことですよね。
――最後に、野村さんのように発達障がいのお子さんを受け入れたい方へのアドバイスをお願いします。
障がいを色眼鏡で見ないことです。私たちも「生きづらさ」を感じることがありますよね。発達障がいの方たちは、私たちより過敏に「生きづらい」とか「居心地が悪い」と感じているだけです。
それから、ボランティア精神では続きません。他のお客さまと同じように、ちゃんとお金をいただくこと。「身を削って人助けをしよう」とすると、手を出せない方も多いと思います。カットという技術を使って、障がいのある方たちのお手伝いをするお店が増えていってほしいですね。
野村さん流! 発達障がいヘアカットの心得三か条
1.「ダメ」をなくして、居心地のいい場所をつくる。
2.様子を見ながら、嫌がることはやらない。
3.身を削るボランティアではなく、きちんと代金を受け取る。
撮影/森 浩司












