不安があれば即、練習! 小さな壁をなくすのが大事【介護リレーインタビューvol.48/サービス提供責任者 峯苫智子さん】#2
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
フローラ二子玉川 サービス提供責任者の峯苫智子さん
平成30年よりフローラ二子玉川の登録ヘルパーとして勤務。令和2年に同事業所の社員となり、訪問介護をこなしながらサービス提供責任者として勤務している。
パートナーが目の病を患ったことを機に福祉に目覚めた峯苫さん。前編では登録ヘルパーから社員になったいきさつなどをご紹介しました。
後編では、サービス提供責任者となって心がけていること、介護士を目指す人へのアドバイスを伺います。
ヘルパーの不安を取り除くために研修や勉強会は必須
――峯苫さんが訪問介護のプロとして仕事が出来るようになるまで、難しかったことはありますか?
コミュニケーションの難しさは今でも感じます。求められているサービスと必要なサービスは違いますし、利用者さんの思いを読み違えることもあります。
特に初めて利用なさる方は、何が出来て何が出来ないのかが分からないケースがほとんど。きちんと説明しなければなりません。
利用者さんが遠慮して、やって欲しいことを言わないこともあります。これは絶対に避けなければいけないことですよね。
――コミュニケーションが難しいと「諦める」という選択もありますよね。
私はひたすら寄り添います。利用者さんの言うことをオウム返しして、「あなたのことを受け入れていますよ」という態度を取るようにしています。
でも、それだけでは治まらないこともあって、自分の感情を抑えなくちゃいけないことも。利用者さんには、私たちの気持ちは関係ないですからね。私は「将来の自分だな」と思って接するようにしています。
――訪問介護をやっていて、緊張するケースはありますか?
立位が不安定な方の介護や入浴の見守りは緊張します。デイサービスでも入浴は出来ますが、「自宅のお風呂に入りたい」という方もいらっしゃいます。何ごとも起こらないように見守ってほしい、というご依頼も多いんですよ。
ある方の入浴を見守っていたとき、ご自宅で飼っていた大型犬がじゃれてご主人に飛びかかってしまったんです。床が濡れていますから滑ってしまって。慌てて救急車を呼びました。幸い、深刻な事態にはなりませんでしたが、肝が冷えて心臓が止まるかと思いました。
――今も社内外の研修を積極的に受けていらっしゃるんですか?
常にアンテナを張って、新しい介護の情報をキャッチするようにしています。世田谷区には研修センターがあって、「〇月〇日、こういう研修があります」という連絡が入ってくるんです。必要なものは参加しています。
ヘルパーさんから「着替えが難しい方の介助をどうすればいいか分からない」とか、「車椅子の移動が分からない」とか、質問が出たら、「じゃあ、やってみようか」ってその都度、練習します。その方の身体の状態や家の作りなど、個別のケースに合わせて練習しています。訪問介護は利用者さんによって違うので、個別の相談に乗ることは重要なんですよ。
――事業所の中でコミュニケーションがきちんと取れていないと、相談しにくいですよね。
ベテランのヘルパーさんだったら自分たちの経験で解決できることがほとんど。それでも個別になると小さな壁が出てくるんですよね。研修とまではいかなくても、「このケースならこうしよう」とか、一緒に考えるようにしています。
――ヘルパーの方はちょくちょく事業所にいらっしゃるんですか?
月に1~2回ですね。なので、いらっしゃったときには「どんな感じですか?」と声をかけて様子を聞くようにしています。
「もう、聞いてよ~」って、話してくださるヘルパーさんもいます(笑)。グチもストレスも、みんな吐き出してもらってすっきりした気持ちになってもらえればそれでいいんです。
ストレスを抱えすぎている方には、「辛かったら私が代わりますから」と提案することもあります。いったん距離を置いてみて、うまくいきそうなら元の業務に戻るし、改善すべきところがあれば見直してもらいます。
――峯苫さんをサポートしてきた方たちの分を、今度は峯苫さんが返しているんですね。
ヘルパーさんたちのストレスをできる限り減らしたい。「いつでもサポートしますよ」というスタンスでいます。困ったときに呼べば、いつでも駆けつけてくれる…と思ってもらえればいいですね。
私だって、困ったときにはヘルパーさんたちに「助けてもらっていいですか」って頼っています(笑)。お互いさまなんです。
「イヤだよね」と思いやる気持ちならストレスは溜まらない
――-峯苫さんはストレスを吐き出す方ですか?
私は社内では出さない方ですね。家で主人と映画を観たり、お笑い系のYouTubeを観たりして発散しています。
――どんなときにストレスを感じますか?
何かをされて怒る…というよりは、自分が思うように動けなくて落ち込むことがほとんどです。
最初のうちは、認知症の方に「あんたなんか嫌い」って言われて凹んでいましたけど(笑)。そういう人は私だけじゃなく、他の人にも言っているんですよね。だから仲間同士で慰め合ったりしました。
――怒りを感じないんですか?
そういうことでは、感じないですね。着替えも排泄介助も、本来なら自分でやりたいはずのことを私たちがやっている。だから「イヤだよね。ごめんね」って思いながらやっています。誰も認知症になりたくてなったわけではありません。主人の目にしても、好きで全盲になったわけではありません。たとえ好きなことをやって目が見えなくなったにしても、見えなくなることを望んだわけではありません。本人が望んだ状態ではないことを思えば、大概のことは受け入れられます。
肉体的・精神的にキツいけれどその分やりがいは無限大!
――峯苫さんがこの仕事に就いて、嬉しかったことは何ですか?
料理が美味しいとおっしゃってくださったり、掃除をしてキレイになったことを喜ばれたり。訪問して笑顔を見せてくださると、本当に嬉しいですね。
さっきお話しした「あんたなんか嫌い」って言った認知症の方から、帰るときに「また来てね」なんて声をかけられると嬉しくなっちゃう(笑)。まさにアメとムチですよね。
――このお仕事に就いて、良かったのはどんなことですか?
介護を通して、老いへの理解が深められたことですね。自分も歳を取ると、こういう風になるのか…と勉強になります。
――お母さまの介護を考えて介護福祉士になられましたが、お母さまのお世話は?
母の介護は出来ませんでした。今は主人の両親と一緒に住んでいますが、二人とも90才になりますが、とても元気で介護はまだまだ必要ありません。自分のことは自分で出来るんですよ。
私はもともとおじいちゃん、おばあちゃんが好きなんです。特に頑張っているお年寄りが大好き。歳を取ると出来なくなることは増えますが、それでも掃除でも洗濯でも、できることをやっている姿がいいですね。
――訪問介護を目指している方にアドバイスをお願いします。
介護の分野は人手不足ではありますが、訪問介護は時間が自由で融通が利くし、休みもしっかり取れます。それに感謝されるなどやりがいはあります。
現場は日々かわっていくので、専門知識を含めて新しい介護情報を常に取り入れることも必要です。自分を大切にしつつ、介護の勉強をしてください。
峯苫さん流! 訪問介護の心得三か条
1.日々のケアで「気づき・考え・行動」を意識すること。
2.個別に状況が変わるので、不安な点は相談して解消しておくこと。
3.アンテナを張って、常に新しい介護情報をキャッチすること。
気づいたことを社内で共有し、みんなで考えたことを行動に移すことを大切にしている峯苫さん。この考え方は訪問看護だけでなく、他の介護の現場でも役立ちそうです。
撮影/森 浩司