「大好きな弟のためにできること」から介護の道に【介護リレーインタビューvol.58/社会福祉士 横田康太さん】#1
介護業界に携わる皆様のインタビューを通して、業界の魅力、多様な働き方をご紹介する本連載。
お話を伺ったのは…
介護老人福祉施設 大樹の里
社会福祉士
横田康太さん
日本社会事業大学社会福祉学部福祉計画学科卒業後、知的障がい者入所施設に約6年間勤務する。平成30年、社会福祉法人 緑樹会に転職し、介護老人福祉施設 ラペ日野で介護リーダーを務める。令和6年には同法人内の大樹の里に介護係長として赴任し、現在に至る。
前編では、横田さんがこの業界に進もうと決意したいきさつ、大学を卒業して知的障がい者入所施設で勤務する中で感じた葛藤、知的障がいの入所施設から介護老人福祉施設へ転職を決意した理由についてお話を伺います。
「弟のために何ができるか」を考えて進路を模索

横田さんの9歳違いの弟さんは2~3歳のとき「知的障がいの疑いがある」と診断されたとか。
――横田さんがこの業界に進もうと決意なさったのは、どんな理由から?
9歳下の弟がいまして、私が小学校6年生のときに「知的障がいの疑いあり」と診断されたんです。弟のことが大好きなので、何か彼のためにできることはないか…とずっと考えていました。弟をサポートする大人たちを見て、「こういうことに携わる人がいるんだ!」というのを知って、自分も将来は福祉の道に進もうと決めました。
――弟さん思いなんですね。
福祉の道に進むことを決めましたが、具体的な道筋をなかなか描けませんでした。
――どういうことですか?
例えば祖父母の介護が必要で日常的に介護をやってきた人だったら、専門学校なり大学なりに進んで介護福祉について学べば良い。でも、知的障がいの方をサポートするには何を学んでどんな資格を取れば良いのか、具体的な道筋が見えませんでした。
――確かにお年寄りの介護に比べると情報量が少ないかもしれません。
小学6年生で弟の障がいのことを知ってから、ずっと知的障がい者を助ける仕事に就きたいと思っていながら、進路を描けない状態が続きました。
――それで日本社会事業大学に進学したんですね。
まずは福祉のことを全般的に学んで、それから考えようと思いました。卒業と同時に社会福祉士の受験資格をもらえるのも魅力でした。ただ、大学で勉強しながら社会福祉士っていうものが、実際に社会でどう活躍しているのか、何の専門職なのかが見えなかったところも正直、あります(笑)。
――在学中はどんなことを?
東京都内にある多摩障がい者スポーツセンターから、私たちの大学に教えに来てくださっている先生がいました。その先生の紹介で1年生のときからスポーツセンターでアルバイトをしたんです。その施設では児童から高齢者まで、知的障がい、身体障がい、内部障がいと年齢も障がいの種類も幅広い方々が利用していました。
――いろいろな方がいらしたんですね。
身体障がいの方がリハビリをしたり、パラリンピックでメダルを取った方がすぐ近くで練習したりしていたんですよ。私はそこでアルバイトをしながら、障がい者スポーツ指導員の資格を取りました。
――いろいろな障がいの方と接して、何か変わりましたか?
「知的障がい者支援について学びたい」という気持ちが強くなりました。それで卒業後は知的障がい者が入所する施設で働くことに決めました。
知的障がい者が高齢になったら…? その答えを模索する日々

知的障がい者が入所する施設に勤務し始めて、やりたいことが明確に見えてきたとか。
――横田さんが最初に勤めた、知的障がい者入所施設はどんな施設だったんですか?
自宅での生活が難しい方が入所していました。強迫性の障がいだったり、ちょっとした刺激で暴れてしまう方だったり、重度の方が多かったですね。
――それは大変でしたね。
ケガもトラブルも絶えず…という状態でした(笑)。
――そんな中で6年間もお勤めできたのは、どういう風にモチベーションを保っていたんですか?
知的障がい者を支援するには、細かなルールが必要なんです。例えば、「この方にはこういう声かけをしなくちゃいけない」とか「あの人にはこういうルールがあるから守らないといけない」とか、非常に多岐にわたる対応が求められました。最初の1~2年は、こうしたルールを覚えるのに必死でした。
――入所者ひとりひとりに合わせたルールを覚えるのは大変!
3~4年目になると新人指導にあたりながら、施設全体で入所者をサポートするにはどうするかを考えるようになります。これがモチベーションになっていたんだと思います。
――入所者の個性が分かると、仕事にもゆとりが生まれますね。
最後の5~6年目で、ふと「知的障がい者が高齢になったとき、どんな支援をすれば生活の質を上げられるんだろう」と考えるようになったんです。
若くて働ける方には就労支援をして社会に出て行くための事業も力を入れていました。「この方たちが高齢になったら?」と考えたとき、選択肢があまりないんですよね。
――なるほど。それで転職を決意なさったんですね。
今のご時世、少子高齢化と言われているなかで、「高齢者支援のことを知らないままでいいのか」と考えるようになりました。私がここで高齢者支援を学ぶことで、障がいを持った高齢者の助けになれるかもと思っています。
――前向きな転職ですね。
もっともっと学びたいという気持ちでした。ただ、前の職場で入所者の就労支援を始めたところだったので、引き継ぎとかは大変でした(笑)。
弟さんの助けになりたくて福祉の道を歩み始めた横田さん。念願叶って知的障がい者が入所する施設で働き始めましたが、次なる課題が見えてきたようです。
後編では、介護老人福祉施設に転職を決めるまでのいきさつ、社会福祉士として勤務する悩み、仕事で辛いと感じること、これからの夢について伺います。
撮影/森 浩司