その人らしく生活できるお手伝いがしたくて 介護リレーインタビューVol.6【作業療法士 野口貴央さん】#1
介護業界にはどのような職種があるのか、またその仕事内容を具体的にご紹介すべく、実際に介護の現場で働く方にインタビューする本連載。
介護業界に必要不可欠なリハビリテーション職種の一つが作業療法士。「病院と自宅の中間施設」という位置づけで、在宅復帰を目指してリハビリに力を入れている介護老人保健施設で働く作業療法士を今回ご紹介。お話を伺ったのは、リハビリ専門職が多く在籍している「プラチナ・ヴィラ 小平(ツツイグループ)」に勤務する野口貴央さん。
前編では、作業療法士の仕事内容とやりがい、後編では、辛かった経験や作業療法士としての目標を伺います。作業療法士は日常生活をスムーズに送るためのリハビリを行いますが、野口さんにとっても基本となるのが「利用者様の生活にとことん向き合うこと」。おだやかな雰囲気と聞き取りやすいゆったりとした口調で丁寧に教えてくださいました。
《プロフィール》
野口貴央さん(29歳)…大学で作業療法学科を専攻し作業療法士の資格を取得。卒業後は病院に勤めたのち、プラチナ・ヴィラ小平に入社。現在7年目。
作業療法士に就くまで
地域のリハビリに携わりたいと思った
――介護業界を目指されたきっかけを教えてください。
実は学生の頃から人と関わる仕事を目指していました。高齢化社会と言われている中で、僕の地元でもシニアの方の割合が大きく、それをひしひしと実感していたんです。だから、シニアの方と接しているうちに、自然に介護業界を視野に入れるようになりましたね。高校卒業後は迷わず福祉系大学の作業療法科に入って国家資格を取りました。
――数ある施設の中で介護老人保健施設(以下老健)を選んだ理由は何ですか?
大学卒業後は病院に勤務していたのですが、その頃から地域でのリハビリをしていきたいなという気持ちはありました。老健には、在宅復帰を目的にリハビリに通う方も、自宅での介護が難しくなって施設で生活される方もいらっしゃいます。前者の場合は目標に向かってリハビリをするのでやりがいは十分にあるだろうし、後者の場合も、施設でいかにその方らしく生活できるかを考えてリハビリを行い、それぞれご本人が喜んでいる姿を間近で見守ることができるのが魅力的だと感じていました。
仕事内容&作業療法士の魅力
リハビリが生活の一部になっていると嬉しい
《ある一日の仕事の流れ》
――野口さんの仕事内容を教えてください。
基本的にはお一人ずつのリハビリメニューがありますが、ご本人からの「これができない」「こういうことをやりたい」などの要望や質問を受けながら行っています。僕の場合は一日に平均15~18名をリハビリさせていただいています。リハビリ時間は一人あたり一回20分。毎回本当にあっという間ですよ。一人でリハビリをした方が効率が良いという方ももちろんいますし、逆に一人だと不安だとおっしゃる方もいます。施設のお友達というか、知っている人と一緒にリハビリした方が安心という場合は、複数人でリハビリをすることだってあります。利用者様に合わせて一番良いスタイルで行うようにしているんです。
また、在宅復帰をされる方のためにはご自宅でも安全に過ごしていただくことを前提にどのようなリハビリが必要なのか、どんな道具が必要なのかをご提案させていただきます。ご自宅に戻る前に、一度利用者様のご自宅に伺うこともあります。手すりがついているか確認したり、危険なものがあれば撤去した方が良いですねなどとアドバイスしているんです。
――介護スタッフとの連携も大事ですよね。
入所されている利用者様の普段の様子を知っているのはやっぱり介護士ですからね。リハビリって一日の中の限られた時間の中で行っているものなので、例え訓練して上手く歩けるようになったとしても、実際に生活してみるとなかなかできなかったり、夕方になると動きが変わっていたり…なんてことも。一日を通すとどうしても難しくなるんですよね。だから、担当の介護士に気づいたことを教えてもらい、その報告を受けてまたリハビリのやり方を考え直す、という繰り返しですね。
利用者様の施設での生活スタイルを把握するためには介護士との連携は不可欠なんです。あとは、「介護するときにここを注意してほしい」「こういうときは危ないから手伝ってあげてほしい」ということなどを介護士に伝えることも大事になってきますね。
――在宅復帰を目指す場合は、どのようにスケジュールを組むのですか?
基本的には3か月を区切りとして考えていますが、リハビリを重ねていくと目標や目的ってやっぱり変わってくるんですよね。だから、3か月後の生活として「ここまでできるようになれば生活しやすくなるかな」ということをイメージするくらいにとどめています。
――同じリハビリ職種として理学療法士がいますが、作業療法士と異なるのはどういうところですか?
理学療法士は、歩く、起き上がるなどの基本的な動作をみる人です。作業療法士はもっと生活に寄り添ったというか、例えばトイレができない、お風呂に入れない、着替えができない、食事ができないなどに対するリハビリを行います。
――どんなときにこの仕事をやっていて良かったと感じますか?
施設に来られる方って最初はとても不安そうな顔をされていることがほとんどなんです。とくに認知症の方は何故ここに来たのか分からないということもあるんです。そんな状態でリハビリをしましょうと連れて行ったところでただ怖いだけですよね。
だから、信頼関係を築けるようにリハビリの時間以外でも話しかけますし、顔を覚えてもらえるようにコミュニケーションを密に取るんです。そうすると、次第に「次はリハビリね!」とか「野口さん待ってたわ~」って利用者様から声をかけてくれるようになるんです。リハビリがご本人の生活の一部に含まれているんだなと感じると嬉しいですよね。
もちろん、一人でトイレができるようになったとか、食事を取れるようになったとか、生活が少しでも改善されている様子が見られたときも最高ですけどね。
――当たり前のようにリハビリに通ってもらえると嬉しいですね。
そうなんです! リハビリに積極的に取り組むとまではいかずとも、僕の顔を知っているから安心するという程度でもいいんです。不安なくリハビリに通えるようになってもらえれば、毎日積み重ねてきた意味はあったのかなと思いますね。
「その人らしく生活できるかを考えたい」という想いで病院から施設に移った野口さん。施設内でのリハビリだけでなく、利用者様のご自宅に伺い、在宅復帰後の住環境まで確認することも野口さんの仕事の一つなのですね。
野口さんのお話の中に何度も出てきた「生活」という言葉。一回20分という限られた、また利用者様の生活から切り離された空間の中で、いかに利用者の生活スタイルをイメージするか。野口さんはいつもそのようなことを大切にされているのだなと感じました。次回は、利用者様とのエピソードや作業療法士としての目標をお聞きしました。
▽後編はこちら▽
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取材・文/佐藤咲稀(レ・キャトル)
撮影/山﨑裕一
Store Data
プラチナ・ヴィラ 小平
住所:東京都小平市鈴木町1-85-1
電話:042-349-3505
URL:http://www.platinum-villa.jp/kodaira.html