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特集・コラム 2020-09-14

義肢装具士になるための方法とは? 仕事内容や必要な能力を分かりやすく解説

病気やけがなどにより、体の一部が欠損した人や機能の一部を失った人が使用する福祉用具を義肢もしくは装具と言います。義肢装具士はこの義肢や装具を製作し、適合するまでの一連の仕事を行っています。ここでは、義肢装具士になるための方法を分かりやすく解説します。

義肢装具士になるためのルート

義肢装具士は国家資格となっているため、義肢装具士養成校にて所定の科目を学び国家試験受験資格を得なければなりません。国家試験受験資格を得るためには、次の3つのルートがあります。

1.高校卒業後3年以上義肢装具士養成学校にて学ぶ
2.大学等で1年以上、高等専門学校で4年以上、所定科目を修めたあと、2年以上義肢装具士養成校にて学ぶ
3.厚生労働省の技能検定「義肢・装具制作技能士」を取得し1年以上義肢装具士養成校にて学ぶ

義肢装具士養成校は全国に10校あり、いずれも1を対象としています。そのため、2もしくは3の要件を満たしている場合でも、3年以上の義肢装具士養成学校で学ばなければなりません。つまり、現実的には大学や高等学校で所定の科目を修めていても、義肢・装具制作技能士の資格を持っていても3年は養成所に通わなければならないのが現状です。

義肢装具士養成学校はどんなところ?

義肢装具士養成学校のうち、国立は1校のみで募集定員も10名程度と大変狭き門となっています。義肢装具士を目指す人の多くは、私立大学もしくは私立の養成校で学び、国家試験受験資格を取得しています。

勉強の内容は各学校でさまざまですが、基本的には義肢装具士に必要な知識と技術を修めるための授業と実習があります。ある学校ではモーションキャプチャを活用したデータをもとに、調整方法や応用技術を学ぶ授業があります。

国家試験の内容と合格率

国家試験は毎年1回、東京で行われます。試験では、臨床医学大要、義肢装具材料学、義肢装具工学などの問題が出題されます。

合格率は例年80~90%で、2020年2月に行われた試験の合格率は78.8%でした。このことから、義肢装具士は養成校でしっかりと学んでいれば、多くの人が合格できる資格と言えるでしょう。

義肢装具士とはどんな職業か?

義肢装具士とは、体の一部を失った人が使用する義肢や体の機能の一部を失った人が使用する装具を製作する医療専門職のことを言います。医師の指示に基づき、理学療法士や作業療法士などの医療職と協力しながら、患者さんに合わせた義肢や装具を製作し、適合までを行うのが義肢装具士の仕事です。義肢装具士の資格を持っている人だけが、義肢や装具の採型や適合、調整を行うことができます。

人の体は複雑にできており、義肢や装具を必要としている状況も違います。患者さんに合わせた義肢や装具を作るためには、さまざまな知識と高い技術力が必要であることから、義肢装具士は国家資格となっています。

義肢装具士は、義肢や装具を使うことにより生活の質を向上することで、自立した生活をサポートします。そのため、患者さんの状態をよく観察し、どのような義肢や装具を必要としているかを見極めなくてはなりません。その上で、機能的かつ負担の少ない義肢や装具を作ることが、義肢装具士には求められています。

義肢と装具の役割

義肢とは、事故や病気などにより手足の一部を失った場合に、もとの手足の形や機能を復元するため装着・使用するための人工的な手足のことを言います。手につけるものを「義手」、足につけるものが「義足」となります。

一方、装具とは、事故や病気などにより手足のまひや変形が起きた場合や、手足や体幹の機能が一部失われた場合に、機能障害を軽減する目的で使用する補助器具のことを言います。装具には、治療の手段として用いられる治療的装具と、障害の症状が固定したあとに日常生活を送るために使用する更生用装具の2種類があります。

義肢装具士に必要とされる能力・知識

義肢装具士に必要とされる能力や知識には、主に次の6つがあります。

コミュニケーション能力

義肢や装具を製作するためには、患者さんの患部の状態や症状の確認だけでなく、使用することでどのような生活を送りたいのかまで、しっかりと聞き取る必要があります。義肢や装具を必要とする患者さんの多くは、突然起こった体の変化にショックを受けている人も少なくありません。病状によっては、言葉をうまく話せない人や思いがうまく伝わらない人もいるでしょう。そのため、義肢装具士には患者さんの思いに寄り添って話を聞き取る傾聴力や読解力が必要となります。

また、義肢装具士は患者さんだけでなく、医師やリハビリスタッフとも密に連携をとらなければなりません。医療専門職と直接対応するために必要な説明力や指導力も、義肢装具士には必要と言えるでしょう。

粘り強さと根気強さ

義肢や装具が完成するまでには、患者さんや医療スタッフと何回もやり取りをして、何度も微調整を行います。数回のやり取りで患者さんの求める義肢や装具ができあがることはありません。納得いくものを作り出すまでには時間と労力を必要です。そのため、義肢装具士は、粘り強さや根気がなければ続かない仕事と言えるでしょう。

学び続けようとする心

義肢装具制作の世界は、毎年のように新しい技術が開発される分野です。働きながら経験を積むだけでなく、新しい知識や技術を自ら取り入れてアップデートしていかなければなりません。学び続けようとする心を持ち、日々アンテナを張っておくことが大切です。

創意工夫し柔軟に対応する力

義肢や装具が必要となる背景や体型は一人ひとり違います。仮に同じ体型の人が同じ部位に義肢や装具を必要としていても、同じものが合うとは限りません。そのため、義肢や装具は基本的にオーダーメイドとなっています。患者さん一人ひとりに合わせた装具を作るためには、学んだ知識や技術だけでは対応できない場面も多いでしょう。患者さんが納得のいく義肢や装具を作るためには、自ら創意工夫することや柔軟に対応する力が求められます。

もの作りが好きという思い

義肢装具士は、採寸から適合までの多くを手作業で行います。工房では、金属やプラスチック、皮革そして繊維材料などを大型の工作機械や手工具で加工し、義肢や装具を作っています。患者さん一人ひとりに合わせた義肢や装具を作るため、数ミリ単位の調整が必要になることもあるでしょう。丁寧に確実に仕上げるためには、物作りが好きだという思いが必要です。

医療知識や人体構造に関わる知識

義肢や装具は、患者さんの体に装着して使用する器具です。そのため、安全かつ負担がかからない義肢や装具を作るための、医療知識や人体構造に関わる知識を身に付けておかなければなりません。また、医師や理学療法士、作業療法士などのリハビリ専門職とも連携する際にも、医療知識や人体構造の知識は必須です。

義肢装具士の労働条件と仕事内容

厚生労働省の職業情報提供サイト(日本版O-NET)によると、義肢装具士として活躍している人は全国に154,170人となっています。義肢装具士の多くは義肢装具製作所に所属し、病院や更生相談所などに出向して業務を行っています。病院の義肢装具製作部署やリハビリセンターで活躍する人もいますが、義肢装具士の中では少数です。義肢装具のパーツメーカーや教育機関で働いている人や、障害者スポーツ支援、JICAの青年海外協力隊などの海外支援を行う人もいます。また、義肢装具製作所で経験を積んだあと、独立して自分で製作所を開業する場合もあります。

義肢や装具を製作する際には、締め切りに合わせて休日出勤や残業が発生する場合もあります。

義肢装具士の仕事内容

義肢装具士の主な仕事は、義肢や装具の作成とその修理です。

・義肢や装具の作成

義肢装具士のメインとなる仕事が、義肢や装具の作成です。作成の流れは、以下のようになっています。

1.採寸・採型
義肢や装具を作るためには、まず患者さんの採寸を行います。義肢の場合は、切断部位の骨の形やどこに体重がかかるのかを観察します。装具の場合は、装着部位の採寸を行います。採寸した結果をもとに凹型と凸型のモデルを作成します。装具の場合、一部に既製品化されたパーツを使うことも増えてきています。

2.組立
凹型と凸型モデルを使用して作成された義肢や装具の組立を行います。組立作業は義肢装具士だけでなく、製作専門の技術者が行うことも多く、分業制をとっている製作所もあります。

3.仮合わせ
できあがった義肢や装具を患者さんに実際に装着してもらい、体重のかかり方や患部への負担を確認します。違和感のあるところや具合が悪いところは調整を行います。

4.仕上げ
仮合わせで調整が必要になった部分を仕上げていきます。組立と同様に、製作専門技術者が担当することが多いです。

5.最終適合
仕上げが済んだ義肢や装具を患者さんに装着してもらい、最終適合をします。

義肢や装具の修理

義肢や装具は毎日使うものであるため、使ううちに劣化したり破損したりする場合もあります。また、長く使ううちに体に合わなくなることも考えられます。その場合には、義肢装具士が修理を請け負います。患者さんが生活する上で欠かせない義肢や装具を安全に使用できるよう、製作だけでなく適合、そして修理まで行うのが義肢装具士の役割と言えるでしょう。

おわりに

義肢装具士はほかの医療職に比べて、養成校が少なく従事している人もまだまだ少ない職業です。しかし、これからますます高齢化が進む日本においては、今後さらに義肢装具士の果たす役割は大きくなることが予想されます。また、国は障害者施策の整備や拡充を進めていることもあり、義肢装具士はますます求められる職業となることでしょう。

参考元:
義肢装具士|職業情報提供サイト(日本版O-NET)
義肢装具士情報|テクノエイド協会
保健学専攻義肢装具自立支援学分野|新潟医療福祉大学大学院
義肢装具学科|日本聴能言語福祉学院
学科案内|国立障害者リハビリテーションセンター学院
義肢装具士とは|日本義肢装具士協会
義肢装具士とは|日本義肢装具協会
進路データ|広島国際大学総合リハビリテーション学部
義肢装具について|日本義肢装具士協会
義肢装具士国家試験の施行|厚生労働省
保健医療学部 義肢装具学科|北海道科学大学 北海道科学大学短期大学部

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