セラピストの働き方はもっと自由でいい!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事 Vol.39 corpo e alma 小松ゆり子さん #1】
ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスして、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載『もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事』。
今回ご登場いただくのは、「禊セッション」と称されるオイル・トリートメント「ヴァイタル・タッチセラピー」を提供している『corpo e alma』の小松ゆり子さん。レコード会社の宣伝マンからセラピストに転身した小松さんは、あらゆる施術技術や知識を集め、五感にアプローチする「ヴァイタル・タッチセラピー」を作り上げました。
前編では、そんな小松さんがサロンを開くまでの道のりと、現在のお仕事について詳しくお聞きします。
お話を伺ったのは…
パーソナル・セラピスト
小松ゆり子さん
Touch for World 代表/セラピーサロン『corpo e alma』主宰/日本タッチ協会理事
レコード会社宣伝部に勤務後、セラピストに転身。大手ホテル・スパやクリニック併設メディカル・スパなどでセラピストとしての経験を積む。自然療法の国際総合学院で講師を務める傍ら、エサレンボディワークやストーンセラピーなど様々な手技を学ぶ。2012年『corpo e alma』をオープン。オーダーメイドの施術を行うと共に、ホリスティック&ソマティック・ヘルスケアのプロフェッショナルとしてメディアや企業での講師活動など、幅広く活動中。
Instagram:@yuriko_komatsu
レコード会社宣伝マンからセラピストへ
―小松さんは音楽業界からヘルスケア業界に転身されたそうです。そのきっかけは?
大学卒業後8年間、レコード会社の宣伝マンとして働いていました。不規則で忙しい仕事の中、心身のバランスを崩す人も増えてきて。ちょうど「ストレスが身体に悪い」と言われ始めたころだったので、ストレスケアのために仕事とは関係のない趣味を持とうと思ったんです。そこで、アロマセラピーに興味を持ちました。
最初は、会社のすぐ近くにあるアロマショップで、休憩時間に香りを楽しむ程度でした。そこで店員さんに、「その香りは不安にいいんですよ」と言われて…。当時はまったく体の知識がなかったので、嗅覚が心や体に働きかけるということが、すごく神秘的に感じられたんです。それで「アロマセラピーをもっと知りたい!」と思って、学校にも通うようになりました。
―実際にお仕事にしようと決めた転機は?
アロマの勉強を始めて、何か資格を取りたいなという気持ちになった時に、ちょうど会社で希望退職者の募集があったんです。今退職すると少し多く退職金がもらえる、しかも半年くらいは失業保険も出る…。じゃあその間にアロマの資格を取ろうかなと思って。
音楽業界は業界内での転職も多く、会社を変えながらキャリアを積んでいくことはよくあります。だから私も軽い気持ちで(笑)。そこでアロマの勉強をしておけば、音楽業界に戻ったとしても、将来的にアロマを仕事にできるかも…という感じでしたね。
本気で仕事にしようと思ったのは、その後からです。資格を取る勉強をしていくなかで、心と体のつながりや体の奥深さというものに、すごく惹かれていきました。そこで本格的にキャリアチェンジを考えたんです。
当時アロマを教わっていた先生が、40代でキャリア10年でした。その時、私は31歳。「10年でこんなに面白い話ができて興味深い世界が掘り進められるなら、今キャリアチェンジしたほうがいいんじゃないかな」と。それでセラピストとしての資格を取ったんです。
拠点を持たず自由に働くセラピストとして10年活動
―サロンを開かれるまでの経緯を教えてください。
セラピストの資格を取ってからサロンを開くまでは10年かかっています。
私が資格を取ったころは、日本のホテル・スパの黎明期でした。そんな背景もあり、ホテル・スパに派遣スタッフとして入ることが、トントン拍子で決まったんです。最高のホテルで、最高のメンバーと、最高のお客様でした。すごくラッキーで楽しいと思う反面、だんだん「しっくりこない」と感じ始めている自分がいました。自分でも驚いたんですけど、3カ月で飽きてしまっていたんです。
それまでレコード会社の宣伝部にいて、毎日外を飛び回って、いろんな業務をしていました。だから自分が「毎日同じ場所で同じことをする」というのが苦手だということを知らなかったんですよね。
―でも当時は、サロンにお客様を迎え入れるのが一般的ですよね。
「セラピストの仕事が好き」という気持ちと、「セラピストの業務形態が苦手」という気持ちを、どうやって刷り合わせていくか…それが最初の課題でした。
スパでの1年の任期を終えて、そこから模索が始まりました。エサレン®ボディワークを学びにバリ島に行ったり、ストーンセラピーやクリスタルヒーリングを学んだり。3・4年ほど、貯金を切り崩しながら様々なボディワークや自然療法を国内外で学びました。
そして貯金がなくなったころ、イギリスのアロマの資格を取る学校の講師として働き始めたんです。そして同時進行で、技術が落ちないようにホテルへの出張セラピーや、学校の提携先での施術なども行うようになりました。それで「場所を決めずにセラピーを提供する」というスタイルで、セラピストとして活動するようになったんです。そうしたスタイルを、「ノマディック・ボディワーク」として提唱する活動も始めました。
―拠点を持たずに活動されていたんですね。なぜそこからサロンを持つことに?
そうしているうちに社会的にノマドブームがやってきたんです。「いよいよ場所を決めないというスタイルが、世間に認められる時期が来たな」と感じましたね。セラピストとしてのキャリアは、もうすぐ10年になるころでした。
すると自分の中で、10年のキャリアがあるのにサロンをしていないのが、陸サーファーみたいな気持ちになってしまったんです。同じ場所にいるのが苦手だから避けていたけど、ノマドというスタイルが社会的に認められてきているなかで、拠点を置いてもいいんじゃないかと。それで10年目にして初めて、サロンを開くことにトライしようと思ったんです。
拠点を持ちつつ自由に。自分らしい働き方を続ける
―10年目でのサロンオープンは勇気が必要だったのでは?
そうですね。宣伝マンだったこともあり、広報が上手くいかないとサロン運営は難しいだろうという気持ちがあって、二の足を踏んでいたんです。でも自分の技術も熟してきていましたし、ちょうどSNSやブログなど無料で利用できるツールが流行り出したころだったので宣伝もしやすいなと思って、サロン開始に向けて動き出しました。
そうすると偶然、シェアサロン的なものをしたいと思っている方からお声がけいただいたんですよね。当時はシェアサロンというものはない時代でしたから、すごくラッキーでした。最初の設備投資もなく必要なものを用意していただいて、サロンをスタートできたんです。
―そうして2012年にセラピーの拠点として広尾に『corpo e alma』をオープンされたんですね。2014年には青山のプライベート・アトリエに場所を移されたそうですね。
最初のシェアサロンで1年ほど活動して、お金の流れや時間の使い方などが見えてきたので、自分が思うかたちでサロンもやっていけるんじゃないかと思ってアトリエを持ちました。
自由なあり方のままちゃんとセラピーを提供する。そういう新しいタイプのセラピストとして活動しています。
―では現在の働き方について教えてください。
セラピーやレッスン、講演、講師活動など、日によって活動内容や時間は変わりますね。自分が自由に学べる時間も取りたいので、あまり先の予定までは決めないようにしています。
1カ月のなかで予約可能な日をオープンにして、その中でセラピーやレッスンを受け入れています。レッスンはお1人が手を上げてくださったら、その日に向けて人を集めます。最初から日時を決めて人を集めると、そこに向けての宣伝などの努力も必要になるんですよね。その大変さも前職で知っていますから。できるだけ自由に動けるスタンスで、お仕事を続けていきたいと思っています。
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人の体と心の奥深さに魅了されたことで、異業種からセラピストに転身した小松さん。知識と技術を追求する10年を経て、自由に自分らしく働けるセラピストとして活動を続けています。次回は、小松さんが感じるセラピストのお仕事の魅力や、セラピストを目指す人へのアドバイスをお伺いします。
取材・文/山本二季
撮影/高嶋佳代