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ヘルスケア 2024-07-15

見失った自分をマインドフルネスで再発見!【もっと知りたい!「ヘルスケア」のお仕事Vol.148/(株)ロッカン 代表 白井剛司さん】#1

ヘルスケア業界のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロにお仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。

今回は、マインドフルネスの講師・指導者として個人はもちろん、企業研修にも携わっている白井剛司さんにお話しを伺います。

前編では、白井さんがマインドフルネスに興味を持ったきっかけ、長年勤めた会社を辞めてマインドフルネスを中心に心身の健康や良好な人間関係への改善などをサポートするために起業したことなどお話しいただきました。

お話しを伺ったのは…
(株)ロッカン
代表 白井剛司さん

大学卒業後、広告代理店の(株)博報堂に入社。営業職として大手企業の広告宣伝やマーケティング、イベントプロモーションを担当。30代前半でメンタルダウンの後、キャリアチェンジし、社内の人材育成業務に長年携わる。2022年に退社し、弟の白井寛人氏((株)トアポイント代表)が神奈川県秦野市に開拓した農場に合流する。ここで企業や個人を対象としたリトリート体験ができる場を設営するために活動を始める。今後は寛人氏を中心に農場レストランや宿泊施設などの展望も。MBSR(マインドフルネスストレス低減法8週間)の認定講師。ICC(国際コーチング連盟)認定コーチ。

メンタルダウンから12年。初めての瞑想体験で奥深さに目覚める

人事パーソンが選ぶその年のベスト書籍に選出された『「自分ごと」だと人は育つ』は人材育成に携わっていた時に執筆。’24年には『部下との対話が上手なマネージャーは観察から始める ポリヴェーガル理論で知る心の距離の縮め方』を上梓。

――30代前半でメンタルダウンなさった原因は何だったと思いますか?

僕は人間関係を築くのも苦手で、「この人はこういう風に考えているんじゃないか」って勝手にストーリーを作って、悩んでしまう。辛いとか悲しいとか、自分の気持ちを「なかったこと」にして、頑張ってしまったんですね。無理して元気に振る舞っているうちにダウンしてしまいました。

――そのときから瞑想を始めたんですか?

その当時は、心を鍛えたいと思っていました。友人から「おまえは真面目で悩みすぎだから、瞑想でもやってみたら?」と、今から思うと少し乱暴な勧めがありました(笑)。自分でも試してみたかったんですが、メンタル不調など参加するための条件が合わなくて断念しました。

実際に瞑想を始めたのは、それから14年後です。

――14年も!? 

2014年は僕のキャリアにとって節目の年なんです。人材育成の部署に移って初めて書いた本が賞を取り、社会的に認められるようになりました。改めて、悩みやすい心を鍛えたいと思ったんです。ちょうどその頃、マインドフルネスがブームになって、アメリカでは企業の研修にも取り入れられるようになってました。

僕が最初に経験したのはヴィパッサナー瞑想で、自分の身体のさまざまな場所に注意を向けて、その経験によって身体感覚や心の状態への気づきを研ぎ澄ますのが目的です。10日間、合宿所に寝泊まりしながら無言で瞑想するうち、身体や心の中で起こっていることに気づけるようになりました。

――マインドフルネス(瞑想)とヴィパッサナー瞑想とは違うんですか?

もともとこの2つは同じで、よりよく生きるための教えだと思います。ただ、体験の仕方が違います。わかりやすく言えば、ヴィパッサナー瞑想はスタイルがものすごくストイックですね。マインドフルネスは「たいへんだったら頑張ってやる必要はない」「自分に優しくなりなさい」という考え方。ヴィパッサナーは修行のように探求する態度で行う体験で、マインドフルネスは日常の生活をより意識した瞑想です。どちらも、実際には同じことを伝えていますが、スタイルが異なると思っています。この2つの瞑想を学んだことが、今の僕を支えていると思います。

――「心を鍛える」というのはどういう意味ですか?

鍛えるというのは、心が弱かった当時の言葉ですね。今はそんな言い方はしません。心を強くすれば、辛いことやストレスに勝てると思っていました。でも本当に必要なのは柔軟性です。真っ直ぐで硬くて鋼のように強い状態だと、ある程度の負荷には耐えられますが、限界を超えるとポキンと折れてしまう。強さは万能ではありません。柔軟でしなやかな心の方がいい

――柔軟でしなやかな心はどうすれば手に入りますか?

まず腹が立つとか、悔しい、悲しいという気持ちを受け入れることです。自分自身が「怒っているんだな」とか「悲しんでいるんだな」とか、今の気持ちを理解することが大事。心に柔軟性がないと、負の感情を「なかったこと」にして考えないようにしがちです。内面は動揺しているのに、感情や思考を閉じ込めて蓋をすると心がこわばってきます。心にはキャパシティがありますから、負の感情が溜まっていくと、いつかは爆発してしまうんです。

僕が30代の前半でダウンしたのは、まさにこの状態だったんです。

瞑想で負のスパイラルに陥り、サラリーマンから起業家へ

青空の下で農作業とマインドフルネスを体験できるのが特徴。中央で瞑想のガイドをしているのが白井さん。

――2014年がキャリアの節目とのことでしたが、会社員生活は続けたんですか?

瞑想によって筋肉の緊張がほぐれてリラックスできるようになります。続けることで集中力が高まって、仕事のパフォーマンスが上がりました。そうなると仕事が楽しくなって、どんどん量を増やす。どんなに忙しくなっても、睡眠時間が短くなってもリセット出来てしまう。それは短期的に考えれば良いことですが、この分かりやすい効果を追っていくと逆に本質を見失ってしまうのです。

その当時、あまりに忙しくて4時間しか眠れない日が続いていました。身体がこわばって集中力が途切れるから瞑想をする、そうするとリセットされて仕事が頑張れる。これだと仕事中心の悪循環ですよね。長い目で見れば身体をより苦しめていたんです。仕事のために瞑想をするようになっていました。

――それは酷いことになっていましたね。

瞑想した結果、仕事の成果が上がるのはいい。でも仕事の成果を上げるために瞑想をするのでは主従が逆転しています。このペースで仕事を続けていたら結果的に不幸になると気づきました。やりがいのある仕事にも取り組んでいましたが、仕事と生活のバランスなどを考えて、2022年に会社を辞めました。稼ぐお金は少なくなっても、自分にとって、今は自分に合っている状態だと思っています。

――マインドフルネスや瞑想を広める活動を始めたのは退職後ですか?

まだ会社を辞める前、2017年に知人とオンライン瞑想コミュニティの運営に携わりました。今ではオンラインでの瞑想は一般的ですが、当時は珍しかったんですよ。このオンラインで、瞑想のガイドの経験を積みました。

――瞑想にガイドって必要なんですか?

ガイドのいる瞑想とガイドのいない瞑想があります。慣れてくればガイドはいない方が良いと思います。

瞑想は集中することが肝心なんです。最初のうちはあらゆる刺激に反応して、注意がそれやすくなるもの。ガイドが「こうしてみましょう」「ああしてください」と言葉をかけて、しっかりレールを敷いてあげれば、集中力が続きにくい人でも瞑想に集中して、注意が散漫にならない状態を作りやすくなります。

――1回の瞑想はどのくらいの時間をかけるんですか?

初心者ならガイドをつけて30分が理想です。15分程度だと効果が分からないまま終わってしまうと思います。でも、いきなり30分は難しいという場合は短い時間でもやり続けることが大切です。

欧米の代表的なプログラムの瞑想だと、推奨されているのは1回45分くらい。僕の経験では30~45分くらいで身体にリラックス感が出てきます。1日30分くらいを3週間~3か月続けると良さが分かってくると思います。

――よく、お寺で座禅の体験がありますが、座禅と瞑想は同じですか?

共通する部分はあると思います。座禅のことは詳しく分かりませんが、瞑想は手順などやり方がありますが、座禅はただ座るだけという難しさがあると思うんです。特に初めての方は集中力を自分でコントロールしなければなりませんから。でも、到達するゴールは同じだと思います。

――座禅は敷居が高いですが、瞑想は身近に感じられます。

欧米の企業では瞑想やマインドフルネスを取り入れた研修が多いんですが、日本ではほんの一握り。日本のビジネスパーソンは忙しくて時間がないことと、「何かの宗教じゃないか?」という警戒心もあると思います。

僕がここ秦野で起業したのは、忙しいビジネスパーソンにこそ取り入れて欲しい効果のある取り組み(スキル)だと思っていること。それから、日常から離れた自然に囲まれた場所で、マインドフルネスを通じて自分を見つめる体験を提供したいいう思いからなんです。

メンタルダウンしたのを機にご自身を見つめ直した白井さん。2つの瞑想や日常の実践法を学び、秦野を拠点に活動を始めました。

後編では、拠点の場所として秦野を選んだ理由、この場所だからできる白井さん流のマインドフルネスについて、これからマインドフルネスに携わりたい方へのメッセージをご紹介します。

撮影/森 浩司
撮影協力/(株)トアポイント(秦野市上地区柳川)

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