株式会社ルネサンス 代表取締役社長執行役員・吉田正昭|人との接点の中に生きがいを見出す「生きがい創造企業」としての使命(前編)
平日の午前中にも関わらず老若男女が足を運ぶルネサンスでは、毎日決まった時間に訪れて互いに汗を流しながらあいさつを交わしたり談笑したりしている方々や、インストラクターが教えるエクササイズに真剣な眼差しで取り組んでいる方々の「いつもの日常」を見ることができます。
「以前は平日、こんなににぎやかじゃなかったんですよ。『フィットネス』が生活に根づいている証(あかし)なんでしょうね」(吉田さん)
一時は、東日本大震災の影響で会員数が著しく減少したものの、地域住民の「生きがい」と「健康」をサポートする社会的使命に果敢に挑み続け、今では地域のコミュニティの重要な場として支持されている、ルネサンス。41万1,466人の会員数を集め、「あなたの街のフィットネスクラブ——スポーツクラブ ルネサンス」にかける思い、そしてフィットネス業界の未来予想図について、吉田さんにお話しいただきました。
※会員数は2019年3月末時点(日本国内直営施設における会員数)の数字。
株式会社ルネサンス・代表取締役社長 吉田正昭(よしだ・まさあき)
1956年生まれ。大阪府高槻市出身。子どもの頃からサッカーや水泳に慣れ親しみ、大学ではフェンシング道をまい進。大学卒業後、株式会社コナミスポーツクラブの前身にあたるピープルに入社し、水泳のコーチを勤める。営業部長、人事本部長、事業開発部長を経て、2004年、「スポーツクラブ ルネサンス」を運営する株式会社ルネサンスへ。2011年、同社代表取締役社長に就任。現在に至る。
「顧客感動満足」と「従業員感動満足」が感動を生む
内閣府が発表した『平成27年版高齢社会白書(全体版)』によると、60歳以上の高齢者のうち、生きがいを「十分感じている」のは男性14.7%・女性16.7%、「多少感じている」人は男性49.0%・女性50.5%という結果でした。約4年前の調査のため、令和元年の現在は何かしらの変化が生まれているかもしれませんが、少なくとも当時の日本は60歳以上の男性高齢者が女性高齢者より少しだけ生きがいを感じにくい世の中だったようです。
また同調査では、今後の生活で「貯蓄や投資など将来に備える」ことよりも「毎日の生活を充実させて楽しむ」ことに力を入れたい人が60~69歳で77.0%、70歳以上で83.1%いることもわかっています。
「スポーツクラブでの運動にとどまらず、そこで出会った仲間同士でゴルフや飲み会をしている方たちもいます。スポーツクラブを介した『コミュニティづくり』が促進されているんです。人が精神的にも健康的にも弱る一番の原因は、『孤独』になること。人とのつながりを育める場として、スポーツクラブの果たす役割は大きいと感じています。
健康維持や身体能力の向上、コミュニティの形成など、スポーツクラブで達成できる目的はさまざまですが、それらに応じたサービスを提供することで、ルネサンスの企業理念である「生きがい創造企業」を実現しています。
ルネサンスでは『顧客満足』ではなく、『顧客感動満足』といっています。満足のいくサービスを超えたときや想定していた以上の成果が実感できたときに感動が生まれるという意味です。
この『顧客感動満足』を生み出すためには、従業員一人ひとりが生きがいを持つことが不可欠だと考えています。だから、私たちは『従業員感動満足』も大切にしています。生きがいを持って働くことではじめてお客さまに満足を感じてもらえるサービスを提供することができる。それが、お客さまと従業員双方が生き生きしているコミュニケーションにつながり、そこから感動が湧いてくるのです。
したがって、お客さまと従業員どちらかが欠けると、感動は生まれません。人と人とのキャッチボールの過程で感動は生まれるので、私たちは『顧客感動満足』という言葉と『従業員感動満足』という言葉を用いて、お客さまと従業員全員の生きがい創造に取り組んでいます」
スポーツクラブのノウハウを生かしたリハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」
ルネサンスは「スポーツクラブ ルネサンス」の全国展開以外にもいくつもの事業を手掛けています。そのうちの一つが、スポーツクラブの豊富な運動ノウハウに科学的なリハビリの手法を加えたリハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」の展開です。
「元氣ジム」では、理学療法士による個人プログラム(オーダーメイドの個別リハビリ)と、運動指導員によるグループエクササイズを提供し、より楽しく元気に活動できる体づくりを実現。中でもルネサンスの登録商標であり、昭和大学・藤本司先生等のアドバイスを受けて誕生した脳を活性化させるプログラム「シナプソロジー®」は子どもから高齢者、アスリートやビジネスマンなどが活用しており、国や大学などの研究機関と効果検証を繰り返し、認知機能など様々な効果を脳に与えることが分かっています。
笑顔やコミュニケーションも生まれるシナプソロジー®で介護予防の事例が出てきたのは、大きな成果です。政府の成長戦略の一つに位置付けられている『健康寿命の延伸』が運動と人とのコミュニケーションで可能になる証(あかし)になりました」
総務省が公開している『平成30年版 情報通信白書』では、15歳から64歳の生産年齢人口※は、2017年に7,596万人(総人口に占める割合は60.0%)だったものが、2040年には5,978万人(53.9%)まで減少するといわれています。そのような背景もあり、政府は、国の経済を支えるために70~75歳までの定年の引き上げを視野に入れた議論を始めました。
※労働の意欲のあるなしに関わらず、日本国内で労働できる年齢の人口。
「ただ、定年を75歳に伸ばしたとしても、『病気を患っている75歳』では働けませんよね。健康で生産性の高い75歳でいられれば、生産年齢人口の減少にも対応できるのではないでしょうか。
『自分が元気良く働くことが国や産業の貢献につながるんだ』という実感が、生きがいにつながります。その支援策として、私たちは私たちだからこそ提供できるプログラムを通じて高齢者の方たちをサポートしていきたい。それが、ルネサンスの重大な役割だと思っています」
フィットネス業界が介護業界にできる貢献
ボクシング・フィットネスや暗闇フィットネスなど、フィットネスの形が多様化している現在。「入り口」が増えたことで今までフィットネスに興味がなかった人たちが参加するようになってきているのは、業界全体として良い傾向です。しかし、多様化したことによるリスク——例えば、24時間営業のジムで起きた事件・事故などの問題も明るみになりました。だからこそ今、安全性の担保やサービスの品質向上が業界全体に求められていると吉田さんは指摘します。
「具体的な対策として、大小100社ほどが加盟しているFIA(一般社団法人 日本フィットネス産業協会)では加盟団体共通の安全基準を制定し、加盟しているクラブの安全性を担保する施設認証制度の取組みが予定されています。
また、適切なトレーニング結果を提供するためには、プロとして一定以上の知識を持ったトレーナーの存在が必要不可欠です。そこで、加盟団体全体の底上げのために技能検定試験も始まりました。1〜3級まであるこの検定は、運動の知識だけではなく、接客や店舗運営、法律まで、幅広い専門知識が要求されます」
そして、今までフィットネスとは接点のなかった介護領域への積極的なアプローチも業界全体で進んできているそうです。
「これまで、70〜80代の方たちはあまりスポーツクラブに来ることがありませんでした。私たちが積極的に接点を提供しなければ、その世代の方たちとフィットネスを通じた関係を持つことはできないでしょう。
弊社のシナプソロジー®のように、フィットネス業界が培ってきたノウハウを生かしつつ、今後、介護が必要になるかもしれない世代の方々とつながりができたら、介護業界に貢献ができると思っています。介護はこれから日本においてさらに大きくなっていく市場。私たちは、介護予防や健康づくりという側面から社会的役割を担っていく必要があると感じています」
「生きがい創造」の理念のもと、フィットネス業界の枠組みを超えた社会的役割を積極的に果たそうとするルネサンス。後編では、これまでに培ってきたフィットネスのノウハウを生かした街づくり支援、既存のフィットネスの概念をくつがえす新しい取り組み、ルネサンスと業界が求める人材などについて語っていただきます。
▽後編はこちら▽
株式会社ルネサンス 代表取締役社長執行役員・吉田正昭|ルネサンスが社会から必要とされる企業になるためにしていること・すべきこと(後編)>>
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