メイクセラピーは高齢者のケアにも有効。介護美容は高齢化社会の切り札になる!【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.86/メイクセラピスト・荻野愛子さん】#2
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、メイクセラピスト・荻野愛子さん。
大手化粧品会社に13年勤め、トップクラスのアドバイザーとして4万人以上のカウンセリングやメイクアップを担当されていた荻野さん。その中で、日本女性を美しく見せるメイク術・MUSE(ミューズ)メイクを確立されたそう。独立後は「MUSEメイクレッスン」を開校し、多くの女性に「自分でもできる一生使えるメイク術」を伝えています。
前編では、MUSEメイクが生まれたきっかけや、その特徴などを伺いました。
後編では、現在の働き方や今後の目標、未来のセラピストに向けたアドバイスを伺います。
介護美容を学ぶ人が急増中⁉︎
メイクセラピーの今後の可能性に期待大
――メイクレッスン以外の活動についても教えてください。養成講座もなさっているとか?
はい。独立して5年間は一人で活動していたのですが、ありがたいことにいろんな依頼をいただくようになり、私一人じゃ対応しきれなくなってきたので、一緒に働く仲間を募集するために養成講座を始めました。今、ベーシッククラスには11名の生徒さんが受講しています。
――養成講座の期間は?
基本のコースが8ヶ月、一つ上のクラスが+6ヶ月、もう一つ上のクラスが+8ヶ月なので、全部学ぶと2年間になります。養成講座を始めて3年目なので、卒業生はまだ少ないですが、中には今一緒に働いてくれているメンバーもいますし、来春サロンをオープンするメンバーもいます。皆さんのこれからの活躍が楽しみです。
――他にはありますか?
介護美容のお仕事ですね。もともと介護美容がやりたくてメイクセラピストとして独立したのですが、ありがたいことにご縁があり、今では介護美容を教える学校で講師の仕事もさせていただいています。メイクセラピーとビジネス、セルフブランディングの授業を担当しています。時代の流れでしょうか、昨今介護美容を学ぶ生徒さんが年々増えているんですよ。今後の可能性にも期待が膨らみますね。
あともう一つ、介護美容の学校でフォトの講座を担当されていたカメラマン・山田真由美先生に誘っていただいて、「郵便局写真館」という活動もしています。これは山田先生ご自身が発起人となって行っている活動なのですが、土日でお休みしている郵便局を使わせていただき、写真館を営業しているんです。地域の皆さまや遠くのスタジオまで足を運べない高齢者の方たちが来てくださいます。
約2年前に神奈川でスタートし、今では20回を超え、今年の10月からは東京でも開催しています。第一回目以降、コロナの影響で私たちメイク班はしばらく参加できていなかったのですが、いよいよ規模も大きくなってきたし、そろそろ、と言うことで、最近また参加させていただくようになりました。
ご年配の方って、写真に写りたがらない人も多いじゃないですか。メイクも遠慮がちで、「私なんて」とおっしゃる人もいるけれど、綺麗にメイクして素敵な写真を残してほしい。「遺影写真」というと一聞言葉が鋭く感じて、ご本人も周りのご家族も口にしづらいかもしれませんが、「毎年素敵な写真を撮っているのよ」と気軽に言えるようになるといいですよね。むしろ、毎年撮影することを励みに、楽しく長生きされる方が増えてほしいなと思います。
この仕事が本当に大好きだから、
力尽きるまで仕事をしていたい!
――現在の働き方を伺いたいのですが、代表的な1日の流れを教えてください。
朝は5時に起床します。我が家では猫を飼っていて、毎朝「ごはんちょーだい♪」と起こされるんです(笑)。なので、起きたら一番に猫にご飯をあげ、その流れで家事も済ませます。6時からはメイクをしたり、体操をしたり。体操は、MUSEメイクメソッドが生まれるきっかけにもなったコアチューニングですね。実は私、講師の資格を持っていて、コアチューニングの養成講座もやっているんですよ。
体操後は、ご飯を食べたり、メールの返信をしたりして9時から始業です。リモートミーティングで朝礼を行い、9時半から12時ぐらいまでは事務作業。13時からはレッスンや養成講座が入っています。それが終わるのがだいたい17時ごろ。そこから片付けやメンテナンスをして18時終業です。
――終業後は?
ゆったりプライベートな時間を……と言いたいところなのですが、なんだかんだ仕事の調べ物をしたり勉強をしたりしていることが多いですね。私は本当にこの仕事が好きなので、力尽きるまで仕事をしていたいんです。
あと、夫がYouTubeのプロデュース業をしているので、リサーチがてら一緒にYouTubeを見ることもあります。夜は遅くとも12時までに寝るようにしています。
――お忙しそうですが、すごく充実されているんですね。他の方のメイクセラピーを受けに行かれることもありますか?
あります。他の先生方はどんな風にレッスンされているのかとても興味があるので、よくセミナーを受けに行っています。ただ、その時は相手の先生に気を使わせないように普通の会社員を装い、同業者だとバレないようにしています(笑)。
メイクが持つパワーを再認識!
女性が笑顔になる瞬間を見るのが一番のやりがい。
――この仕事のいいところややりがいを教えてください。
女性が笑顔になる瞬間を見ることですね。メイクした後、鏡に写ったご自身のお顔にうっとりされている姿を見ると、そこに立ち会えたことに幸せを感じます。仕事をすればするほど、メイクの力ってすごく大きいんだなって改めて実感します。
また、最近は嬉しいことに、メイクセラピストを目指す方達が増えてきました。彼女たちのメイクが上達していったり、お客さまとの接客がスムーズになっていったり、どんどん成長していく姿を見るのもやりがいですし、「私ももっと頑張ろう」ってパワーをもらっています。
――今後力を入れて行きたいことはありますか?
メイクセラピストを育成するとともに、セラピストになった皆さんが活躍できるフィールドをもっと広げていきたいですね。今、日本はどんどん高齢化社会になっていっていますが、メイクセラピーって高齢者の方のケアにもすごく有効なんですよ。介護美容は、高齢化社会の切り札になると言ってもいいんじゃないでしょうか。まだまだ、個人のお宅にお伺いして〜という活動は難しいのが現状ですが、施設規模なら活動できる場が少しずつ増えているので、メイクセラピーの認知度をもっともっとあげていきたいと思います。
――今後メイクセラピストを目指す方達にアドバイスをお願いします。
メイクセラピストは、メイクの技術はもちろん、それと同じくらいコミュニケーションのスキルや能力が問われる仕事です。なので、できるだけたくさんの人と触れ合ってお話を聴いて、コミュニケーションの経験をたくさん積んでほしいと思います。
――ありがとうございました。最後にセラピストの心得3ヵ条をお願いします。
・笑顔でいること、笑顔を届けること
・人の話をよく聴くこと
・自分自身が綺麗になるのも好き、相手を綺麗にするのも好きであること
前編・後編を通じて、熱い思いを語ってくださった荻野さん。メイクというと、「対個人」として、その人とその人の周りへの影響のみかと思っていましたが、介護美容として高齢者の方々のケアにもなるというメイクセラピーは、社会貢献にもつながることがわかりました。この業界の今後の可能性をすごく感じ、ますます興味が湧いてきました!
貴重なお話をありがとうございました!
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄