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ヘルスケア 2023-07-12

3坪治療院、チラシのみで集客。無借金、ノーリスク開業のススメ 鍼灸師・鈴木むつよさん

鍼灸師を経て、現在は治療家向けの経営や集客、イベントのサポートなどを中心に活動している鈴木むつよさん。これまで何度も開業経験があり、そのほとんどが小規模治療院だったということです。経営講師として活動を始めたときに、小規模治療院の可能性をもっと知ってほしいと始めたのが、鍼灸院の基準を満たす最少規模である3坪鍼灸院の開業。オワコンといわれたチラシのみで集客するなど、さまざまな試みを成功させ、経営を軌道にのせたそうです。

そんな鈴木さんが考える、鍼灸院が成功するために必要な要素とは?

今回、お話を伺ったのは…

鈴木むつよさん

鍼灸師

大学卒業後、就職した鍼灸院がブラックな職場環境だったため10カ月で退職し、翌日には出張という形で初めて開業。その後、京都、三重でマンション、テナントなどの小規模治療院の開業を何度も経験する。それらの経験を活かし、治療家向けサポートを仕事にすたるため、上京。治療家向けマーケティング会社での経営講師などを経て、現在は治療家の経営、集客、セミナー・イベント運営のサポートを中心に活動中。

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借金を背負わなくても開業はできる。 狭小治療院の可能性

鍼灸師としてキャリアを積んできた鈴木さん。開業経験が豊富で集客が得意だったことから、現在は治療家向けのサポートを行っている

――3坪の鍼灸院を開業された経験があるとお聞きしましたが、なぜそのような店舗を開こうと思ったのでしょうか?

治療家向けの経営塾の講師をしていた時期があり、経営の事例やノウハウを説得力を持って伝えるためにどうしたらいいかを考えた結果でした。実際に経営をしていることによって、伝えらえることも増えますし、説得力も増すと考えたんです。

私は最初に勤めていた鍼灸院を退職したあと、次の日には出張という形で開業をしました。3人のお客さまからのスタートと、決して大きな一歩ではありませんでしたが、店舗を構えない形であればほとんどリスクがないまま開業することができるんです。その後マンションの一室、テナントなど小規模治療院を2年ごとに開業する経験をしてきて、小規模治療院の可能性を感じていました。

そのリアルな事例をお伝えするためには一番ミニマムな形での経営を実践してみたいと考え、思いついたのが3坪鍼灸院です。3坪が鍼灸院として認められる一番小さな規模なので。このノウハウを知ってもらえれば、そこからいくらでも大きくしていくことが可能だと思ったんです。

――小規模な治療院の可能性に気付かれたわけですね。

はい。やり方によっては無借金、ノーリスクで始められます。開業というとそういうリスクを背負うのがセオリーのようになっていますが、私はそれまでの経験でリスクを背負わなくてもできるというメリットをとても強く感じていて。「別に小っちゃくてもいいじゃん」という気持ちが強かったんです(笑)。大きく開業、小さく開業、どちらが正解という話ではなく、自分の目的ややりたいことを達成する手段のひとつの可能性としてお伝えしたいと考えていました。

ターゲットを絞れば、チラシは「オワコン」ではない

治療家向けマーケティング会社の一員として、治療家への指導なども行っていた鈴木さん

――それまでは地方で鍼灸師として活動されていた鈴木さんが、東京で3坪治療院を開かれたということですが、顧客ゼロの状態ですよね?集客はどのようにされたのでしょうか?

このときは、実験的にチラシのみで集客することを決めていました。理由は2つあって、1つには「チラシはオワコン」などと言われていますが、本当にそうなのかを確かめたかったこと。2つ目にチラシは早く、安く導入ができるので、効果があるのであれば経営者にとって大きな可能性になると考えたからです。

実際にチラシを使ってみると、とても大きな反響がありました。講師業などもあって週3日の半日だけしかオープンできなかったこともあり売上の上限を40万円と決めていたのですが、その上限まですぐに達することができたんです

――なぜそのような効果があったと分析されていますか?

ターゲットをしぼったチラシを打ったことが大きかったと思っています。ターゲットを決めるにあたっては、出店するエリアの近くを実際に歩いてみてどんな人たちが多いかを目で確かめました。出店エリアは東京の郊外で、公園も多く、妊婦さん、小さな子連れのママさんを多く見かけたんです。そこで「産後ケア」を打ち出したチラシをまいたところ、ママ層にリーチすることができ、集客につながりました。

――反響につながらない可能性もあり、ターゲットを絞るのが怖いという人も多いかと思います。

来ないことが分かったら、次のターゲットに変えてみればいいのではないかと思います。そこで一番やってはいけないのが、「なんでもみます」というチラシに変えてしまうこと。広告はターゲットをしぼらないと、だれにも届かないものになってしまうんですよね。ターゲットはしぼりながら、別のものに変えていく方が、よりささるチラシになると思います。

――チラシは手配り、ポスティング、どちらの方法で配りましたか?

自分の足を使ってポスティングをして周りました。私は治療家さんにアドバイスする際にも、新規オープンであれば、業者は使わずにポスティングすることをおすすめしています。先ほどお話したように、自分の開業するエリアにどんな人がいるかを知ることができますし、その土地の地理や雰囲気、どんなお店があるかなどをつかめることもメリットです

そういったことを知っていると、お客さまが来たときの話題の1つにもなりますよね。また現段階での来店につながらなくても、地域に治療院ができたということを知ってもらうことは将来の来店にもつながる大切なことだと思うので、地域の人の目に触れるポスティングは有効だと思います。

とはいえ、これも「お金をかけない」をテーマにしているからとった手段でしかありません。「時間をかけたくない」「施術に時間を割きたい」というテーマの方は、どんどん業者を使ってお金をかければ良いと思っています。目的次第なので、目的をしっかり考えてほしいですね。

鍼灸業界のスタンダードにとどまらないように

鈴木さんの作ったYouTube動画。集客や経営に関する悩みに応える動画を作成している

――もし今、鈴木さんが開業するとしたら、集客にはどのようなツールを使いますか?

私だったら、チラシとインスタですね。チラシは先ほどお話した通りですが、インスタも効果的です。小さな鍼灸院の場合、インスタを使ってお客さまにリーチするのは難しそうという意見をもらうこともありますが、お客さまにとってDMで気軽にやりとりをして予約ができるということは、大きなメリットなんです

鍼灸院の場合とくに、興味のある人しかインスタで「鍼灸」について調べることはないので、調べて連絡くれた時点で、来てくださる気持ちが強いお客さまである可能性がとても高くて。1回コミュニケーションがとれたら勝ちと言ってもいいくらいです

そもそも治療院は、500人、1000人の人に来てもらわないと成り立たない仕事ではないですし、ましてや小規模治療院の場合はその人数の単位がもっと少なくなります。目の前の1人1人のお客さまの心をしっかりつかんでいけば、成り立つ仕事だと考えたときに、大人数にアプローチすることより、一番手軽なコミュニケーションツールがインスタになるということですね。ただ集客方法はほかにも色々ありますし、コンサルをするときは、その方が試したいツールに対して事例を出してアドバイスをすることが多いです。

――経営塾やコンサルとしても活動してきた鈴木さんから見て、ここを外さなければ成功できるというポイントはありますか?

経営、接客など治療以外の分野に力を入れることですね。そのときに見本にするのは鍼灸業界のスタンダードではなく、ほかの業界の成功事例に学ぶことがとても大切だと思います。鍼灸業界はとても特殊だと思っていて、私が治療家さんのサポートを始めた理由にもつながるのですが、経営について学ばないまま独立する方も多いですし、接客の質もあまり高いとはいえないと思います。

治療技術は磨いているけれど、経営については学んでいないとか、学びたい気持ちはあっても、時間がないという方も多いと思うので、経営面のサポートを私はしたいと思った経緯があるんです。接客も鍼灸院で学ぶのではなくて、スタバや一流ホテルなどの接客を学んだほうがいいと思っていて。外の業界の成功を取り入れていかないと、鍼灸業界は衰退していってしまうのではないかと。自分が携わってきた業界だからこそ、そうなってほしくないという思いがあるんです。


後編では鍼灸師の仕事をしていた鈴木さんがどのように初めての開業を経験し、その後講師業、コンサルタントなどの仕事を広げていったのかを伺います。次々と新しいことに挑戦する鈴木さん。その根底には困っている鍼灸師をサポートし、鍼灸師の素晴らしさ、楽しさが伝わっていってほしいという思いがあるようです。後編もお楽しみに!

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