幅広い知識とコミュニケーションで、患者さんの本音を引き出す【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.66 柔道整復師/西 正博さん】#2
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、
洲本接骨院の院長で柔道整復師の西 正博さん。
痛みのない「無痛整体」で、これまで40万人以上の患者さんを施術し、その悩みを改善。同業者のかたからも厚い信頼を寄せられています。
前編では、柔道整復師になったきっかけや、接骨院を開業したときのお話を伺いました。
後編では、YouTubeをはじめたきっかけや、これからこの業界を目指す人たちへのアドバイスを伺います。
YouTubeのおかげで問い合わせ殺到!
反響の大きいSNSは、目的を持って使えば大きな武器に
――今、YouTubeの登録者数は7.5万人を超えていますが、反響はいかがですか?
そうですね、たくさん問い合わせをいただいています。
――始めたきっかけは?
経営の勉強会で「これからはSNSやYouTubeでの集客が主流になる」って言われたのがきっかけですね。見たり聞いたりするだけでは身につかないので、まずはやってみましょうということになって、始めました。でも、集客につながったかどうかは不明なほど、当初変化はなかったです。
――そうだったんですか? その頃の動画内容は?
ストレッチなど、セルフケア方法の紹介でした。一応半年〜1年ほど様子を見たのですが、特に大きな変化はなく(笑)。
その後、スタッフ向けのマニュアル作りをする必要が出てきたんです。わかりやすいマニュアルをつくるなら、僕の施術風景を録画して、それをスタッフに見せながら説明するのが一番いいのかなと。それで、先のYouTubeに施術風景をアップして、スタッフに共有していました。
――スタッフさんの共有用にシフトチェンジしたんですか!?
そうです。YouTubeならネット上にデータがあるからどこでも見られるので、スタッフが自宅に帰って復習する時にも使えて便利だったんです。正直、内内の資料のつもりでしたね。経営の勉強会でお試し投稿していた頃を第一形態とすると、これは第二形態です(笑)。
で、今は第三形態(笑)。先ほどもお話したように、僕の施術は「無痛」なので、患者さんからすると「何をされているのかわからない」らしいんです。「何をされたかわからないけど、症状は改善した。嬉しくて友達や家族に話したいけど、何せ『何をされたか』がわからなくて、伝えようがない!」という声を患者さんからいただきまして(笑)。それならってことで、僕の施術の様子をHPに載せるためにYouTubeに動画をアップして、それを貼り付けたんです。すると、急に視聴者数が増えました。
――ということは、第二形態と第三形態は、動画を保存するための場所としてYouTubeを使っていた感じですか?
そうです。なので、あんなにチャンネルを登録してくれる人がいて、あんなに試聴されるとは思ってなくて、びっくりしました。
そういう風に考えると、集客という目的をしっかり持って運営する分には、すごくいいと思います。僕の場合は、目的からずれてしまいましたが(笑)。
ただ、残念な部分もありまして……。実際に僕の施術を受けた人が、誰かに紹介する際に動画を見せるのはいいのですが、何も知らない一般の方がいきなりこの動画見ると「怪しい。詐欺じゃない?」と思うらしいです。「さくらを使っているのでは」とか「騙されないで」とか、いろんなアンチコメントを書かれました……。
――それは辛いですね。
辛いです。心が折れるので、それ以来僕はコメントを全く見ません。一時期、YouTube自体を辞めようかとさえ思っていました。
――よくも悪くも反響が大きかったと。
はい、大きすぎました。ただ、中には真剣に悩んでいて、藁にもすがる思いで問い合わせてくれる患者さんもいるんです。YouTubeを見て、わざわざ遠方から通ってくれる患者さんもいますし。
でも今、予想以上の反響で、僕の予約が取れないんです。すでに今年いっぱい埋まっていて、予約自体をストップしているんですよ。そうなると、ずっと通ってくれている患者さんにも迷惑をかけるので、いろいろ悩むところですね……。
開業以来の決まり事!
トイレと玄関は、院長自ら毎日清掃
――それだけお忙しかったら、お休みが取れないんじゃないですか?
以前は休んでいませんでしたね。一応週休二日ありましたが、自宅でマニュアル作りをしたり、データの整理をしたり、ずっと働いていました。
でも、とうとう今年の2月に体を崩したんです。盲腸だったんですが、しばらく強制的に休まなくてはいけなくなって、予約が入っていた患者さんにもスタッフにも、迷惑をかけてしまいました……。
その時、いろんな人から「先生は働きすぎだから、もう少し休んだほうがいいよ」って言われたんです。それ以来、休みはしっかり取るようにしました。
――ちなみに仕事のある日の一日のタイムスケジュールはどんな感じですか?
8時ぐらいに出社して、始業までの1時間は掃除。スタッフにもやってもらいますが、トイレと玄関は毎日僕が清掃担当です。
特にトイレは一番汚くなりやすい。でも汚いと一番嫌な場所。例えばホテルなら、隅々まで目が行き届いているホテルのトイレは綺麗ですよね。僕もそれを意識して、開業以来続けています。
9時になったら患者さんの施術に入って、あとはもうノンストップ。なにせ予約がいっぱいなので(笑)。でも、盲腸になって以降はできるだけ残業せず、自宅に帰ったらゆっくり晩酌しながら、大好きな読書を楽しんでいます。
日常会話の引き出しを増やして、
患者さんの本音を引き出すコミュニケーション
――これからこの業界で働こうとしている人に、アドバイスをお願いします。
僕がこの仕事を始めた時、最初に言われたのは「幅広くしゃべれるようになりなさい」ってことでした。天気の話もそうですし、農業の話、経営の話、どんな話題にも答えられるように「引き出しを増やしなさい」と。
というのも、患者さんが初診で僕たちに教えてくれる情報は「〇〇が痛い」っていうことだけなんですよね。最初から具体的なエピソードとか、普段の生活習慣を全て教えてくれるわけではない。そういうかたから、僕たちが知りたい情報を引き出すには、日常会話から探るしかないんです。
例えば農家のかただったら、「そろそろ収穫の時期だね」とか、「お子さんは手伝ってくれるの?」とか。そういう話をしていると相手も「先生詳しいね。実は〇〇が痛くて〇〇の作業ができないんだよ」とか、「〇〇が痛くて、孫を抱っこできないんだよ」とか、具体的に「何をしたときどんな痛みが出る」っていうエピソードが聞けて、診断しやすくなるんです。
――会話から引き出すんですね。
問診だけじゃなく、コミュニケーションが取れないと、周りの人に紹介もしてもらえないですよね。今でこそYouTubeやSNSでたくさんの人に知ってもらえますが、そもそも接骨院はローカルビジネスなので、口コミや紹介が集客の肝になります。
といいつつ……、僕自身すごく人見知りです(笑)。柔道整復師の資格をとって初めての問診のとき、患者さんと目が合わせられなくて。「そんな問診見たことない」って、先生にすごく怒られました。今でも初診はちょっとドキドキします。さすがにだいぶ慣れましたけど(笑)
どんな仕事でもコミュニケーションは大切ですが、ヘルスケアのお仕事では特に大切になると思います。これからこの業界を目指す人は、誰とでもいろんな会話ができるようにしておくことをオススメします!
集客に欠かせなくなったYouTubeやSNSですが、いい面も悪い面もあることを赤裸々に語ってくれた西先生。これから導入しようと考えている人は、改めて対策方法を見直してから始めるといいかもしれません。
また、先生もおっしゃる通り、コミュニケーションはこの業界を目指す人にとって欠かせないスキル。ふだんからニュースをチェックしたり、本を読んだり、会話の引き出しを増やしておきましょう!
取材・文/児玉知子
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