首を整えることで全身を整える、一子相伝の奥義「らせん操法」とは【もっと知りたい「ヘルスケア」のお仕事Vol.117/柔道整復師・加藤智雲さん】#1
「ヘルスケア業界」のさまざまな職業にフォーカスし、その道で働くプロに、お仕事の魅力や経験談を語っていただく連載企画「もっと知りたい! ヘルスケアのお仕事」。
今回お話を伺ったのは、柔道整復師・加藤智雲さん
恵比寿で首専門の整体院「極(KIWAMI)」を開業している加藤さん。「らせん操法」という一子相伝の奥義を使って首の歪みを調整し、首から全身を整える施術を行なっています。
前編では、柔道整復師になったきっかけや、首から全身を整える「らせん操法」について詳しく伺いました。
さまざまな職を経て、柔道整復師に。
僕もお客さまも「極」を目指せるサロンにしたい
――この道に進んだきっかけを教えてください。
実は僕、この道に進んだのは30歳からなんです。それまでは建築現場で働いたり、サラリーマンをしていたのですが、20代後半になって人生の目標を見つめ直した時に、ある作画監督に出会ったんです。
作画監督はアニメキャラクターの輪郭を描いたりするので、その人はその技術をもとにした美顔マッサージ術を考案し、提供していました。スクールもあったので僕はそこに通い、その後はワンルームマンションを借りて施術をしていました。
そうやって顔の施術をしていると体の仕組みについても興味が湧いてきたので、専門学校に通うことに。そして師匠のもとで実際の施術を学びながら、柔道整復師の資格を取りました。
――その師匠は、先ほどの美顔マッサージの先生ですか?
いえ、別の先生です。師匠は、僕が小学生の時に発症した円形脱毛症を治療してくれた先生なのですが、そこからずっと付き合いが続いていて。師匠に「僕も先生みたいになりたいんです」と相談したら、国家資格は持っておいた方がいいと言われたので、柔道整復師の資格を取ることにしたんです。
その後、一度接骨院に勤めましたが、「僕にしかできないものを提供したい」と思うようになり、表参道のワンルームマンションを借りて独立しました。
――今のサロンの前身ですね。
そこでは看板を出さず、紹介で来てくださったお客さまにのみ施術をしていたのですが、少しアクセスが悪かったんです。それで今の恵比寿のサロンに引っ越しました。その後2回ほどサロン名を変え、現在の「極(KIWAMI)」になったのは今年からです。
――サロン名を変更した理由は?
実は、施術だけでなくビジネスとして展開しようとしていた時期があったのですが、いろいろ経験して「このままではよくないな」と気づいたんです。改めて自分自身を見つめ直した時に、自分が一番得意なことが首の施術だったのと、師匠から言われていた「首を制するものがこの業界を制する」という言葉を思い出しました。今こそ原点に返って、目の前のお客さまの施術に集中しようということで、サロン名もコンセプトも心機一転。リスタートしたんです。
「極(KIWAMI)」は、僕自身もこの上ない施術を目指しますし、お客さまにもこの上ないベストなバランスに整ってもらいたい、という思いで名づけています。
首の調整は手段の一つ。
本来あるべきベストコンディションに整えることが本当の目的
――「首を制するものがこの業界を制する」というところを、詳しく教えていただけますか?
首が原因で頭痛がしたり、自律神経に不調をきたしている人が結構多いんです。でも、人間の体の中で首の調整が一番難しい。きっとこれをケアできる治療院は少ないだろうと思い、首専門の整体院を作ることにしました。
首・肩周りには、脳の神経と直接繋がっている筋肉がたくさんあります。そのなかでも一番大切なのが迷走神経なのですが、これは内臓にも分布しているので自律神経とも密接に繋がっているんです。そのポイントが首の左側、耳の下あたりにあるので、主にそこを調整します。
ここをケアしてあげると、頭痛やめまいだけでなく便秘もよくなるんです。炎症そのものを抑える効果も期待できるので、そもそも体の痛みは炎症反応の一つということを考えると、さまざまな痛みに効果的です。
――なるほど。
あと、首そのものの歪みですね。首の骨は前後のズレと左右のズレが合わさって回転しながら歪んでいくんです。これを巻き戻すように反対周りに回転させ、本来の状態に戻します。
さらに、筋肉の上には筋膜という、全身をラップで包んだみたいに覆っている膜があるのですが、これが癒着すると痛みにつながるので、筋膜も同時に緩めていきます。要は、骨格を戻しながら筋膜も緩め、神経もケアするトリプルアプローチなんですよ。
とはいえ首の調整は手段の一つ。最終目的は、お客さまを本来あるべきベストなコンディションに整え、本来あるべき状態で生活できるようにすることです。この「らせん操法」なら、全身整いやすくなりますし、悪い状態にリバウンドすることも少ないんです。
――先ほど伺ったお師匠さんが、そのメソッドを作られたんですよね?
はい。もともとサラリーマンだったそうですが、脱サラして、40歳前後で治療家になったと言っていました。いろいろなセミナーを受けて身につけた知識・技術と、居合術の形や間合い、姿勢、呼吸などをミックスして考案したそうです。
そのため、少し気功療法に近いんですよ。力もあまり使いません。施術する側が力んでいると、それがお客さまにも伝わってしまうので、力を抜いた状態で手や肘などいろいろな場所を使って施術します。無理な力を加えないので、施術者の負担も少ないですし、お客さまも痛みを感じず、寝ている間に治療が終わっています。
――痛みを感じないのは嬉しいですね。ちなみにお客さまの層はどのような感じですか? どんな悩みを訴えて来られる人が多いんですか?
20代から60代までいろんな人がいらっしゃいますが、ボリュームゾーンは40
〜50代。女性が多く、男性は全体の2割ぐらいです。
お悩みで多いのは、首・肩こりや頭痛、睡眠障害。あと最近は、「どこ」というわけではないけど、なかなか疲れが抜けない、すっきりしない、という慢性的な疲労で悩んでいる人も多いですね。
もちろん、ぎっくり腰など急性で来られる人もいます。これも首の調整で痛みが和らぎます。神経は、頭〜頸〜腰と全て繋がっている証拠ですね。
得意分野を徹底的に追求し、
目に見えない内面こそしっかり磨いて整える
――最近、接骨院や整体院、マッサージサロン、いろいろなところがたくさんありますが、お客さまに選ばれるサロンになるために大切にしていることはありますか?
自分の得意分野を徹底的に追求して、それを前面に出した方がいいと思います。例えば、ただの「整体院」だと抽象的過ぎて、目を留めてもらうのは難しいですよね。
あと僕自身がやっているのは、目に見えないものこそ大事にすること。例えばトイレ掃除やサロン内の整理整頓ですね。こういうことが疎かになると、手先も雑になってしまうので、外側だけでなく自分自身の内面も整えるようにしています。
最近はマーケティングをうまく活用して宣伝し、集客する人も多いですよね。もちろんそれ自体は悪くありませんが、内面が伴ってないといずれバレてしまうでしょうね。
――経営面ではどうですか?
いろいろな働き方がありますが、ビジネスとしてお金儲けがしたいのか、技術を追求していきたいのかは、早い段階ではっきり決めておいた方がいいと思います。
僕もビジネス展開しようと紆余曲折した時代がありましたが、今は技術の追求に重きを置いています。経営に関しては、その道のプロの方がいますし、そういった人の視点は治療家の視点とは全然違う。将来的に、僕はそういった方とチームを組んでやっていくことになるのではないかと思っています。
後編では、加藤さんの代表的な1日の流れや、この仕事のやりがい・魅力、未来の柔道整復師に向けたアドバイスを伺います。
取材・文/児玉知子
撮影/喜多二三雄